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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第6章・壊れ始める糧とそれぞれの思い
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第73話・悪魔の謝罪






森本佳代子とは誰なのか。

森本姓を名乗っている辺り森本家とはなんらかの関係が見える。

しかし_____。


(聞いた事がない名前………心当たりがないわ)


理香の頭をかなり悩ませる。



幼い頃、世間からも隔絶され、

母親との家庭内の生活だけしか理香は知らない。

悪魔の鳥籠の中だけで育ってきた影響のせいか、

理香には森本家の人間は母親である繭子しか知らないのが事実だ。



森本佳代子。

自分自身と瓜二つな彼女とは何の関係があるのだろう。



芳久は自分の父親___理事長と働いていた年数が少し被るので

何かが手がかりがあるかもしれないと聞いてくれる事になったが

その何もない空白の期間が、理香の心を少し悪戯にもどかしくさせる。


そんな中、

そろそろ、あの事が迫っていた。






マスコミの冷えつつあった熱は、加熱されていた。

何故ならば、JYUERU MORIMOTOのホームページには、

日付と時間が添えられた上で、社長自ら謝罪会見する、と書かれていたのだから。


あれだけ頑なに姿を見せなかったJYUERU MORIMOTOの女社長。

随分と時が経ってからの発表だったが報道陣は見逃す訳もなく、再びJYUERU MORIMOTO本社前に居座り始め、ニュースでも

取り上げられ生中継する番組まで名乗り来ている。


それだけ、世間の関心と視線は再びJYUERU MORIMOTOに来ていた。


謝罪会見は第二日曜日の午後2時。

場所はJYUERU MORIMOTO本社前のオフィスロビー。

その場所に森本繭子は現れる。誰もが緊張の中、主役が出てくるのを待っている。



_____________当日。JYUERU MORIMOTO 社長室。



繭子は小刻みに震える手を、片手で押さえた。

けれど震えは止まらない。喉が枯れ心の動悸が聞こえる程に緊張している。

恐怖心という感情を覚えながらも遂にこの日が来てしまった。

本当は来て欲しく無くて、夜は何度も震え、幾度の涙を零した事だろうか。

時が止まって欲しいとさえも思った。けれど時が止まる筈も無い。




(_____________ジュエリー界の女王の面影もないわ…………)



繭子の傍らに居た理香はそう思った。

あれだけ威圧感のある悪魔の女が、今や借りて来た猫の状態。

あの挫折感と絶望の味を知ってしまってから繭子は大幅に変わってしまった。

威厳と威圧のある雰囲気も全く無くなり、

その顔の人相も堂々としたものではなく、弱々しく覇気の失せた表情へ変わっている。


(…………貴女は、こんな顔が出来たのね)



今まではただ強情で強い悪魔だと思い込んで居たが

こんな一度の絶望で挫けてしまう脆い人物だったとは理香には意外でしかない。

理香は悪い意味で、森本繭子は悪に塗れた弱さの無い強い人間だと思い込んでいたのに。

けれどその想像とは逆に目の前で震えている人物はまるで違う。

…………それ程に絶望の味は人を変えてしまうものなのか。





全てを知った今、理香の心情も様変わりしていた。

自分は森本佳代子の生き写し。繭子はそれが気に入らず、

自らの娘を人格が崩壊する程に虐め続けた。

これから迫り来る現実に震えている繭子に、


(_______イイザマ)


悪魔のその顔面蒼白な、絶望仕切った表情。

それは快感にも似た感情が沸き上がっている。





そう思いながら、

理香は髪をかきあげ耳にかけ、腕時計を見た。


約束の2時はもうすぐ迫り来ている。

その時間が迫るにつれて繭子の震えは強くなっていった。

理香は心の中では嘲笑ながらも、表では優しげな微笑みを浮かべ



「……………社長、安心して下さい。私が付いています」

「お願いよ…………椎野さん………」


繭子は、理香に洗脳されつつある。

繭子は知らない。目の前に居るのが、実の娘だとも知らずに。



(________哀れな人……)



理香はそう思った。




________JYUERU MORIMOTO 本社前。




けたたましいフラッシュの数々。

ふと目の前を見詰めれば、100人を越える報道陣が此方に視線を向けていた。

繭子は報道陣と距離を置いて階段の前に立つと軽く頭を下げる。


その顔も、表情も以前とは大違い、報道陣は微かに驚く。

あの(かつ)て威圧感のある強い佇まいの女性は何処にも居ない。

今、目の前に居るのは、今にも崩れてしまいそうな、何処か脆く弱り切った女性だ。


しかし現実は、世間は容赦ない。

森本繭子が現れた刹那、マイクやレコーダーを差し出してくる記者に、けたたましいフラッシュの光りと音。



「森本社長、今回の件は事実でしょうか!?」


「……………………」



________プランシャホテル、理事長室。




モニターに映し出された女社長の姿に、英俊も驚きを隠せないようだった。

以前会った時と雰囲気も顔の表情も違う。まるで別人のようだ。

芳久は繭子の姿を初めて見たが、随分と(やつ)れている様に伺える。

何処か頼りないというべきか、何かを抜き取られ様な霊的な存在感の様に思える。


(…………これが、復讐者に突き落とされた人の表情(かお)か)


オフィスロビーへと繋がる外階段の前に森本繭子は立っている。

そんな女社長を確実に撮るべく、生中継に使われている空中に舞うドローン、

報道陣の中に居るカメラマンが、固く見詰めシャッターを切る。



理事長と共に次期理事長の芳久も

傍に居て森本繭子の謝罪会見を拝見していた。

生中継を凝らす様に見詰めていた瞬間、ある一つのことに気付く。

それは一瞬、不意に中継カメラの角度が四角の方へ向いたシーン。


(………理香?)


本社前の建物。

あまり人目に着かない場所に、ある人影。

時折に何かを覗く様に佇む女の姿…………それは椎野理香だった。







胸が苦しい。

呼吸をする事がこんなにも、苦しい事だったか。

何かに押し潰されそうな感覚に襲われながら、繭子は口を開く。





「_____________今回、報道された内容は全て事実です」


刹那。

報道陣が皆、驚きどよめきが広がる。

堅物と評判の女社長が事実を素直に認めたのだ。



「私は、会社を保つ為に、そして

この会社で働いている人達を落胆させない様に無意識の内、

この度報道されている事実、業績データの改竄(かいざん)をしてしまいました。

低迷している業績が自分自身のプライドとして許せなかったのです。


まるで自分自身を、働いている社員を低く評価されたみたいで……。

それはどうしても譲れない、私と会社の評価の下げたくなかったのです」



震えながらも、悪魔は欲望に満ちた熱弁を振るう。

それを一部始終、影で見詰め聞いていた理香の心は

みるみる凍り付いた厳冬の様に冷めていく。



(何が、社員の評価が下がる………よ)



基本は自分自身の自己満足だったのだろう。

結局は他人の事なんてどうでもいい癖に。自分自身の事しか考えていない癖に。


私利私欲の欲望に塗れた悪い女なのに、

この期に及んで悲劇のヒロインの様な素振りを見せる?

やっぱり森本繭子は、自分本意の人間でしかないと理香は、心の中で凍り付いた溜息を着いた。


かれこれ連載1年が経ちました。

早い様で長かった気がします。けれど皆様から頂いた

原動力で私はここに居、小説を書くことが出来ています。


本当にありがとうございます。

そして物語の完結まで精一杯頑張りますので

これからもこの物語とお付き合い頂けると幸いです。


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