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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第5章・娘から悪魔へ送る白詰草の花
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第60話・復讐者に送られる絶賛の声




地方の大手ジュエリーブランド・aurora(オーロラ)との提携経営。

その代表と責任者に決まったのが椎野理香となれば、

周りは同然と思い、そして彼女に祝福の言葉を贈った。



「チーム長、凄いです。さすが〜」

「やりましたね。さすが我等がチーム長です。憧れます!!」

「……ありがとう。みんな」


JYUERU MORIMOTOの担当部署の人達からは、その言葉を贈られた。

だが、椎野理香はそれを自慢し、鼻にかける事はない。

当たり障りのない態度に皆は、好意的に見てしまう。

………彼女の目的等、知らずに。



他の部署、課長・部長クラスの人間からも

部下である椎野理香へ絶賛と祝福の言葉が並べられる。

最早、理香はJYUERU MORIMOTOにとって無くてはならない存在になっていた。


それは、プランシャホテルでもそうだ_______。



「椎野くん。向こうでだいぶ出世しているそうじゃないか」

「…………主任、そんな」

「なんか先を越された気分で寂しいよ。でも、此処(エールウェディング)には居てくれ」

「それは勿論です」



椎野理香が出世した噂は立っていた。

けれど。第二の提携経営の話はプランシャホテルには(おおやけ)になっていない。

単に話題になっているのは“椎野理香がただ出世している”という事実だけ。


しかし、悪魔の欲望がもし知られれば

大問題になり皆、驚愕するに違いない。



だが。

ただ周りが椎野理香を絶賛する中で、たった一人だけ喜べない人間が居た。

その人物は隅に居てひっそりと小さな祝福を贈っているだけ。


無条件の祝福の雰囲気と活気。

それはウェディング披露宴の祝福ムードにすら似ていると感じた。

きっと彼女は一目を惹き好まれている自覚はないだろう。


(誰一人、彼女の“目的”を知る人間はいない)


けれど素直にその祝福を贈れるのは

椎野理香の“陰謀”を知らない者が出来る行為だ。

彼女の本当の目的であり、陰謀を知っている青年は内心穏やかでは居られない。



(____上手く行けばいいけどな)



人生は、幾つもの挫折の落し穴がある。

自分自身は落し穴に落ちたと知らぬまま、道に進む人間だっている。

きっと賢い彼女は下手な真似をしない。きっとやり遂げるだろう。

けれど気付かぬ内にその落とし穴に落ちてしまうかも知れない。



遠くで小さく祝福を贈った青年は

そのまま気付かれない様に、一人、席を外した。





___________プランシャホテル、理事長室。



中央に座る理事長を、内心冷めた目で見ていた。

煌々と明かりが灯されている部屋の照明の光りは、眩しいを超越しているとさえ思える。


理事長、もとい高城英俊の片手に握られていた。

その紙切れを真剣な眼差しで見た後に、高らかに笑う。

英俊の手の中にあるのは、紙切れはある社員の履歴書。


___椎野理香の履歴書だ。




「確かお前の部署だったな。

椎野理香の出世は我が社にも大きな貢献をしている。

彼女の成長ぶりは誰もが想像出来ない程、想像以上に凄いものだ」

「………そうですね」


実父・英俊の言葉に、芳久は表向きにあしらった。

言葉の一つ一つから、理香すらもこの会社の道具になっていると深く感じる。

けれど周りが絶賛の声を彼女に多く上げている中で

芳久は微妙な理香の変化を気付いていた。


彼女は、確実に変わり始めている。

優しく穏やかに咲き誇っていた花が、突然にして鋭い棘を見せる逆鱗の華の様に。

昔の出会った頃の面影が消えつつあって、今ではまるで別人の様に思えた。


理香は確かに復讐者として、実母に復讐を誓っていた。


………分かっている筈だ。

復讐者となっていく度に彼女は遠い存在になっていく。



けれど。

絶賛されていく中で彼女は上辺(うわべ)では笑っては居るが、

その微笑みに混じる神妙な表情(かお)は一体、何を意味するのか。

彼女は例え周りが絶賛し、讃えられたとしても彼女は本心では喜んでいない気がする。


これから彼女の進む道は、どんな結末をあろうことか。





___________理香、自室。





(………もうすぐ。もうすぐよ)



あの悪魔が、堕ちる時が来るのは。

この膨大に集めた資料の証拠と、この今回の第二提携経営、契約書さえあれば。

十分にあの憎い女を地獄へ突き落とせる。




そんな事実に、理香は微笑を浮かべて、鏡に手を置く。

もうあの頃の面影もない復讐者は、ただ悪魔への憎悪に染まっていった。

次回から、新章スタート予定です。

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