第83話・悪魔が決めた契り
もし突然、世界が変わって
目の前の現実に、最初に驚くとしたら何に驚くのだろう。
飛行機の機内の窓から見える空を見ながら
尾嶋博人は閉じようとした読書していた本に挟んであった写真に不意に目が止まる。
本に挟んであった写真には、制服姿の可憐な顔立ちをした少女が優しく控えめに頬笑んでいる。
自然と頬を緩め、その写真を見届けて、本を閉じた。
青年にとって今の心の拠り所は、彼女だけ。
……写真越しに見詰める事しか出来ない、もうすぐ長旅が終わる。
JYUERU MORIMOTO。
ジュエリー界のトップに君臨するジュエリー会社。
そのご令嬢と婚約すると決まったのは、約半年前の事だった。
人が自分自身を見れば、
何処にもいる平凡な青年に見えるだろう。
けれど数年前に弟が病で倒れた事をきっかけに
尾嶋家は急変した。
母親は付きっきりで弟の看病にあたり
父親と自分自身は少しでも治療費を稼ぐ為に働いている。
治療費は膨大だ。加えて入院費も必要になる。
その為に就職先も当時から倒産する事はないと唱われた会社・JYUERU MORIMOTOに入社した。
無遅刻・無欠席。
仕事態度が真面目そのもので、優秀な能力がある。
そんな自分自身の才能と成績を気に行ってくれた女社長は
いつしか自分自身を気に止めてくれ、可愛がってくれる様になった。
そして彼女は博人にある提案を寄越したのだ。
「あのね。本当はあたしには一人娘がいるのよ」
社長に一人娘が居るというのは初耳だ。
同時に社長が一人の親だったという事実も意外に思う。
娘は“心の菜”と書いて、心菜と言うそうだ。
心が優しく育つ菜の様にと、社長が名付けたという。
しかし彼女は今、女社長の手元には居ない。
12年前、女社長の娘は事故で行方不明で、
社長は娘を捜しているが、全く手掛かりすら掴めないという。
だがめげずに今も行方不明になってしまった娘を社長は捜しているだと語った。
早く見つかって欲しい。会いたいと、
女社長は言って嘆いていた。
何故、自分自身にそんな話を?とも思ったが
最初はほんの、単なる雑談の一部だと思っていた。しかし。
「尾嶋さん。あなた、心菜と結婚しないかしら」
それは、唐突だった。
女社長によれば
今のうちに娘の許嫁、婚約者を決めて
一人しかいない娘を自分自身が安心出来る相手に任せたいらしい。
婚約者の一番の条件は、森本家の婿養子となる事。
対して婿養子になった場合は、ある対価が貰う事が出来る。
「貴方が婿ならば、あたしは安心だわ」
くすくす、と口元を押さえながら、女社長は微笑む。
一瞬呆然としたが、けれど拒否しようとは思えない。
目をかけてくれていた女社長。頼みは断れない気がしたからだ。
それに莫大な富と権力のを持つ女社長の婿でいれば、
(_____自分自身も家族も安泰だろう?)
そんな野望にも似た考えが浮かんだ。
それに何よりも、
博人は女社長の娘を見た瞬間に博人は一目惚れしてしまった。
写真を見せられた瞬間、その清楚さを兼ね添えた雰囲気や
可憐な整った顔立ちをした少女。
現在は行方不明になってしまっているが、
心菜が見つかり帰り次第、自分自身は彼女と結婚する。
それが決まった。
連日の報道で、JYUERU MORIMOTOの不正が次々と、
更には森本繭子のスキャンダルまで。
JYUERU MORIMOTOは下落の道を辿るばかりだ
あの勢いのあった面影はもう存在しない。
会社はどうなるのだろうかと思う。
もし会社が倒産してしまったら?
そうなったら、自分自身も、家族も路頭に迷う事になる。
年老いた父親に負担をかけるばかりじゃ居られない。
長男で若い、自分自身がしっかりしないと。
だがそんな不安は首を横に振って掻き消した。
気を引き締めていないと。
自分自身はもう森本心菜の婚約者なのだから。
それに森本家は代々続く資産家だと聞いた。
会社が倒産しても代々、富の蓄えがあるなら大丈夫だろう。
彼女を待ち続ける。その存在を知ってから
ずっと彼女への思いは深まる一方で、冷める事はなかった。
心菜を通して軈て義母である繭子と親しくなっていく。
それは彼女のお陰だと感じた。
博人は心菜を待ち続け、結婚する。
その思いは変わる事はない。
(大丈夫だ。彼女だけを考えよう)
せめて
たくましい姿で、彼女が惚れる様な男になっていよう。
日本の地に着いたら、まず森本繭子に会わないと。
今日からまたJYUERU MORIMOTO社員へ戻るのだから。
報道の影響もあって当然だが
JYUERU MORIMOTOの業績は、宜しくはない。
営業業績のグラフを見詰めながら理香は額を指先で押さえながら今までの営業業績、水増しされたグラフを戻せば、
其処には不景気の波に飲まれた成績が並んでいる。
グラフの水増し、改竄は辿ればもう数十年間に及ぶ。
自分自身の懐を満たし、周りは完全に欺いてきた。
欲深き悪女のやりそうな事だ。
(所詮は貴女の自己満足でしかなかった訳ね)
そう思って、理香は鼻で嘲笑った。
悪魔の欲望を知る度に心がみるみる呆れ冷めていく。
資料を一通り目を通した後で、元の棚に戻す。
そんな時、棚の奥行きに何かがある事に気付いた。
少し背がある四角い何か。棚の色と同色だからか気付きにくい。
けれども棚と何かを違う言葉は悟る。
否、決して一目では分からないだろう。
(……………………?)
そう思った時には手が伸びて、手に取る。
(……………本?)
埃被った箇所を、手で叩いて払う。
埃被ったそれは、アンティークを連想させる少し分厚めな丈夫な本だった。
紙がパサつき紙が色褪せている事から
結構、予想するに昔の物で間違いないだろう。だが、これはなのだろうか。
ふと、中身を覗いて見れば
其処には呆気に取られる様な、事実があった。
ご無沙汰しております。
作者の諸事情により執筆活動を
遠ざかっていましたが、これから
また更新したいと思います。
突然、更新が止まってしまった事
申し訳ありませんでした。




