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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第7_特別章・謎めいた日記
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第88話・揺れる歯車





繭子の出生の秘密を知ってから、

佳代子は表には出さないが、内心 母親を軽蔑する様になった。


自分自身の家系だけに異常に執着する女。

娘達を比べ、どちらが優秀で森本の女に相応しいのか探る女。

計算付くで世間知らずの割に、世間体を気にする母親。


反対に、佳代子は何処かで薄々気付く。

繭子に避けられている事を。


理由は解っている。

探すも何も理由は一つしか浮かばなかった。

母親からの眼差しが自分自身にばかり寄せられているせいだ。

父親は違えど、同じ姉妹なのに、森本家の血を引いているかにこだわり比べたがる。



けれど。何処かで不安が募る。


繭子が自分自身の出生の秘密を知ってしまったのかと。


そう思ったが、佳代子はすぐに掻き消した。

あれは自分自身の自業自得で知ってしまった事だ。

DNA鑑定書の結果も、母親が綴られていた日記の言葉も。

そんなの父親が見て驚愕し、バレたら自分自身の立場が困る様な真実を晒しはしない。


それに

母親の物は簡単に見つけられないだろうし__。



(____ごめんなさい)


自分自身が悪い。

口にはしないけれど、佳代子は異父妹への詫びを繰り返す。






次の演奏会で演奏する楽譜を見詰めながら

自室で練習に、バイオリンを引いていた時。

微かに空けていたドアから、其処から誰かが走る様に横切った。

…………繭子だ。


バイオリンを演奏していた手が自然と止まり

佳代子の脳裏にふと思いがよぎる。




(___繭子は、母さんに似た気がする)



自分自身は物静かで、あまり話術も得意ではない。

人見知りが激しい一面は今でも拭えない。

気付けばバイオリンの演奏に夢中になっているか、読書に浸るか、二つだけだ。


最近は、繭子の服装やメイクが派手になった。

気付けば何処かに遊びに行っている。



繭子は正反対で話術を使い熟し、人を取り巻く才能がある。

それは人を惹き付ける魅力があるという性格を表していた。

…………其処を見れば、その姿は母親と重なる。

顔立ちも似ている。端から見ればそっくりだ。


母親に、繭子は似た。

母親は才能を有した森本家の人間に執着するけれど、

本当に母親に似たのは、森本家にそぐう人間は繭子の方だ。

なのに。


(反対に自分は誰に似たのだろう?)


母親にも似ていない。森本家にそぐう人間でもない。

自分自身こそ、森本家の血を通っているのか不思議だった。




それは、ある日突然だった。

『会社を作る』と母親が言い出したのは。


どうしても再び

森本家の名を知らしめたいらしい。

母親の執着は固く、そしてその事にしか拘りを見せない事に

佳代子は、酷く執着を見せる人間は恐ろしいとさえ感じた。


会社を建てる事に繭子は、乗り気だった。


内心、佳代子は安心していた。

やる気のある繭子がやれば良いのだ。これで初めて彼女に注目が向けられればいい。

そうすれば少しは自分自身への重圧も軽くなり、

繭子も陽の目を見る事がやっと果たされる。


そうなれば良いのだ。

乗り気でやりたい人間がやれば良いと思っていた矢先。






「こんにちは」



劇団での演奏会が近付いている。

いつも通り、所属している音楽劇団に来た。

けれど何故か周りは佳代子を見て驚いて表情をして固まっている。

佳代子はその自分自身に注がれている視線の意味が何がなんだか分からない。


すると、

最も目を見開いて驚いていた主宰が駆け寄ってきた。



「森本さん、どうして来たの?」

「………え」


何故、来たのかと言われて佳代子は固まる。

どういう事だろう。自分自身はいつも通りに来ただけなのに。

どういう事ですか?と聞き返してみれば、団長はまた目から鱗が落ちた、という表情を見せてから__言った。



「……貴女、自分自身の意思で劇団を退団したんじゃないの」



「……はい?」


佳代子は、固まる。




劇団を退団? 自分自身の意思で?




どういう事なのか。

まるで頭から、冷水を浴びせられた衝撃が走った。






「母さん」




急いで家に帰り、佳代子は母親に駆け寄った。

母親は優雅にお茶を飲みながら婦人雑誌を読んでいる。


「……劇団に退団届を出したって、どういう事……?」



思わず、声が震える。



『昨日だったわ。

貴女のお母様がいらっしゃって、これからは仕事に専念したいから

貴女の意思で劇団を退団したいって、退団届を出して行ったのよ』


信じられない事だった。

バイオリンニストとしての才能を認められて、

目標に近付いていると思っていたのに。

当然、佳代子はバイオリンを辞めたいなんて一言も言ってはいない。

自分自身にそんな意思は何処にもない。



佳代子に無断で、母親が退団届を勝手に出していた。




「私、今までバイオリンを辞めたいなんて

一言も言っていないでしょう? 寧ろバイオリンニストになる目標を追っていたのに。それは母さんも知ってた筈ですよね……」


今まで、その為に全てをバイオリンに注いでいたのに。

そんな娘の言葉に、母親は呆れた面持ちをして佳代子を見た。



「……まだ、そんな事を言ってるの」

「………え?」


手の平を返した母親の言葉に、佳代子は呆気に取られる。



「貴女がバイオリンニストになりたい事は

知っていたけど、もう違うのよ。

割り切って今までの、その目標はもう捨てなさい」

「………でも、母さん。私はもう子供じゃないのよ。

自分自身の人生を私自身が決めても良いでしょう?」

「駄目よ」


佳代子の言葉を、母親はあっさりと打ち砕く。

母親から放たれた冷たい言葉に、佳代子は茫然自失とした。



(__________どうして。何故?)



黙り込んだ佳代子に、母親は言う。



「言ったでしょ。会社を立ち上げるって。

貴女は会社の一員となって貰わないといけないのよ。

貴女に自分自身で劇団に退団届を出せって言っても出さないだろうから、わざわざ私が出したのよ。


もう諦めが付いたでしょ。

バイオリンニストの夢も、劇団も今勤めている、

プランシャホテルも辞めて、森本が作る会社に入って頂戴ね」


世の中は理不尽な事ばかりだと実感する。

昨日や今日で始めた事じゃない。ずっと幼い頃から打ち込んできた事なのに。

才能もやっと認められた。それを諦めろと?


(……………出来ない)


(今更、バイオリンを捨てるなんて出来ないわ)


そんな意図も簡単に諦めろと、捨てろと言われても。

ずっと夢だった、バイオリンニストの夢を。



そんな事、突然言われても出来やしない。




【補足】

佳代子はストレート黒髪の清楚系な女性、

繭子は赤髪の巻き髪の服装共に派手な女性という感じです。


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