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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第8章・追う度に深まる謎
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第91話・翻弄されていく悪魔、操る天使

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。


今回から

理香が復帰、新章がスタートします。



コツコツ、と靴音が鳴る。

頬を撫でる寒さにマフラーで顔を竦めつつ、視線を伏せた。



理香は閑静な無人駅に居た。

以前、協力者である芳久と偵察にきた場所に、一人で。

人気のない静観な町の無人駅には自分自身以外は誰もいない。

否。森本佳代子の日記を読み、事実を知った衝動で赴くままに来てしまった、というのが正しい。



森本佳代子が生涯を過ごした地。

佳代子はバイオリンニストの夢を欲深き母親に捨てられかけ、

全てに見切りを付けてから、家を出る直前に不慮の事故死を遂げた。

………なんとも言えない。薄幸な女性だ。



(…………生き様さえも似てるなんて、なんだか奇遇だわ)



芳久に言われた通りだ。

理香は、森本佳代子に外見も中身もそっくりだと。

まさか生き様まで一緒になるとは、思いもよらずにだ。


だが、

これを簡単に「事故死」と片付けて良いのか。


日記を読み終わってから、沸々と疑問は残った。

彼女の異父妹であるあの悪魔__森本繭子がどうも怪しい。

佳代子は、全てを見透かしていた文面を見たからこそ、

その思いはどんどん膨らんでいく。



以前、来た道を手繰たぐりながら、あの更地まで来た。



ここだけが空き土地。

佳代子が事故死した後に不気味な事故死した現場だと噂になり、

この土地には人が寄り付かなくなりどうする事もないらしい。

もう誰も来ないであろう更地を前に呆然と立ち尽くし、

理香はただそれを見詰めていた。


佳代子も、森本家と縁を切ろうとした。

けれど家を出る直前に在宅内で事故に遭い、命を落とした。

しかし、これは偶然だろうか。



(それを知った何者かが、佳代子の行動を阻止した?)


偶然というには、タイミングが良過ぎではないか。

思考を巡らせれば巡らせる程に、佳代子は事故死ではなく

必然的に殺められたのでは、と理香は辿り着いた。


佳代子を、

佳代子の行く末を、知っていた誰か。


(だとしたら、誰?)



佳代子の目標を奪い、会社を押し付け様とした母親。

佳代子に嫉妬心を募らせていた、異父妹。


二人のうちの、どちらか。

けれど、やはり理香が思うのは____



(___繭子ね?)



悪魔のやり方に、疑う暇もない。

きっとあの悪魔だ。佳代子を、叔母を、殺めたのは。




_______森本家、リビングルーム。



繭子は、携帯端末に手を伸ばした。

画面には、ずらりと不在着信の知らせが多くを占めている。

繭子は不快な面持ちで皺を寄せながら、携帯端末を睨む。


小野 順一郎。


不在着信の相手だ。

否、受け取りたくない相手だからと居留守を使ったという理由もある。

今更会いたくない相手に見つかってしまったのは

自分自身の落ち度だが、繭子は自分自身の落ち度も認めたくはなかった。

今更、接点を付けてどうしようというのか。


それに、今は男に構っている暇も余裕もない。

今の繭子の精神はボロボロの布切れ状態。

悪事を企もうとする精神的余裕はない。


一度の落ち度も、失敗も挫折も無く

あれだけ、頑張り積み上げてきた華やかな地位と名声。

全てが順調に上手く行っていたと思っていたのに。

全てを計算を通りにミスを犯した事も覚えも無かったのに

何故、今更こんな事になってしまったのか。


誰だ。

一体、誰がこんなに自分を惨めな思いをさせるのか。

出てこい。自分自身をここまで突き落とした人間よ。



とある喫茶店。

シルクハットを被った中年男性は告げる。


「貴女が求めていた情報は、こちらとなります」

「………ありがとうございます」


理香は少し分厚い茶封筒を受け取った。

自分自身で自身の素性を調べる人間は、そうもいないだろう。

これは椎野理香ではなく、森本心菜のものだ。


何も知らない他人のふりをして

『娘を探している森本社長の代わりに

森本繭子の娘、森本心菜の行方と素性を知りたい』と言えば

職権乱用に当たるのだが、探偵は容易く、すぐに動いてくれた。


【氏名:森本 心菜

生年月日:19XX年 1月14日生 血液型:A型(RH+)

身長:154cm


学歴:私立○○附属◯◯女学園 (高等科卒業)

出身地:◯◯県 ◯◯市◯◯◯町

本籍地:◯◯県 ◯◯市◯◯◯町(同一)


母親:森本 繭子


高校卒業後の夜に、忽然と行方不明。

手掛かりを探しましたが、森本心菜についての有力情報はありません】



闇に捨てた過去。

森本心菜の情報が子苫ことこまかに記載されている。

粉々にして全てを塗り替えたが、森本繭子の一人娘、

JYUERU MORIMOTOの令嬢となれば、隠されていたここまで湧き出てくる。


探偵は少し身を乗り出しつつ、告げた。


「彼女に関する目撃情報も調べましたが、情報は一切ありませんでした。

品行方正で母親思いな彼女が

家出する理由もないと聞きましたが、

此処まで一切情報がないというのは不思議と最初から居なかったかの様です。誘拐されたという話もお聞きましたが。

部屋や学校の身辺整理されていたという話を聞きました」

「………事件性はありますか?」

「部屋や自分自身の身辺整理をしていた、という面では家出の説が高いかと。


生きていて、今に至れば貴女くらいの年頃でしょうね」

「………そうですか」



捨てた自分自身の経歴や写真を

内心、冷ややかな眼差しで見詰めながら理香は嘲笑う。

嗚呼、弱々しい、森本繭子の操り人形がいる。


ただ、どれだけ敏腕の探偵でも警察でも

突然行方不明となった森本繭子社長の娘・森本心菜は見つけ出す事は出来ない。

それはどうしてもだ。



椎野理香の素性も、経歴や戸籍も、全て完璧に作られている。

誰もそうそう椎野理香が、森本繭子の娘で森本心菜だとも、

暴けやしない。完璧に造り上げた“椎野理香”という人格は覆せない。


けれどもし森本心菜が、

ここに居ると言えば相手は一体、どんな顔をするのだろうか。


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