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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第7章・数々の謎、壊れ動き始めた歯車
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第81話・新事実を互いに知る復讐者と協力者



目の前の鏡を見ながら、スーツに着替える。

いつもと違う。ネクタイを調整しながら芳久は緊張していた。

身に付けるスーツもネクタイも何時もとは全く違うのは、

“この日の為”にと用意されたスーツもネクタイも、

全て芳久に合わせたオーダーメイドのスーツだからか。




普段ならば、こんな力量の入った事はしない。

だが”プランシャホテルの後継者”である立場であるから。

前に父親に高城家御用達の、スーツ店に連れて行かれた事があった。

不意に振り返ってみれぱ、すべてはこの日の為だと悟る。


そして先日、理事長から渡されたのはとある箱。


「こないだ仕立てたスーツが、届いた。

これを来てJYUERU MORIMOTOへ出社しろ。お前は私の後継ぎだ。第一印象は大事だからな」

「分かりました」



何故ならば、今日は兼任社員として出勤するからだ。

初めて行く会社。JYUERU MORIMOTO。


当然、真新しいスーツはまだ体に馴染まない。

気を引き締める為にもスーツの他にも初めて訪ねる場所で身嗜みにはかなりの気を配ったつもりだ。

今日生まれて初めて、芳久はプランシャホテルの縛りから外へ出て行く。



いきなりの営業再開の宣告に驚いたが、

これも社長が回復したという事なんだろう。

森本繭子の事はニュース越しで見たのが初めてたが、

どんな人物なのだろうか。そして理香はどんな様子なんだろう。密かに芳久はそう思っていた。


JYUERU MORIMOTOに足を運べば、ジュエリー感謝祭とあって

ロビーから派手に煌びやかな装飾と雰囲気に圧倒されてしまう。

ジュエリー界トップの存在と唱われる影響か、


他のジュエリー会社よりも

少し煌びやかで装飾が多い気がするけれども

良くも悪くもプランシャホテルしか知らない芳久にとっては新鮮そのものだった。


受付のロビーで一言言うと、先ずは社長室から案内され

仕事の事、配属課や自分自身の名札等を社長から直々渡されるという事らしい。

社長は最上階の奥。地図を渡されて行く様に言われてその通りに進む。



場所に着いたところで、コンコンとノックを数回。

はいと言われて、芳久は緊張混じりにドア越し居る社長へと声をかける。



「すみません。おはようございます。

今日からお世話になります、兼任社員の___高城です」



(………高城)


その声を聞いて、心が強張る。が、社長のプライドをかけた。

彼の事は知っている。今日、初めて知る事になったのだから。



「どうぞ。お入り下さい」


その刹那。

芳久はドア越しの声が何処かで

聞き慣れたモノだと気付く。誰かの声に似ているのだ。

ドアを開けて社長室べと入った瞬間、芳久は驚き共に凍り着いた。


社長室の椅子に座って陣取っている人物。

長い髪を後ろに纏めて、何処か意味有りげな面持ちと雰囲気を纏う彼女。

これは現実なのか。それとも自分がまだ何処かで眠って夢の中なのか。


(これは一体、どういう事なんだ?)


目の前に居たのは、椎野 理香だった。



芳久を見た、理香も驚きを隠せない。

目の前にはエールウェディング課の同僚であり協力者が居る。

この瞬間、まるで一瞬、世界の時間が止まった様に感じた。



(彼も兼任社員だったの?)



その割には今まで此処では姿を見なかったのに。

理香も芳久も驚いたままだったが理香は平静を装い、

“プランシャホテル エールウェディング課”のウェディングプランナーではなく“JYUERU MORIMOTO 女社長”として接する。


「おはようございます。

貴方が今日から出勤の兼任社員・高城芳久さんですね?」


深く微笑を浮かべる"女社長"。

何もかも全く違う。目の前にいる彼女は。

咄嗟にどうしてと聞こうとしたが、理香の目が『聞くな』という

アイコンタクトのサインを訴えているのに気付いてぐっと堪える。

というのならば此方も便宜上の表向きの振る舞いをちゃんとしなければならない。

偽りの表情も、偽りの振る舞いをするのも、自分自身には最高の特技だ。



「初めまして。プランシャホテルから参りました。

普段はエールウェディング課で働いております。高城芳久と申します。

元々兼任社員である事が決定しておりましたが、色々とあり

JYUERU MORIMOTO様に向かうのは今の時期になりました。


精一杯、精進していきますのでよろしくお願いします」


そう言って深々と頭を下げた。



「丁重にありがとうございます。そんな堅苦しくなさらないで?」

「……はい」

「これは貴方の名札と、担当部署です。どうぞよろしくお願いしますね」


そう微笑んで理香は芳久に名札を渡す。

理香の物言いは変わらない。強いて言うならばもっと気品と落ち着きを増した。

作られた微笑にやや引き気味なりながらも、ようやく本題へ踏み切る。


「これはどういうこと? 理香」


耳打ちで強めに言うと、理香は視線を伏せて言い始めた。


「私は今日から、

兼任社員でありこのJYUERU MORIMOTOのトップ。

暫くの間、私は代理という形でこの会社の社長を務める事になったの」

「……………」


芳久は絶句する。

否。紡いでいい良い言葉が見つからない。

芳久が固まっていると、理香はふっと口元を緩めて立ち上がり近付いた。


「ネクタイ、曲がってるわ」


形の良い指先が伸びてきて、手際よくネクタイを整える。

ふわりとした淡い花の香り近くにあって思わず呆然としてしまいそうだ。

理香は手際良くネクタイを直しながらも尚、話を続け言葉を紡いだ。


「ちょっとした事情でね。

兼任として来た日だけの社長だけれど。

私も驚いたの。まさか貴方がこの会社に来るなんて思いもしなかったから」

「それは、俺もだよ」


ネクタイを直し終えてから、理香は首を傾げる。

芳久は直感で思う。何時もの彼女とは雰囲気も存在も全く違う事を。

まさか母親から社長の椅子を奪うとは。かなりのやり手だ。



反対に理香は違和感を覚えた。

初日というのもあるのだろうが、芳久は何処か余所余所しい。


「此処での立場は違うけれど………

プランシャホテルに戻ったら私達、何時も通りよ?」

「…………そうだろうね」



彼女は、何か隠してる。

一体、何処までやるつもりなんだろうか。彼女の復讐は。


JYUERU MORIMOTOでの代理社長という形を勝ち取った程だから、

実母から社長の座を奪いとなった今でも、

心の内では何か母親に対しての攻撃の考えがあるのかも知れない。



けれど、聞けなかった。

今の彼女の纏う雰囲気と容姿は、全く違うのだから。


今、目の前にプランシャホテルの社員、椎野理香ではない。

JYUERU MORIMOTO会社社長の椎野理香。


否や何処かで、本当は椎野理香ではなく、

森本繭子の娘・社長令嬢だった森本心菜かも知れない。


どちらにせよ

芳久にとって此処に居る彼女はもう

自分自身の知っている椎野理香じゃない気がした。



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