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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第7章・数々の謎、壊れ動き始めた歯車
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第80話・悪魔の申し出、復讐者の新たな決意




理香は、見上げる。

静観な住宅街に一際存在感を放つ、(そび)え立つ豪邸。

あの悪魔の館。自分自身が育った、否、森本心菜が悪魔の

奴隷として縛られていた場所。


あまり気分は良くない。



『……大事な話があるの。うちに来てくれない?』



繭子はJYUERU MORIMOTOの営業停止、

謝罪会見を行ってから、ただ家に引き篭もっている。

受けた事もない周りからの白い目や批判等のバッシングにより

心をズタズタにされ悪魔の心は精神衰弱し弱り切っていている事は明白だった。


私生活でも仕事でも、誰からも受けた事のない批判に

悪魔の思考回路はまともに廻っていない状態だろう。


話は唐突だった。

繭子から理香へ大事な話は、一体どんなものなのだろう。

そんな事を思いながら理香は門扉を開けて森本邸へと入った。


「お邪魔します」


そう言って上がった家の中は、

ゴミだったり生活用品が溢れていて滅茶苦茶だ。

洗ったのかこれから洗う物なのか分からない服が散乱して見るに耐えない。

思い出したくもないが過去___自分自身が居た頃は

否応なしに自分自身が綺麗好きならないと終えず、

加えて悪魔に怒られない様に整頓していたつもりだのだが。


娘が居なくなった今、この有様だ。


悪魔の性格が現れた、屋敷の中だった。


(まあ、当然の結果よね。

元々仕事人間で家庭は顧みなかった人間だし_______)



リビングに行くと、ソファーに座っている悪魔に気付いた。

嗚呼。また(やつ)れたなと理香は思う。そんな繭子の斜め掛けのソファーに座る。

もうあの威圧感満載の気取っていた女社長の姿は

もう全く感じない。そんな雰囲気や自身に満ちた表情は完全に消え失せた。

高城理事長と年齢はそれ程変わらないのに、

此方の方がまるで歳を取り切った老婆みたいだ。


(まるでゾンビか、幽霊みたい)


理香は心の中で微笑と嘲笑が交差する。

嗚呼、これが自分自身の求めていた顔だと。



「社長、大丈夫ですか?」

「……ええ」


ようやく理香に視線を向ける。

その理香が見せる偽り仮面は、繭子にとって

それだけは目は至って真剣そのものの様に見えた。


「貴女には色々とお世話になったわね。

貴女の意見が全部正しかったわ。謝罪会見をして暫く経つでしょ。

終わってから、あたし色々考えたの。

でも未だにまだ本腰の調子でなくってね…………」

「それは分かります。社長もお辛い思いをされましたね」


心にもない事を。

辛い思いなんて味わった事のない、華やかな女社長だった癖に。

自分自身が他人だと思っているから言えるのだ。

理香は忠実な振りをしながら繭子を見る。



繭子は深く何かを考え込んだ

素振りを見せてから静かに口を開いた。


「あたし、会社の営業を再開しようと思うのよ」


まるで悪魔の言葉に合わせた様に

時刻が変わる、秒針が12時に向いた瞬間にボーンと部屋中に独特の音が鳴り響く。


理香は、驚き目を見開く。

もう会社も社長としても復帰は無いと思い込んでいた。

自分自身が悪魔の根を切ったつもりと思っていたのだが、

やはり未だに悪魔の根性と思惑は残っていたか。



(……………まだ、野望と欲深さはあるのね)



プランシャホテル理事長にはもう営業再開するという趣旨を伝えたという。

あんな無礼をしておきながら、平然と言える態度が悪魔らしい。

営業再開、という話になると、繭子は少しばかり声は明るくなる。


繭子は視線を伏せて、手を合わせ重ねながら話を続ける。


「ですが、社長の体調が…………」

「ええ。万全ではないのは椎野さんもよく分かっていると思うわよね?それでここからが話の本題なんだけど………世間体もあるし、

あたしはまだ社長に復帰出来ない。そこで……」




「椎野さんが、あたしの代わりとして社長の務めをして欲しいのよ」



理香は目を見開いた。

しかし“驚”は一瞬で消えた。今回の話は指して驚かない。

それどころか寧ろ、心の中で微笑を浮かべている自分自身が囁く。


『会社ごと、乗っ取って仕舞えば良いのよ_____ね?』

『乗っといちゃいましょう? この悪魔に私は散々苦しめられて来たんだから』

『私は後継ぎなんだから、好きにしていい』


(___________そうよね。もっと苦しめて奪えば良いのよね。

そう思うと面白いわ。まだこの悪魔を地獄に落とせる材料は残っているのなら)


この女社長の代わりか。

初めてこなす社長の業務となれば慌ただしくなる事も多いだろう。

ウェディング関係しかこなして来なかった自分自身だが、兼任社員として

JYUERU MORIMOTOの仕事も回数を重ねてやっと慣れて来たところだった。

だが。


(もう、社長の座を貰った。それも本人から………)


まだ悪魔から吸い取れ奪える物があってなんて。

目の前に居る人が娘だと知らずに。

理香は、内心、嘲笑い喜んでいた。



「_______はい。私で良ければ。

その立場に自分が人間となると恐縮ですが、務めさせて頂きます」



そう表向き優しく微笑んで、理香は承諾した。



しかし、理香には繭子の思惑もとっくに見透かしていた。


(なんて単純かしら。傷付きたくないから

自分自身を擁護して、誰かを傷付けさせるのね。……単純で無慈悲な女)






基本はプランシャホテルでの業務が重視だが

兼任社員として来た際、代理人の社長として理香は勤めるという事になる。



後日

公式に(おおやけ)の場で、

JYUERUMORIMOTOが営業再開されるという事が発表された。

世間では賛否両論の声が飛び交うが、JYUERU MORIMOTO側は硬い姿勢を崩さない。

代理社長という立場を手に入れた理香は、心の中での嘲笑が止まらない。

まだあった。悪魔から奪えるモノがあったとは_____________。


悪魔の精神を追い詰めた次は、彼女の執着する物を奪えば良い。

自分自身の全てを奪われたのなら、次はとことん奪われたのなら悪魔から奪い返せば良い。本当の復讐はこれからだ。


地獄の沼に底はない。

そんな地獄の沼に、実母という完全に悪魔を突き落としてやる。


(貴女の生きた心地すらも、いずれ奪ってやる)



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