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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第95話・時を経て



今日はたまたま兼任社員として、

芳久がJYUERU MORIMOTOに出社していた。

昼休みに誰も居着かない、壊れかけた食堂の隅に隠れる様に、理香と芳久はいた。




「写真の件、ありがとう。おかげで ある事が知れた」

「そうか。また情報網を辿ってみるよ。佳代子さんという人は謎が多い。その分、怪しいんだ」

「………そうね」



理香は、鞄から本を、日記を取り出す。


「___これが、あの人が遺した日記よ。

誰にも見つからない様に細工した場所にあったの」

「__今は理香が持っているんだよね」

「……うん。あの人は知らないわ。私が勝手に持ち出した事は」


佳代子の日記を大事そうに持つ、

理香の眼差しは複雑化しぼんやりと憂いを帯びている。



理香は芳久に、佳代子を渡した。

自分自身の意見だけでは駄目だからだ。とても完璧にリサーチ出来ない。

芳久は人の感情を察するのにはプロ並みの能力を持っている。

青年は日記の文章を関心深く深く読んでいる。

そして読み終わり、少し首を傾げた。


「………少し、変じゃないかな。これ」

「………え?」


「ほら、ページが不規則に破れている箇所があるよね」

「ええ、それは私も気になっていたの」

「気になるな。これさ。佳代子さんが妹が怪しいって睨んだ次の日の紙は必ず破られているんだ」

「…………私はそこまで気付けなかった」

「何かあったんだよ。きっと社長にとって不都合な事が。

本を破ったのはあの人に決まっていると思う」


そう告げられ確認すると、

所々、本のページは、

根元から抉り取る様に破かれている。

それは佳代子が繭子の事に怪しんだ事に関して書いた後、必ずだ。

気付いて本を閉じた状態で見てみると少しながら凸凹が目立った。



この事が芳久は気掛かりになり、

理香も言われてみて初めて気付く。

日記を読み、事実を飲み込むだけで精一杯だったせいか、

その事は頭から飛んでいて、初耳だった。


繭子が持ち隠していたのだから、きっと繭子も読んでいるだろう。

知っている筈だ。自分自身の出生の秘密も、佳代子の複雑化した心情も。

だからこそ何か佳代子に悟られ、都合の悪い事だったから破り棄てた。

きっとそんな気がする。




「手がかりは、これだけかな?」

「いいえ。違ったわ」


芳久は首を傾ける。

佳代子の手がかりは日記だけと思い込んでいたが違った。



「____もう一つ、あったの」







_______ある令嬢の自室。




「___24日、社長は森本社長と会っています」

「そうなの…………」


お抱えの探偵に告げられた言葉に、彼女は落胆した。



渡された写真達。

喫茶店で、向かい合う様に座るのは実父である小野順一郎と森本繭子。

見た事もない朗らかな父親の表情を見て、千尋は憎悪と共に奥歯を噛み締めた。

こんな知らせは暫くなかったのに。



父親が不倫している事を知ったのは、中学生の頃だ。

相手は“ジュエリー界の女王”と言われたJYUERU MORIMOTOの女社長・森本 繭子。



詳しくは知らないが父親と彼女は、

自分自身が生まれる前からの関係だそうだ。

父親は母親よりも、彼女に執着している事は見るからに解る。

暫く会って居なかったが、最近父親は、森本繭子を見つけたらしい。


___過(よぎ)るのは、あの記憶。




中学生の時。

森本心菜という同級生がいた。

見るからに大人しい雰囲気と、愛らしい可憐な娘。

品行方正で常に成績は学年トップで成績優秀者。



しかし偶然に知ってしまった。




____森本心菜が、森本繭子の娘だと。




そう知ってから、感情が変わった。

あんたのせい。あんたの母親のせい。

何処にもぶつける事の出来ない怒りを千尋は、“いじめ”として心菜にぶつけた。


あんたの母親のせいで、父親を奪われた。

お陰で父親は森本繭子を溺愛し、娘である自分自身や母親は蚊帳の外だ。


森本心菜は優等生の塊だった。

けれどある点だけは見過ごせないところがあった。

それはある意味、誰もが見過ごしてしまうものの様な気がするが

心菜の弱味を探っていた千尋は見逃さなかった。


______それは可憐な顔立ちに浮かんだ剥がれはしない、憂いの顔付き。


心菜は優等生ながら、その顔立ちには“憂鬱”が浮かんでいた。

幾ら明るい表情を見せていても、その憂鬱が剥がれはしない。



あんたの母親は、ジュエリー界の女王で、

あんたはその令嬢で悠々と暮らしているのに。

なのに、何時もどうして苦労した様な疲れた様な顔をしている?

そんな彼女にも、腹が立った。




いじめは、やっては成らぬ事、犯罪だ。

けれどそう思う余裕は千尋にはなく、心菜をいじめる事で

漸く(ようやく)心のわだかまりが取れた気がして、

次第にその快感が止められなくなっていった。


彼女の面子(メンツ)に、優等生のレッテルに傷を付ける。

しかし千尋の(むご)い仕打ちに、心菜は何も言わなかった。

ただ静かに何も言わず語らず、いじめを受けるだけ。


それはそうだ。

自分自身には誰も逆らえない。

学校に多額の寄付金を捧げてきた資産家で、

社長令嬢である自分自身も、家も。心菜もそうだ。




そんな彼女は、高校卒業後に行方不明になってしまったらしい。

それから、ずっと行方不明のままで見つからず仕舞いだとか。


(何があったのかは知らないけれど)


けれど終わった事だ。

もう関係はない。“いじめ”は誰も知らない事であるし__。

あの記憶は、千尋の心の中だけで葬ってしまえば良い事だ。




帰り道。

JYUERU MORIMOTOからプランシャホテルがあるのは逆方向だ。

プランシャホテルはひっそりと郊外から外れた場所にあるので、

都心に本社を構えるJYUERU MORIMOTOからプランシャホテルに帰るにはバスが必要だ。


今日の勤務は長引き、

それから二人で込み入った話をしていた為に遅くなった。

芳久と理香は雛壇の如く並んで並んで座り、静かにバスに揺られている。

プランシャホテルに辿り着くには、終点地に下りないといけない。

終点に近付くにつれ、バスの乗客は誰も居らず、二人きりになった。




ふと、芳久は理香に視線を移す。

窓際に座る彼女は、ただ流れていく景色を見詰めている。

その横顔は綺麗で、何処か儚く刹那的だ。


(____なんか、変だ)



心が、疼く。


みるみる彼女は変貌を遂げていく、復讐鬼として。

あの頃の面影は、みるみる消えていくけれど、

椎野理香が此処にいる事は事実だ。



「___芳久? ………大丈夫?」

「___…………」



バスが揺れた瞬間に理香の華奢な肩に頭を預ける形となった。

不味いと思ったが、芳久はそのまま彼女の肩に持たれかかる。


彼女の繊細な声音は聞こえない振りをした。

目を閉して闇の中に居ると、みるみる疲れが押し寄せてくる。

何時も気を張り詰めている芳久にとって、彼女の存在感は安堵出来る。



彼女が変わってもいい。

自分自身の思いは葬る形になったとしても、

椎野理香の傍に居られるのなら。


(______あと少しだけ、許して欲しい)




本当は、最初出会っていた時から、惹かれていた。




(____愛してる)




口にはしないけれど、これからもずっと。



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