第82話・復讐は彼女の救いへ
ずっと歯向いたかった。
けれどそれを押し殺して、子供の自分自身には何も出来ないと思って諦めてきた。
でももう違う。大人になり自立して全てを変えた今の自分自身は
母親という悪魔に歯向う盾も攻撃も備えているのだから。
もう恐るモノなんてない。
「社長室から見晴らしは良かったのね。知らなかったわ」
遠い空が見える。
今まで知らなかっただけで、見晴らしは結構なモノだ。
その景色に微笑みながらも、相変わらず心の底では自分自身はずっと嘲笑っている。
もう一滴残らず全部奪い取って仕舞おう。
自分自身を操ろうとした哀れな悪魔から。
(ねえ。
残念ね。繭子は私を操ろうと此処へ引き寄せたけれど
貴女を操り全てを奪うのは、私の番よ。今から覚悟でも据えておいて?)
表向きの社長とは言え、基本は仕事がない。
企画プランのリーダーとして働きつつ、裏の自分自身は社長室の責任者と守衛の役割だ。
けれどこの社長室に居座るのは理香にとって、とても都合が良かった。
言わば悪魔の宝庫。探せば悪魔の目論見や計画が宝の様に出て来て止まない。
まだ繭子が欲望の社長として健在だった頃の企画案が
机の引き出しからは出て来ては理香は憂いのある眼差しで見詰めて、それらをコピーし懐入れていた。
これは、物的証拠だ。
物理的な証拠がある方が出版社にリークする程、有利になるだろう。
悪魔の独自の企画案には、繭子の目論見が直筆で書かれてある。
プランシャホテルとの協同ブランドとの計画や独自の見方。
しかし驚いたのはauroraとの契約以外に目を付けていた会社が多数あり
"自分自身の利益を考えて"複数の会社を見張って最終的にauroraを選んだらしい。
森本繭子は、色々な会社社長に媚びを売っていた。
自分の玩具にする為。膨大なE-Mailの数々を各社に送っていた履歴。
其処には親密を深める為に会社の社長と密会した様な文章もチラホラ見られる。
理香は嘲笑う。如何にもあの女の考えそうな事だ。
全てコピーを取って置いた。
これは必要な書類群。あの女、悪魔を潰す為の材料。
「さて…と」
そろそろ猶予期間も終焉してしまおうか。
もう良い。十分休んだだろう。これで終わりだと思っている様だが
理香はそんな簡単に終焉にしたりしない。
前回はこの会社のスキャンダラスを
編集者 マスコミにリークしたけれど今度は……。
一度に全部、出してしまうのは惜しい。
集めた情報は小出しにして世間に女社長の詐称の数々の打撃を与えなければ。
報道が沈静化した頃にまた新たな情報を出して世間に注目を集めたら良い。
(もっとあの悪魔に苦痛を与えて、踠き苦しんだら良いのよ)
今の理香にとって、復讐は自分の救いに変わって行った。
今は復讐の事が思考の大半を占めている。悪魔を追い詰める事が言わば生き甲斐。
もう一度、社員の予定に確認する。
其処でふと理香が目を止めたのは1箇所。
ある部署の社員が、海外にある支社の研修を終えて帰国するのが今日だ。
海外でのノウハウを積んだレポートを提出する為に会社を訪れるという補足が示してあった。
…………きっとこのレポートも横取り自分自身の利益にするのであろうが。
その氏名の欄には、“尾嶋 博人”とかかれてあった。
青年は溜め息を吐く。
休憩室は何だか和気藹々(わきあいあい)としている。
そんな中で隅に置かれたテーブルセットの椅子に座り込み、佇んでいる青年。
和気藹々としながら和やかな社内の休憩室でコーヒーを頂く昼下がり。
あの女社長が捜している一人娘であるご令嬢は見つかっただろうか。
彼の手に握られたのは写真。まだ幼さが残る可憐な少女が写っている。
それはいずれ自分自身と婚約者になる彼女だ。
その姿に少し頰を緩ませながらも少しの不安が心に過ぎった。
JYUERU MORIMOTOから暫く修行期間として、海外のジュエリー支社に勤めた。
けれど其処での修業中、日本から入ったニュースに博人は驚きを隠せない。
____________JYUERU MORIMOTOが経営業績を改竄。
____________JYUERU MORIMOTOの女社長・森本 繭子は
提携経営先のプランシャホテルを裏切り、他の会社と提携経営を結ぼうとした。
海外のジュエリー支社は、
日本のジュエリー社が起こしたスキャンダラスに
注目の的になり話題が飛び交う。自分自身が居ない間に
JYUERU MORIMOTOの女社長の不祥事問題が暴露されている。
それは社長に目を掛けられて来た博人にとってはショックだった。
社長は大丈夫だろうかと
何度も電話を掛けたが、繋がらない。
ジュエリー支社の海外ニュースサイトで見た謝罪会見での
社長の姿はだいぶ窶れていて博人は心配になった。
(今、日本でJYUERU MORIMOTOで一体 何が起こっているんだ)
そう思いながらも青年には心配以外、何も出来ない。
もうすぐ任期を終える。
だが日本へと帰りを望む青年には何も分からない事情。
風の頼りに営業停止から再開したという話は聞いたが……。
博人はなんとなく
今さっき飲んだブラックコーヒーの味わいに何かがあると感じた。




