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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第6章・壊れ始める糧とそれぞれの思い
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第63話・愛を知らない彼女

更新が遅くなりすみません。


この物語の前半、シリアスな心情描写がございます。

ご気分を悪くされる方もいらっしゃると思いますので、

その面をお気を付けて下さい。



JYUERU MORIMOTOは、あの悪魔は今頃、混乱の中に居るだろう。

けれど、これは当然の報いだ。

きっと自分自身の撒いた種は自分自身に返ってくる。


でも誰かが行動を起こさなければ、あの悪魔には

もしかしたら自分自身の悪行の行いは返ってこなかったのかもしれない。


だから。


帰ってくる様に仕向けた、自分自身の撒いた種、悪行を。


そんなことを考えながら

洗面台で顔を洗い、タオルで水気を拭き取った。

ふとタオルを置いてから、不意に鏡に写る自分自身の顔に理香は呆然とする。



手を伸ばし、鏡に触れると冷たさが指先に伝わる。

当然だが鏡の向こうにいる自分自身も同じ行動をしていた。


(私は本当にあの人の娘なの?)



母親である繭子とは、微塵も似ていない顔立ち。

その代わりに悪魔が憎しみを抱く、人物に理香は生き写しだという。

顔立ちや性格全て、繭子が全ての憎悪を注ぐ人物にそっくりらしい。

何故に自分自身はこんなにも母親から嫌われているのだろうと

最初は分からなかったが、それを知った瞬間に全てが分かった。

繭子が憎悪を抱く、あの人物はどんなに足掻いても“変えようのない人”。


だが理香は、悪魔が憎む人物、

自分自身とそっくりな人物が何者かは全く知らない。

それ故に_________



(私は誰に似ているの?)


本当に自分自身は、あの悪魔の娘か、と考えが霞む。

繭子は心菜を心底憎しみ、愛情ではなく憎悪の感情で接している。



理香は、愛を知らない。

母親から愛情を注がれた事は一度もない。

ただ代わりに言葉の暴力を受け続けた。

無条件の愛情も、人の温もりも、理香は知る機会もなく今まで生きてきた。


愛情を欲していた心が、

憎しみに変わった途端に、心はみるみる冷めていった。

氷の様に冷たく凍り、人から知られたくない、触れたくない自分自身に気付いた時

人の温もりも温かな情も、嫌悪感を抱くと共に苦手となって自分自身から遠ざけ始めた。


今、人の温情は、今の理香には毒であり要らないものだ。


よく『無償の愛が』という言葉があるが、それは一体なんなのだろうか。

愛が毒となった理香には、程遠くて未知なる世界にあるものだ。

その理由も答えはちっとも分からないままで、知らないままだ。

否、知りたくもないが。


けれど

時折にして頭の片隅で思う。

愛情を受けていたら、自分自身は変わっていたのだろうか。

冷たく凍った今の姿とは、別人の自分自身が居たのだろうか?


(_______想像出来ない。“私以外の私”なんて)


ふとした瞬間にそんな答えのない、自問自答している。


けれど今は、情がどうこうの問題ではない。

情を気にしていたら、こんな復讐など進む事が出来ないのだ。

自分自身はこれで良いのだ。厳冬に凍り付いた心であるからこそ、今、無情にも復讐を遂げれる。

何も感じられなくなったこの無情な心で、悪魔を貶められるのなら本望だ。

これが自分自身に与えられた人生で、宿命ならば。

……自然と、そんな気がした。


今まで通り、

このまま愛を知らないまま、生きていけば良い。


自分自身の"椎野理香"にとって愛と温情は、足枷となってしまうものだから。

冷たく凍った心と人格で、孤独を背負いながら。



(_________私は孤独で良い。孤独そのものが、私の友達なのだから)


人は裏切ったとしても、自分自身と孤独は裏切らない。



今、自分の行う事は、

自分の人生と心を潰した、悪魔という名の母親への復讐だ。




マスコミへのリークは、上手く行った。

JYUERU MORIMOTOの社長が親交を深めようとしていた

提携会社であるプランシャホテルを裏切って他と提携を結んだと言って、

この悪行を(おおやけ)(さら)せばどれだけ無慈悲で滑稽な話に出来上がるか。


この話は火を灯した瞬間に、みるみる大きく燃え上がった。

新聞やネットでは森本繭子を批判する声が盛り上がって、収集が付かない。

プランシャホテルには申し訳ない気がしたが、このリークしなければ

悪魔の事実を()らせなければ

プランシャホテルもこの悪魔の女の悪行を何も知らないまま

提携を進めていった事だろう。それだけは避けたかった。

このままでは、プランシャホテルも悪魔の野望に呑まれてしまう。





JYUERU MORIMOTOの前では、連日何人もの記者が張り込み

張本人の森本繭子が登場する瞬間をじっくり待ち続けている。

けれど、都合の悪い悪魔は姿を見せないままだ。


(貴女は自分自身の嫌なものは見なくないものね。

昔から変わらない)


そんなJYUERU MORIMOTOは、営業休止になったらしい。

出勤日となった日にJYUERU MORIMOTOの事務から連絡が来た。

いつ営業を再開するのかは未定で、社長は(やつ)れていると聞いて

控えめな振りをしながら、本心では『当然の報い』と思っている理香だ。



(_________当然のことよ。苦しめば良いわ)




_________プランシャホテル。



JYUERU MORIMOTOに裏切られた立場であるプランシャホテルに

世間は同情の声が飛び交っている。そんなプランシャホテルには、

理事長からの会社内だけで、お詫びと指示があった。

社員は社員ホールに集められた。周りはざわざわとしている。

プランシャホテルの身を案じる不安の声。世間話の声。JYUERU MORIMOTOを批判する声。



_______まるでノイズの雑音の世界へ来た様だ。




その目の前の教壇には、

プランシャホテル理事長の高城英俊が凛然と立っている。

高城英俊は、マイクの調子を確認してから、口を開いた。



「ええ、皆さん。

JYUERU MORIMOTOの件で、

提携会社の我が社が巻き込まれる形となり混乱していると思います。不安な人も居られる事でしょう。

ですが我々の会社は被害者であり、私達、会社や皆さんが臆する事はありません。

堂々としていれば良いのです。私達が怯む事ではないのです。


プランシャホテルは通常営業を続けます。

何も気にせず、皆さん何時も通りに勤務して下さい。


全ての責任は理事長である私が、引き受けます」


その紳士的な佇まいと、威厳は、神父の

会社全体の会議はその理事長の言葉で、幕を閉じる。

その理事長の言葉で不安が緩和された社員も居た。


しかし


たった一人。



(___被害者面をした、図々しい奴だ)



その中に居た

理事長の息子である青年は苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。



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