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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第6章・壊れ始める糧とそれぞれの思い
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第71話・協力者の知った事実、復讐者との距離感

サイドストーリー兼本編です。




_____________3日前。


プランシャホテルと比毛を取らない、豪邸。

和と洋を合わせ持った佇まいの豪邸を疎ましげに見詰めながら、青年は豪邸へと、地を蹴り足を踏み入れた。




久しく、芳久は実家に帰ってきた。

月一回は必ず、実家に帰ってくる事。それは父との約束だ。

自立し実家に足を向けなくなった息子へ、世間体を気にする英俊が命じた唯一の縛り。


だが、芳久も負けていない。

父と自分自身の事を邪気に嫌う後妻・美菜とはなるべく顔を合わせたくないのを理由に、

殆どは美菜が居ない時に、他には二人が家の不在の時間を狙って帰ってくる。

今日だって二人は夜の外食へと出掛けて帰って来ない事を

知っていたからこそ芳久はホテルから1カ月ぶりに実家である高城家へと帰宅した。


(息苦しい)


重く佇む空気と沈黙は、人を息苦しくさせる。


芳久にとってこの家は安らげる訳でも寛げる訳でもない。

ただ帰って来た、という痕跡だけを自室に残すだけだ。

苦痛の空間である事を再認識しながら、家に上がった芳久が真っ先に奥の部屋へと足を運ぶ。


そして思った。



(過去の人は、仕舞うのか)




今では誰も足を運ばず、

誰も人目に付かない奥の居間へと追いやられてしまった、

実母と実兄の仏壇に手を合わせにくる。


元々二人の仏壇は、リビングにあったものだ。

しかし父親が再婚した途端に、二人は客間という名の無人部屋に追いやられてしまった。

今では此処へと足を運ぶのは、自分だけ。


毎回のこと。

4畳間の和室に入ると

それぞれの仏壇には二人の遺影が飾られている。

実母と実兄の仏壇に線香を上げて、静かに目を閉じて手を合わせた。


濃紺の夜空、月明かりだけが、差し込む部屋で

実母と実兄の顔を見、芳久は正座して暫く佇む。

大好きだった二人はもういない。代わりに自分が父親の操り人形に成り浸っている今。


高城家に居ても

ただ募る感情は、死んだ二人をまるで最初から居なかった様な

気になっている父親への軽蔑と哀れみだけ。




居間から離れた後、

自室へと行こうと思った時 突き当たりの部屋が目に入る。

其処は壮大な部屋で其処には高城家の歴史とその資料が詰め込まれた書庫の部屋。

それは高城家の後を継ぐ者しか入れない特別な部屋だ。


小さい頃は、実兄しか入る事が許されなかったが

実兄の死後、素早く手のひらを返した父親が自分自身を

後継ぎにした為にこの許された人間だけが入る事が出来る特別な部屋に、芳久は入る事が許された。


芳久には、実家の家業に興味すらない。

だが部屋を見付けた途端、足を運びたくなった。


それは

細やかな興味本位と、好奇心。



無意識に足を運ぶ。

カチャリ、と軋む扉を開けて入り

明かりをつけるとホールの如く盛大に広い部屋が目に写る。

高城家、プランシャホテルの歴史を知りたいのならば、

此処に来ればプランシャホテルの全てが分かる。



プランシャホテルの条約。

プランシャホテルの歴史に残る全ての社員の履歴書。

高城家の歴史と歩み。



様々な資料が此処にあって、

本棚に整理されている本を不定期に手に取った。

高城家の細かな歴史や条約が辞書に記されている。

それを隅々まで一つも見落とさずに見詰めて、読み終わってから本来の位置に、本棚に戻す。


次にプランシャホテルの歴代従業員の履歴書に目を通した。

歴代の従業員全員の履歴書ともあって、膨大な数の履歴書がケースに入れている。

興味半分でその履歴書を最初から一人一人丁重に見詰めていく。

ホテルに勤めていたコンシェルジュやウェディングプランナー。


年別に別れてそれらは丁寧にきちんと整理整頓されている。

保存状態が良いせいか履歴書等は全て新品同然だった。

最初は何気なく見詰めてパラパラと(ページ)を捲って居たが、後に芳久はある点に目が止まった。芳久の目に止まったのは、

一人の女性ホテルコンシェルジュ。


長い髪に、凛とした整った顔立ち。

見るからに理知的で知的に溢れた、薄く控えめな微笑を浮かべているその姿。



(_____________どういうことだ)



芳久は自分自身の目を疑った。




何故なら、其処には。




椎野理香がいたから。




否。年代からして、椎野理香じゃない。


けれど其処に居た女性は椎野理香にそっくりだ。

ふと履歴書に書かれた名前を見ると【森本(もりもと) 佳代子(かよこ)】と記されていた。


ホテルコンシェルジュで、プランシャホテルの一員。

プランシャホテルには 社会人になっての5年間勤めていたと書かれている。




言葉を失って絶句し呆然としていたけれど

冷静さを取り戻した芳久はその女性の履歴書と、その年代の集合写真等、

彼女が写真に写っている写真を全てそっと取り出して何事も無かった様に部屋から持ち出した。



それからの青年の行動は早いものだった。



『はい?』

「お疲れ様。あのさ、理香。 夕飯はまだ食べていないよね?」『…………そうだけれど、どうしたの?』


「理香が良かったら、今から、ご飯行こうよ。話があるんだ_____」

『………分かった。私は予定はないから大丈夫』



彼女が復讐者に豹変していくにつれて、距離が出来て離れて行くのは知っていた。

覚悟していた事は確かだけれどJYUERU MORIMOTOの不祥事は

事を重ねる事に真新しい話題が尽きずに世に晒し出て行く。

それは前触れもなく唐突にだ。


けれど裏を返せばそれは即ち、

復讐の証で彼女が望む復讐が進んでいるという事だ。

椎野理香はこれ程の情報網を編集者にリークしては、実母を崖から突き落とす。

JYUERU MORIMOTOの話題が世間に出て賑わってからは、協力者である自分自身と

“復讐者である理香”とはやや疎遠気味になっていた。


理香があの社長と何をして居たか。何を考えて居たのか。

協力者と言えど他人である芳久には分からない事だ。



芳久が指定したのは、繁華街の中華店。

込み入った話が浮かぶであろうから、話が聞こえない様に

予め個室の席を予約していた。


鞄に入った証拠材料をちらりと見据える。

この知ってしまった事実を、話してしまおうか。

そう覚悟を引き締めながら、芳久は理香が来るのを待っていた。


指定された個室の窓からは、

都心部の繁華街の鮮やかな夜景が伺える。

目に映る夜景は目に染みる程に綺麗で、何処か隔離された場所の様にも見えた。




その刹那、コンコンとノックする音が聞こえる。



「失礼します。お客様をお連れしました」

「ありがとうございます」


店員が連れて来たのは、スーツ姿の椎野理香。

芳久は店員に頭を下げ礼を言う。理香も礼を言ってから頭を下げてから此方に来た。

数日ぶりに見た彼女の面持ちは何処か変わった気がしたのを感じながらも


芳久は、あの女性と、此処に来た彼女をデジャウに思いながら

相変わらず、芳久は普段通りに穏和に微笑んで見せた。



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