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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第6章・壊れ始める糧とそれぞれの思い
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第78話・謎の込められた行方




其処は、空き地だった。

随分と年数が経っているせいか雑草が不規則に生えて生い茂り、何だか寂れた雰囲気を醸し出している。

けれど放置されたままの空き地に何かがあった様な存在感と虚無感は薄々と感じた。


疑問符が脳裏に浮かび、何度も履歴書に書いてある住所を確認したが

此処で間違いない。隣家の番地の番号のこの空き地の次に当たる筈だ。

けれど家があった様な形跡と面積があるにも関わらず、

その家だけが存在しないのだ。



(_______何故?)



理香は呆然とする。

やっと森本佳代子に関する場所に辿り着いたのに。

此処まで来たのに。どうして、何故だ。

荒れ果てた空き地を目の当たりにして、全てはゼロに戻された気がした。


愕然している復讐者と協力者に、



「あらまあ、若い人達が何故、其処に居るんだい?」



ふと聞こえた優しいしゃがれた声に視線を向ける。

其処には隣家の割烹着を来た老婆で、低い塀の中・玄関庭から此方を見ていた。

この古い昔ながらの町、近所の人しか居ない土地に若者が来るのが珍しいのだろう。

表情から見るに朗らかで気さくそうな老婆だった。

そんな老婆に対して咄嗟に芳久は表情を作り微笑みながら言う。



「親戚の家を訪ねて来たんです。そしたら遠回りをしたくなって良い場所だなって」

「そりゃそうかい。道理で見ない顔だと思ったわ。

この町には滅多に近所の人以外は見ないからね」

「あの、他は住宅街なのに、此処だけ空き地なんですね………」


わざと芳久がそう言った瞬間、老婆の顔が曇る。

その見せた表情からこれは何かがあると芳久は、勘付き始めた。

他は民家が密集しているというのに此処だけ、揃えた様に空っぽな空き地は見るからに不自然だ。

老婆は俯いて暫しの沈黙の後、顔を上げて

遥か彼方を遠くの夕日を見詰めながら、静かに話し始めた。




(かつ)ては、あったんだよ。立派な家がね。

けれど何十年か前にある事故で一家が離散して、空っぽになってしまった。

誰も住まなくなって、そしていつの間にか家が無くなってしまったんだよ」

「空っぽに………?」


ぽつりと、理香がそう問うと彼女は頷く。

家主を失った家はいつの間にか解体されて今は見る影もないという。

空き地になってしまった場所を懐かしそうに見詰めながら老婆は言った。


「礼儀正しい気立ての良い娘さんが居てね。皆から評判だったよ。

けれどその娘さんが家で事故死してから、遠ざける様に他の家族が去ったんだ」


在宅での事故死。

もっと深く聞きたかったが初対面が故に他人が迫り来れる話じゃない。

けれど確かに此処に誰かが住んでいた事、娘が居たという事実を聞き

自分自身が探している探し人と繋がりそうだと一瞬だけ見えた。


「もう何十年も経つねえ……。あ、ごめんなさいね。

無駄な話をしてね。気分は変わらないかい?」

「いいえ、なんともないです。そんな話があったんですね」


老婆は考慮した素振りを見せたが

此方からしたら、恵みの話だ。相手に感謝すら覚える。

何の手掛かりも無しに帰る羽目になるよりかは、数倍良かった。



もう時期になれば

陽が暮れてしまうという事を思い出して早めに帰らないと思い立った。

老婆へと内心感謝込めた一礼をしてから住宅街を二人は去っていき

遠い駅の方向へと引き返し歩き始めた。





この町の最寄り駅の最終電車の時刻は早い。

なんとか最終電車に乗ることが出来て安堵を浮かべた。

無人駅に止まった列車の中には誰も居ない。

ドアに近い席で理香は座り、すぐ傍の壁で芳久は手を組んで持たれかかっている。双方無言で硬い沈黙が生まれ始めている。

伏せた表情のまま、それぞれ色々な考え事をしていた。


(やっぱり、事故死したのは、森本佳代子?)


疑念は確信へと変わっていく。

手がかりはなんとなく掴めた気がする。

だがまだ本当に"なんとなく"だ。まだ謎に包まれている面が多い。


元は家があって其処に住んでいた娘が在宅で事故死を遂げ、

家から、残された一家は町から去った。

どうも一つだけ疑問が拭えない。


(事故死したのは本当でも、家族が離散したのは何故?)


起きたのは犯罪ではない。不慮の事故死だ。

それに一家が離散する必要はないだろう。不慮の事故死故に

世間から憐れみの目を向けられる事はなかった筈なのに。

何故、一家は離散した?


(何があったの?)


なんだかミステリアスな話で奥がある話だ。





その住んでいた娘というのが森本佳代子で、彼女が事故死したと言うのならば。


「なんかミステリアスな話だよね」


そう沈黙を破り、口切ったのは、芳久だ。


「あの人、何かを隠している様な顔してたよ」

「そうなの?」

「うん。事故死って言うけれど何かを言えない裏がありそうだ」

「確かにそうよね。何かあるのは確か。でもその死んだ人が探し人なのかしら………?」

「………多分かな」


確証が持てない返事を返す芳久。

きっと気不味い何かを隠している気がするのは違いない。


「理香、どうだった?」

「手応えも手がかりもあったわ。情報を得る事も出来たし。

私は良かったと思ってる。


芳久には頼り切ってしまってごめんなさい」

「いいよ、そんなの」



「でも謎が多過ぎるわ、

どうして一家は離散する事になったのかしら?」

「難しい問題だよね。そもそもなんで会社を辞めたのか。

時系列は多分、辞職届が提出された後に亡くなってるって計算だ」


拭えない疑問を抱えたまま、また空間は沈黙に戻る。

森本佳代子。一体何者なのか。探せば探す程、謎が深まる。

まるで解けない知恵の輪のように。


俯いている理香に対して、芳久は告げた。


「理香はさ、この人を知ってどうするつもり?」

「…………正直言って分からないの。人物像は分かるけれど素性は何者なのか。

けれど私にそっくりなんでしょう。なんであの人が嫌っていたのかも分からない。

私はただ関係性を知りたいだけよ。関係性が分かれば

理由も理解出来るから。………どんな人だったんでしょうね」

「……うん」


自分自身に瓜二つの人物。

深くは聞き出せなかったけれど、これからは自分自身で探そう。

彼女は誰なのか。けれどそれを考える度に無性に胸騒ぎがして止まらない。


芳久は遠目に流れていく景色を見る。

理香の面持ちも横顔も変わらない。やはり普段でもこうなのだ。

けれど芳久には一つ。疑念があった。


この森本佳代子の正体が、

もし分かった時 彼女はそれをどう利用するのか。

復讐の材料として。


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