表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第6章・壊れ始める糧とそれぞれの思い
75/264

第72話・26年の謎が解ける瞬間





「久しぶりだね」

「ええ」



久しぶりに会った、

復讐者の表情が違うのはきっと、気のせいじゃない。

JYUERU MORIMOTOの件があってからだろう。

あれから彼女の表情は180度、変わった気がする。


「休日に食事会するのって初めてじゃない?」

「そうだね。でもたまには良いじゃないか?

此方(こちら)側も最近色々とあってさ。……それは理香も同じだろう?」

「……………っ」



手のひらを返す様に低い声で告げると、理香の表情は強張った。

やっぱり何処かで見透かされていると思いながら、それに気付かない振りをする。

互いが互いに話す事は山程にあるという事は、承知の上だった。


「まあいいや。先に御飯食べようよ、話は後で」

「……うん」


それは強要する態度ではない。

物腰自体は低く、温和な声音な筈なのに

自然と理香は芳久のペースに巻き込まれてしまう。

そんな束縛しいモノでは決してなく、柔らかで紳士的なペースのリードだ。


頼もしいのは知っていたけれど

また違う青年の一面が見られた気がして

何処か茫然としている理香が居た。



仕事の話や世間話や色々な話で静かに盛り上がっていた。

その明るい話の裏には二人共に隠していた秘密を内に潜ませたまま、時は流れていく。

それぞれ御飯を食べ終わった頃に、芳久は自然と話を持ち出す様に


「JYUERU MORIMOTOの件だけど………」

「…………」



(_____________聞かれると思っていた)


そう思いながら、理香は話さなければならない事を話始めた。


自分自身がJYUERU MORIMOTOの周辺を張り込みしていたこと。

そうしたら森本繭子がボロボロの姿で出て来た事、彼女を送ったら家に来て欲しいと言われて家に入ったこと。家に入って泣き憑かれたこと。


「私が言ったの。全てを明らかにしましょうって。

あの人はかなり気が滅入っていたわ。以前の様に威圧感のある社長の姿でも母親の姿でもなかった。

本来ならば自分自身の意見を優先させる人なのにもうそんな気力もなかったのよ。


今回の報道でかなりダメージを食らったみたい。

頑固な人なのに言葉もすぐに受け入れて…………」

「そう言うことが……」


芳久は驚きつつも悟り理解していた。

あの電話にも出てこなかった社長が自ら謝罪する等、あり得ない事だ。

いよいよ理香が操作し始めていた。

スキャンダルが重なり森本繭子は精神衰弱になり、今は自らどうにも出来ないのだろう。

母子の立場が逆転し、今は母から奪う形で娘が政権を握り出した、というべきか。


理香の面持ちや雰囲気が変わったのはそのせいか。


凛とした繊細な美貌と何事にも動じない物腰。

基本的に変わらない物憂げな雰囲気と共に無表情だが、

前の彼女と比べたら、その表情は明らかに自信に満ちている。


(まるで、別人のようだ)


前まで、弱々しい雰囲気だった

近頃彼女が自信に満ちた表情に変化させた理由、

それは、念願だった実母への復讐を成し遂げたからだろう。


あの社長が執着している物をじわじわと

まるでドミノ倒しかの如く、奪っては壊して

彼女の精神まで限界に追い詰めたのだから。





「……それで、芳久。貴方からの話は?」



芳久は、一瞬だけ固まった。


芳久の言いたい事は決まっている。“あの事”だ。

だが。



(これを言って良いものか?)


この事実を優先しても良いのだろうか。



けれど。

事実を知ってしまった以上知らないふりをするのも、もう出来やしない。

ここなら防音装置の着いた個室部屋だから誰にもバレない事の保証や安心はある。


腹を括り、決心を固めて芳久は身を乗り出し口を開いた。



「……理香、これから俺が言う事は残酷に見えると思う。

それは最初に謝っておくよ。ごめん。でも、

これは伝えておかないとって思ったんだ」

「…………?」


理香は不思議そうに微かに首を傾ける。

そんな理香の表情を確認しながら、芳久は鞄の中から物を出した。


「高城家は、

代々歴代の従業員や社員の履歴書を全部保存しておくんだ。

そういう書庫が専用にあるんだけど昨日、書庫で見つけた一人の社員の履歴書が気になった」

「履歴書? それが?」



「理香。この履歴書に理香そっくりの人が写っていたんだ」


差し出された履歴書や、その人に関連する写真を差し出す。

言葉でさえも驚くのにその人物を見た瞬間に、

理香は驚きと共に目を見開いた。


髪の色は違えど眼の色も顔立ちも同じ。

これは誠か。


履歴書に写っていた女性は

まるで写真の中にいる人物は理香にそっくりそのもの。

それは瓜二つながらも、似た様な違う自分自身を見ている様だった。



時が止まった様な感覚に襲われながら、

固まり目を見開いたまま絶句する。


______まるで自分自身が、其処にいるみたいだ。



その刹那、

脳裏に浮かぶのは、悪魔からのあの言葉。



『何もかも“アイツ”に似ている、

あんたはあたしの目障りでしかないのよ!』


『あんたが”アイツ”にさえ似ていなかったら………

いいえ、“アイツ”に似ているあんたさえ、

最初から居なかったら…………あたしは束縛されずに自由になれたのに』

『アンタは、何処まであたしを苦しめる気?』



心に傷として刻まれた、あの言葉。

あの言葉の意味。その真相が、それが此処に有る。

混乱した思考が一瞬、戸惑いを見せるが(やが)て、静かに悟りとして飲み込んだ。



_____嗚呼。そういうことだったのか。



悪魔が憎たらしいと思う人物に、

娘はそっくりで生き写しの様に似ているから悪魔は気に食わなかった。


けれど

それが誰かとは悪魔は一切言わないまま、

自分自身が母の憎む誰に似ているのかは全く知らないまま、

謎を抱いたまま生きてきたのだ。


一体、自分自身は誰に似ているのだろう。

何故、自分自身はそんなに憎まれているのだろう。



それはずっと物心が付いてから理香が抱えてきた謎だった。


全てを悟った刹那、

理香は内心、何処かで冷たく嘲笑う。


(理不尽で、単純な理由。

私は、そんな愚屈で理不尽な理由で憎まれてきたのね)


馬鹿らしいとさえ思った。だが、あの悪魔が考えそうな事だ。

単に相手は自分自身に気に食わない人物に容貌や容姿がそっくりなのが気に食わず、

ただ娘に向けて精神的虐待を繰り返しては、娘の心を殺すまで虐めて居たのか。


全ては、この為に。


まさか、こんな理由だったとは。



26年もの間、謎だった答えが出た瞬間。


全ての謎が解けた時、

目の奥が熱くなり終わりのない、

同時に腹から煮え繰り返りそうな憎悪が燃え上がる。



「そういう事だったのね…………」



全てが気に食わなかった。


全てを嫌い憎んでいた。



自分自身の憎しむを抱く人物に似ている。

嫌い、憎い、おぞましい、要らない、沢山の否定の言葉を与えられてきた。



しかし悪魔はそれを誰とは一切言わなかった。

だがそれは、一種の悪魔が考えた嫌味だったのだろう。

けれど悪魔が憎んでいた相手が解った今、


その人物が今、此処にいる。

あの頃なりふり構わずに愛されたかったという思いだけを抱いて進んでいた。


けれどそれは最初から無駄以外の何物でもなかった。

無駄にしてきた。思いも、時間も。

自分自身の時間も、思いも無駄にされてきた。


要するに奴は、

娘を都合の良い操り人形としか思っていなかったのだ。


(嗚呼、私はなんて馬鹿らしい事を繰り返してきたの)


理香は自分自身を自傷し、嘲笑う。



「そういう事だったのね……………」

「理香、大丈夫?」


項垂れて芳久は慌てた。

其処にあった理香の泣きそうな表情(かお)は、

とても綺麗で今にも壊れそうな儚さと、留めのない黒いオーラを醸し出している。

その黒いオーラは今まで見た事がないものだった。

否、見せない様にしていただけかも知れないが。



やはり事実を告げるのは、早かったのかも知れない。


「……ごめん、混乱させて。情報になればと思ったんだ」

「良いの。寧ろ、ありがとう。やっと全てが理解出来た。

あの人は元々から私の存在が気に食わなかった。

そうよね。憎たらしい相手に私はそっくりなんだもの」

「………………」



誰を恨み、憎しむべきか。



一瞬、そう思いが余儀ったが

ますます心内悪魔への憎悪が増していく。

混濁する憎悪と共に、理香は唸る様に決意した。



(許さないわ、絶対に。なんとしても)


「…………芳久」

「なに?」


「ありがとう。

これからも、協力してくれる?」

「勿論だ。そのつもりで情報を提供したんだから」



(何としてでも………)



理香は心の中で呟く。



(あの人の全てを壊してやる。

あの人の華やかな名誉も、地位も、全てズタズタになるまで……)



復讐者の言葉は、腹が据わっていた。

その静かな声音に込められた憎悪と、復讐心。

凛とした蜂蜜色の瞳には、闇色を佇ませながらも厳冬の様に冷たい。


(…………貴女を、野放しには、ましては自由に生かせやしないわ。

貴女が私にした仕打ちをそのまま返して上げる。貴女を追い詰めて必ず)



理香は拳を握り締める。

ようやく、全てが理解出来た。全ての謎が解けた。

ならば。この復讐は自分自身にしか成し遂げれられないたったひとつのことだ。

理香の中で繭子に対する憎悪の感情がみるみる込み上げてくる。

こんな理由の一つで人を無下にした事は_____。



(見てなさい。ただじゃ息をさせはしないわ)




その憎悪を、



「倍にして、返してやる」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ