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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第93話・復讐者の憎悪、他者の詰め寄り



家に帰りポストを確認すると、茶封筒が入っていた。

何の記載も変哲もない封筒の中身を見ると、

数枚の写真と書類やメモ書きがあり目を通す。


“森本佳代子の写真と、

プランシャホテルが調べた身辺調査表を入れておく。

後は理香の好きにしてくれ。芳久”


協力者が居ると、心強い。

加えて芳久はプランシャホテルの跡取り息子。

誰よりもプランシャホテルの内情を知っている。


プランシャの内部はどれだけ望んでも自分自身は探れないので

秘密裏に青年に頼んでおいた。有難い事に青年の仕事は速い。



数枚同封された写真を見ると、

バイオリンを持ち、柔く控えめに微笑んでいる女性がいる。

理知的で清楚な顔立ちと雰囲気を伏せ持った控えめな女性。

バイオリンを手にした彼女の表情と姿には嘘偽りない。


そっと指でなぞり、

理香は彼女を見詰めると手と共に視線を落とした。


将来はバイオリンニストとして有望視され

私生活も勤務態度も真面目そのもので、浮わ付いた話は一つもない。

人間関係も限られていて、色恋沙汰の話も一切無し。

不真面目な面も一つもなく、その性格、それは白としか言えなかった。



森本佳代子。

その顔を何度見ても、その度にデジャウに襲われる。

それはまるで写真越しの自分自身を見ているようだった。



(_____そっくり)




彼女の、身は潔白だ。

でないとこんなに堂々としている訳がない。

それに清々しい表情を浮かべ心優しそうな彼女が、罪の重さに耐えられる筈がない。




(___彼女が白だったら、尚の事)



きっと、あれは不慮の事故なんかじゃない。

何かその裏にある筈だ。






(___そうよ。私は怯えなくていい。

私は変わった。怯える理由なんて何処にもないわ)


佳代子の死んでしまった真相を暴こうか。

佳代子を切り札に、悪魔____繭子に迫ればいい。

佳代子の事に身を乗り出せば、逃げれはしないだろう。




(_____もう怯えはしないわ。絶対に破滅へと追い込んでやる)








一人で外に出るのは、久方振りか。

ずっと椎野理香が傍に居て守っていてくれたからか、

こんなに一人歩きが恐怖心を(ともな)うものだったのか、とひしひしと実感している。



偽りで固めた格好で、

誰かに怯えなから歩き、なんとか店まで来た。

歩いて途中、記者に見付かってしまったらどうしすればいいのか、と怯えていた。

度胸と威勢が飛んだ悪女だった彼女には今、恐怖心、それしか浮かばない。




小野順一郎のストーカー染みた電話攻撃に

痺れを切らした繭子はようやく重い腰を上げて、彼に会う事にした。

彼は一歩を譲る気もない、その姿勢は曲げないらしい。



(けど何故、今更)


何の様で会うのか、何を話したいのか。

自分勝手で見切りを着け捨てた人間に、会いたくなかったが

このまま煩わしい電話攻撃に遭うのも、自分自身が無視するのももう勘弁だ。



決まった喫茶店。

喫茶店には独特なクラシックの曲が流れている。

本来ならぱ心落ち着くものだろうけれど、今の繭子にはそんな余裕はない。


決まった席に、順一郎はいた。

順一郎の目の前に繭子は現れると、サングラスを取る。


順一郎は、繭子が分からなかったらしい。

対面式の席の向こう側の席に繭子がいきなり現れ、一瞬驚いた表情を見せた。

自分自身の記憶にある森本繭子と、

目の前にいる女が森本繭子だとは連想出来なかったのだ。


「変わったな」

「___大きなお世話よ」



鬱陶しそうに繭子は言うと、順一郎と対面する様に座る。

順一郎は内心驚いていた。


自分自身の記憶にあるのは、

いつも変わらない威勢と覇気のある強気な森本繭子。

しかし今、目の前に居るのはだいぶ窶れ、疲れ切った森本繭子だ。まるで何かの憑依に遭ったかの様に威圧感も何もなく弱々しい。

……こんな彼女は、見た事はない。



連日の報道で、参っているのだろう。

しかしあれだけ気が強かった女が、一変してこんな姿を見せるとは以外だった。



「毎日毎日、電話して飽きないの。しつこいわね」

「そんな事言うなよ、心配してるんだ」

「……心配、ね」


あしらって、珈琲を飲む。


「早く帰りたいわ。早くして頂戴。用件は何なの?」

「そう冷たくするな。電話しても出ないから、会社までわざわざ足を運んだんぞ」


会社、と聞いて繭子の手が止まった。

(やが)て据わった目付きに変わり、順一郎を睨んだ。

執拗に会社まで来たのか。来てほしくなかったのに。



しぶとい男だ。何故、ここまで自分自身に執着するのだろう。


「どうして…」

「どうして? お前が電話に出ないからだ。

会社まで行けば会えると思ったんだがお前は居なかった」

「あたしの状況が分からない? 追われているのよ。

誰がこんな事をしたのか分からないけど、こんな不様な状態で

あたしが表に出れると思う? こんな無様な姿を見られるのは絶対に嫌よ」


会社まで来て、何を話したいのか。

こんな哀れな姿を世に晒す等、自分自身には出来ない。

自分自身はいつも完璧な社長で居なければならないのに。

こんな無様で哀れな姿を見せて同情される等、繭子にとっては何よりの屈辱だ。


(どうして、あたしがこんな目に遇わないといけないの)



「会社までお前に会いに行ったんだがな。会えなかった」


順一郎は目を伏せ、

視線を落とし残念そうな面持ちで彼は告げる。



そうだ。

電話に出ないと諦めて、あの日、繭子に会いに行った。

けれど会えなかったのだ。妻よりも愛した女を逃がすまいと

迷いも無く足を運んだのに、其処に会いたかった女は居なかった。


繭子は多少の苛立ちを覚えながら、

髪をかき上げた後、面倒臭そうに告げた。



「…………今は休暇を貰っているのよ。

まだ、体調も万全ではないから」


繭子の言葉に、順一郎は視線を向け、悟る。

休暇を貰っているとは初耳だ。けれど、だからこそあの女性が居た理由がようやく解った。

繭子が何気なく言った言葉に、ようやく順一郎は身を乗り出す。



「そうか、だったら“彼女がいる理由”が解った」

「__え?」

「お前は休暇を貰っているんだろう。

会社に行ったら『社長代理』という人に会ったんだ」

「_____………」



“彼女”の事か。

そう言えば、前に彼女に会って、自分自身と雰囲気が似てるだのなんだのと騒いで踊らされた記憶が脳裏をよぎる。



「それが何よ。どうかしたの」



繭子は、態度を変えずに言う。

しかし、これが間違いだった。



「お前は、自分自身の立場に執着するだろ。

なのにどうして他人に自分自身の大事なポストを渡した?」

「__渡した? 人聞き悪いわね」


繭子が、自分自身の立場を渡す筈がない。

渡したと言った瞬間に、繭子の目、顔の色が変わった。

その顔色は強気でかなり誇らしげだ。



(________人聞き悪い)


椎野理香に、社長のポストを渡した訳ではない。

自分自身が与し貸しえているのだ。小娘に“社長というポスト”を。

第一自分自身以上の技量を持ち勝る人間なんていない。

そんな根拠のない絶対的な自信は、繭子の心には圧倒的に存在する。


「あたしは貸しているのよ? あの子に社長代理の座を」

「貸している? 誰にも自分自身の立場を譲りたくないお前がか。

じゃあ、一つ聞こう。彼女は誰だ?」



椎野 理香。

彼女は“森本 繭子にとって” 何者だ?



「お前が、何処の誰かも分からない馬の骨に自分自身の役職を任せるか。__お前はしないだろう。

彼女は誰だ? お前と何の関係がある人だ?」

「__それは貴方に関係があるの?」



強く詰め寄る順一郎に、冷たく繭子はそう返す。

繭子の中でもう小野順一郎とは縁切りした仲だ。

何も関係ないのに、彼はどうしてここまで干渉し、知りたがるのだろう。




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