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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第7_特別章・謎めいた日記
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第86話・薄幸天使の思い


今回から、過去に飛びます。


主に佳代子と、繭子の話です。


私自身、小説を書くという自体

再開したてで、慣れていない面がある事は

申し訳ありません。




誰だったか、

先に苦労した分、後で幸せはやってくると言っていた。

それが本当か否か、解らないままだけれど。



(………良い陽気)


暖かな季節。

自然が見せる、視界に頬を緩ませた。


広々とした開放的な壮大な庭。

その敷地にあるのは花壇とそれに咲く慎ましやかな花達。

ゆらり、と風が吹いて淡い花が揺れる。


その緩やかな様子を見、

微笑んだ彼女はそっとバイオリンを備える。

心の中で一つ呼吸を揃えた後、(やが)て演奏を始めた。



暖かな陽の光り。

綺麗で緩やかで安らぎのある音色が、彼女の持つ腕から奏でられる。

静かに響き渡る音響が周りの空気を揺さぶった。

穏やかな音色に心為しか、花々の表情も華やかなで輝いている。


優しくも柔い表情を

浮かべながらバイオリンを奏でている彼女___森本佳代子。



風に揺れたさらさらの長い髪。

目鼻立ちがくっきりとして端正に整いながらも

何処か儚げと優しさを伏せ持った顔立ちと雰囲気を伏せ持っていた。


それはまるで

“優しさ”が実体となった様な容姿を持っていた。




その音色に、呆然と見詰めるのは“少女”。

綺麗な音色。演奏者の美しい容姿も相まって実に絵になるモノだったが、


次第に少女の顔は険しくなり、

その心には自然と憎悪が増殖していく。

彼女の心中は決して穏やかとは言えないものだ。


ぎり、と奥歯を噛み締める。



憎い。嫌い。

一層の事、出来るのならば、

この彼女が作り出したこの世界を壊してしまいたい。



「……繭子?」

「___っ」



日だまりの中で穏やかな世界観を作り演奏していた彼女は、

自身に向けられた視線を気付き、振り向いて少女の方へと視線を向ける。

演奏の手を止めてしまったが為に、その瞬間、彼女が作り出した世界観は消えた。


優しげな、蜂蜜色の双眸。

それに何も言えなくなったが、心の中は憎悪で埋め尽くされる。



二人は、姉妹だ。

厳密に姉妹というには、一般的常識には当てはまらないのけれど。





「庭で演奏していたでしょう。佳代子」



食卓で家族団欒(だんらん)の時、食事を取っていた際、

母親の一言に、佳代子は、はっとする。



「………はい。良い陽気だったから庭で演奏したくて」

「近所の人に言われてね。『森本さんの家からバイオリンの音が聞こえていました』って」

「………近所迷惑でしたか」

「いいえ、褒めていたわ。素敵な演奏だったって。

それってうちには素敵な娘が居るって意味でしょう………良かったのよ」

「……そう、ですか」


母娘の会話は何処か他人行儀で、佳代子は視線を伏せた。

内に秘めた心境が、黒く渦を巻いて複雑化していく。



(不思議。本来ならば、誉められたら、嬉しい筈なのに)



貴女に誉められても、嬉しくない。



寧ろそんな期待に満ちた、

希望に溢れんばかりの眼差しの裏に

隠された本当の意味を佳代子は知っていた。




森本家。

森本家は、由緒正しき良家だったらしい。

女系でその家系に居る女性は何かしら天性の才能のある人達ばかり。



しかし。

それは、遥か彼方の昔の話だ。

良家としては静かに終焉を告げて、今では一般的な、普通の家庭でしかない。語らないと分からない程だ。


母親にとって、自分自身の生まれた家は何よりもの誇りらしく

森本家が良家として認知されない事を何よりもの嘆きであり憤りを感じているのだとか。

姉妹の母親は、自分自身の家柄と、世間体に何よりも終着していた。

現に昔の事なのに、終わりを告げた肩書きしか眼中にない。


森本家に、恥をかかす。


森本家の名に、傷を付ける。




そんな事、許されやしない。



母親が出て行って緊張感が解けた後

ふと、目を上げた瞬間に、佳代子ははっとする。

対面式テーブルの向こう側、母の隣に座っている、

少女が何かを見据える様に、此方を__自分自身を凝視している。


当たり前だが、繭子に聞かれていた。

けれども表情からして、彼女の機嫌を逆撫でした事は明白だったろう。


(でしゃばる真似なんて、しない方が良かった」


些細な事なのかも知れないが、佳代子は気になってしまう。

ごめん、と内心で呟く。そんな中、

彼女の腕に切り傷がある事に気付いた。

傷は深く、血が滲んでいる。痛そうだ。





「……繭子、ちょっと良い?」


食事を終えて、廊下に居た彼女を捕まえる。



「………腕の手当てさせてくれる?」


繭子は、煩わしそうな面持ちだ。

繭子は気難しくて、何処かか高飛車な性格。

そんな彼女に、佳代子は淡い微笑を崩さない。

煩わしそうな表情で繭子は、告げた。




「良いわよ」

「じゃあ、私の部屋に来て?」






決して表には出さないが

佳代子にとって、妹の繭子の存在は複雑だ。

自分自身と血を分けた妹というのは代わりのない事なのだが、

自分自身とは何もかも違う。


容姿も、性格も。

何もかも違っていて、姉妹だが全く似ていない。

似ている所を探せ、という方が無茶な話であるだろう。

それと佳代子が妹・繭子を複雑に思うのは、もっと他の事情だ。


きっと、自分自身と母親以外、誰も知らない。

妹である繭子の秘密を、佳代子は知っていた。




繭子は、腹違いの__妹。

即ち自分自身とは、異父姉妹になってしまう。






母親が、父親と娘を裏切り不倫していた。




佳代子はその事実を純粋に、何も知らなかった。



7歳離れた、異父妹のこと。



自分自身もこの目で見たのだ。

母親が、知らない男と親密そうにしている所を。

仕舞いには、繭子の父親とのDNA鑑定書を偶然、見つけてしまった事。


母親は偽った。

繭子は、佳代子の父親の子だとして。

父親は疑わなかった。故に何処かで騙されている。


戸籍上は、佳代子の父親が、繭子の父親。

けれど、事実は違う。



母親は、何処かで差別しているらしい。

佳代子は本夫の娘で、繭子は愛人との間に生まれた娘だと。

どちらも己の腹を痛めて産んだ事は代わりない筈なのに、

何かにつけて差を、付けたがる。



こんな、誰も知らない事実を



自分自身が望んで、見たくて見た訳ではない。



知りたくて、知りたかった事じゃない。



繭子は、冷遇されている。

母親は才能があるモノにしか、視線を向けやしない。

自分自身の存在さえ無かったら、繭子は自分自身の立場も軽くなるだろうに。


自分自身の存在が、妹の存在を潰しているのだ。

母親は、何かを比べて森本家の家系の名を出し、そのせいにしたがる。



それに、

それだけじゃない。


繭子が、生まれた理由を。





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