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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第2章・12年後の思い
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第5話・偽りの……。




「綺麗ですよ」



そう言えば、開かれたカーテンの中に居た、白いドレスの女性は微笑んだ。



「ありがとうございます。椎野さんが、選んで下ったおかげで………」

「いいえ。これは九条様が決めたでしょう?

着る主に選ばれたドレスは、着る人とともに輝こうとするんですよ。

だから、既に今も、とっても素敵です。私は、それのお手伝いをしただけです」


目の前の、柔らかな雰囲気のウェディングプランナーの言葉は、強く心に響く。

酷く重みのある説得力があるというべきか、謙虚で恩着せがましさがなく爽やかだ。

花嫁は、無意識的に心から浮かんだ言葉が、口から溢れていた。


「…………椎野さんに、担当して頂いて良かったです」

「そんな……ありがとうございます。素敵な式にしましょうね」


ウェディングプランナーは花嫁に歩み寄ると、優しく言って微笑んだ。



ガーデン式のパーティー。

天候に恵まれ小鳥の(さえず)りが、新郎新婦を祝福しているようだ。

穏やかで長閑(のどか)な無事に結婚式は、成功を治めた。

新郎新婦の幸せな式を、片隅で“彼女”は、細やかな祝福の拍手を送っている。

ただ、それだけをして、ただ見守る様に優しい眼差しをしていた。






「“椎野理香”君」



そう呼ばれて、振り向く。

"今"の彼女の名前は、椎野理香。

其処には、優しく微笑んで軽く手を振りながら、此方へと来る初老の男性。

彼女は完全に相手の方へ向くと、此方からも歩いてこう言った。


「…………主任」

「いや〜式は大成功だったなぁ! お嬢様も喜んでいたよ。

流石、信頼できる君に任せて良かった」


ウェディング課の主任は彼女を褒め讃えた。


そう言えば、

今日の式は大企業の社長令嬢と御子息の華麗な式だったか。

豪勢で有名な社長や、果てには著名人まで式に参加していた記憶がある。

端から見ても豪華絢爛、という印象が強かった。


理香は片隅でそう思い出しながら、





「私のような、未熟者が良かったでしょうか…………」



そう呟いた。

上なら、自分自身よりも上の者が居る筈なのに、自分自身で良かったのかと。

入社して数年。まだキャリアが積み上げている中途半端な、自分自身が。

今回も結婚式は上司か同僚が担当すると思い込んでいたのに。

そう思っていると、ぽんと肩を叩かれた。


「何を言うかね。

君はもう優秀なウェディングプランナーじゃないか。

現に皆、喜んでいた。特にお嬢様は特に。

君も分かっていた筈だ。これが証拠だよ」


主任に渡されたのは、淡い花柄の封筒。

名前を見て、花嫁になった令嬢が書いた事は一目で分かった。

理香は、不思議そうに受け取った後、頭を下げて


「……ありがとうございます。主任」


そう言うと、主任は誇らしげな表情をして、

再び彼女の肩に手を置き


「うむ。これからも頑張ってくれ」

「……はい」


そう言った。

理香も返事を返すと、

向こうへと消えていく主任の姿を見送った後

無意識的にふっと肩の力が抜けて、片手で手紙を持っている側の腕を固く握った。


(悪い癖)


棄ててしまいたい名残り。


未だに、捨てたい昔の癖が残っている。

自分に自信すら持てずに、素を隠し他人に偽ってしまう癖。

それを変わると願って、自分を奮い立たせてこれまで歩いてきた。


そう思ったところで、理香は強く首を振る。

違う。未熟で操り人形として怯えて暮らしていた弱々しかった昔の自分。

そんな自分自身を変えて捨てると、あの日に固く誓った。

だったら、思う必要もない。


もう昔の自分自身は、関係無いのだから。

今だけを見ていれば、良い。


大丈夫だ。

今回も何事もなく、上手く行った。

これからもこのまま変わらずにいたら、何事もなく行く。

そのまま過ごして居れば良いだけ。そうすれば、平和なまま時は過ぎる。


(このままでいれば、私は……)


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