第79話・謎は謎を運ぶ、復讐者の結論
理香は森本佳代子の履歴書を見ながら、
嘗て町を運んだ先の老婆が言っていた事を思い出す。
プランシャホテルを理由を伝える事もなく無しに突如退社。
その後で在宅での突然の不慮の事故死。
それはまるで誰かから計算されたシナリオの様に思えた。
しかし、
どちらにしろ空白の時間があった筈。
(この空白の時間は何だったのかしら?)
きっと推測するに、死んだ女性は森本佳代子で間違いない。
だとすればもう故人でこの世には居ないという事実がに結び付く。
もう居ない人。けれど何らかの事で自分自身とあの悪魔との接点はあるだろう。
ならば何故、繭子は重度にこの人を嫌っていたのか?
……………もう何十年も前の不慮の事故。
情報源が少なく過ぎる。もっと何か手がかりはないだろうか。
だが。
(これを逆手に取れば、あの人を追い詰めるかも知れない)
そう思いながらパソコンを開いて、理香は何かを探し出した。
「なんですか? _____理事長」
芳久は、理事長室に呼ばれていた。
滅多に会わない。ここ最近はJYUERU MORIMOTOの騒動の事もあって此処に居たが
JYUERU MORIMOTOの話題もやや沈静化してきて父子の距離は見るからにあからさまに離れている。
再び疎遠気味になって居たのだが、けれど父の表情が何かを企んでいる眼をしている事に薄々芳久は、気付く。
英俊は、息子の堅苦しい表情を見て手を軽く上げると、
「そんなに警戒するんじゃない。今回はお前にとって朗報なんだぞ」
その、恩着せがましい表情はやめてくれ。
けれど何かを企んでいるのはあからさまだ。
今回は一体、なんだろうか。
英俊は微笑を浮かべると、立ち上がり息子の立ち位置に重なる様に止まる。
「JYUERU MORIMOTOが営業を再開するそうだ」
「…………!」
暫し早くないか?と思ったが、
振り返ってみて騒動から数ヶ月経っていた事に気付く。
大人になると時が早く感じる早いという。正に今の事を言うのではないか。
謝罪会見をし、JYUERU MORIMOTOが営業停止してもう数ヶ月。JYUERU MORIMOTOの社員は長期の休みに
プランシャホテルから移籍した人間は数名、プランシャホテルに連れ戻された。
荒れ果てたJYUERU MORIMOTOとは違い、プランシャホテルは通常運転に慣れJYUERU MORIMOTOの被害者、情けも介入し
経営は潤い始めている。
しかし、
けれどいずれにせよ、芳久が驚かなかったと言えば嘘になる。
「そうですか」
いつの間にか熱もない返事が、溢れていた。
本題は思って居たが、英俊が先程よりもっと深い微笑をしている事に気付く。
「私は嘗て、お前に言っただろう。
勉強として『次期理事長として、向こうの会社に派遣してもらおうか』とな。
ようやく営業を再開したこの機会を機に兼任社員としてお前を_____JYUERU MORIMOTOで勉強して来て欲しい。
そしてそのJYUERU MORIMOTOを得た経験を備え、成長した姿を見せて欲しい」
(貴方の”目論見”は、やはりそうか)
」
その言葉に、迷いも含めて芳久はいよいよかと悟っていた。
ネットを頼りに、森本佳代子の事故死した情
を理香は集めていたがあまりその情報が少ない事に少し頭を悩ます。
在宅での事故死とあって、
あまり当時は注目されて居なかったらしい。
また不慮の事故死も謎に葬る材料となっていた。
この不慮の事故死は家族の間で解決されている。
あまりニュースも取り上げられなかった。
それは当たり前だ。小さなニュースよりも
もっと大々的なニュースの方が選ばれる時代だ。
けれど小さな詳細を細かく乗せたネットページを見てはコピー・印刷をした。
_____________27歳、女性。謎の在宅での事故死。
森本佳代子とは表記せず、
仮名だったりイニシャルだけだったりする。
けれど『K.M』というイニシャルから
森本佳代子と断定して理香は情報集めに扮していた。
普通の家庭で、何らかの不慮で
本人の目の前で巨大な食器棚が倒れ圧迫、窒息死だった。
大きな食器棚だったこともあり、戸棚が硝子や皿も倒れ割れて
圧迫だけではなく彼女の肌は擦り傷等の傷、打撲等で服は血に染まっていた。
けれど発見されるのが、早ければ彼女は助かっていた。
家族の誰か一人でも居たならば。
けれど、当日は他の家族が不在だった事もあり、
発見が遅れて夜に亡くなったが本人が発見されたのは翌朝だった。
(変ね)
……………理香は不思議に思う。
地震情報を重ねて調べて見たが、地震が来たという話はなかった。
地震もなかった筈なのに、大きく重い食器棚が倒れるだろうか。
ネットでは事故死を装って、実は自殺を図っただの、
純粋な不慮の事故死だっただの、色々な賛否両論の憶測が飛び交っていた。
けれど死人に口はなし。死人に問う事は出来ない。
結局ニュースには短く取り上られ、
序でに言えば本名で報道されなかった事も影響してだから、プランシャホテルの面々も彼女の死は詳しくは知らないままだ。
“誰にも発見されず孤独死した女”、ネットにはそう書いてあった。
(一体、どういう事なのかしら…………)
「分かりました。勉強を重ねてきます」
「……そうか。立派になってくれ。この会社のトップとして」
ぽんと背中を叩かれて英俊は去っていく。
去っていく英俊を横目にどんどん、芳久の心は無情になっていく。
本当は立派になんてなりたくない。
ただ後継ぎとして使われているだけの人形と再確認する。
(JYUERU MORIMOTOの女社長とあんたも大して変わらない癖に)
と芳久は思う。
あんただって業績グラフの水増ししてたじゃないか。
あの女社長を責められる立場か。
芳久は、父親の言う通りに納得したんじゃない。
本当は彼の心を殺してマリオネットになるつもりはない。
実際は理香が気掛かりだからだ。
理香は、もう昔の面影が全く消え失せた程に変わっている。
まるで純粋無垢な白い花が闇色の花になるようで
遠くなり彼女がどんどん変わっていく。
それが一番の気掛かりだった。
(……理香。君が気付いていないだけで君がしている復讐は、
本当は自分自身の身を滅ぼしている訳でもあるんだよ…………)
彼女が気付いていないだけ。
芳久とって、ぼんやりと見えない彼女の末路が見える気がした。
謎が多過ぎる。
けれど何も、他に手がかりを得れない今 結局は森本繭子に近付くしかない。
何せこの日記は繭子の部屋から隠された末に遺されていたのだから。
真相は、森本繭子自身が握っている。
という結論に至った。自分自身以外に知っているのは悪魔しかいないのだから。関係性のある人間は。
今は、まだ_____。
そんな中、届いた電話の着信。
その人物の文字に冷めていくのを感じながら電話を取る。
「はい。椎野です」
「椎野さん………」
弱り切った悪魔の声。
まるで壊れかけた人形の様に掠れ弱り切った声に理香は微笑した。




