表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第5章・娘から悪魔へ送る白詰草の花
62/264

第59話・核心に近付ける、ある交渉



プランシャホテルとの提携経営だけでも、この会社の景気回復は難しい。

向こうは上向きの業績を伸ばしているらしい事は知っていた。

だからこそ、それが悔しく憎たらしい。


自分自身の会社を置いておいて片方の会社の業績が上がるとは。


繭子の予想では、

プランシャホテルを踏み台にして、業績回復を遂げる筈だった。

プランシャホテルは単なる自身の会社を引き立たせる道具。

けれど、そうするには出来なさそうだ。



プランシャホテルには、

自分自身の会社の業績を回復させる事は難しい。

だが。


しかし此処で諦めて見守る位の根性を持っている繭子ではない。

目には目を。ならば、新たな策を考えれば良い事だ。

自分自身の欲望を満たす為ならば、悪の欲望で満たす。


ジュエルブランドのアポイントや交流筋なら、幾らでもある。

日本国内にだけに関わらず、海外にも数社の関わりとツテも。

その関わりのある会社をアポを取り提携経営を結びつけるのは簡単な話だ。



(あの華やかな栄光をもう一度、眼差しが、欲しい)


まだ物足りない。

あの華やかな脚光を浴びていた時代に戻りたい。



(_____プランシャホテルではもう無理よ)


ならば。

足りないのなら他で自分自身の(ふところ)を満たせば良い。

それで満足を得れる。

その為なら、金も時間もなんであろうと手段を選ばない。

女というものを武器にだってする。


繭子はが望むのは、揺らめく黒い欲望だけ。

その欲望を埋めさえすればよいのだ。


……………例え、それが地獄の契約だとしても……。





_______JYUERU MORIMOTO 本社。







「……らしいよ」

「え。ほんと?」


廊下にて女性社員のこそこそ、とした話が耳に入る。


それがJYUERU MORIMOTOに関連した話だと察した理香は

身を潜めて何気もなくその話に、耳を澄ませて傾けた。



「この会社って、また別の会社と提携経営するらしいよ」

「今、プランシャホテルと提携経営してるのに? 何処とするの?」

「地方の大手ジュエリー企業とらしくって……どうなるんだろ」


理香は耳を疑ったが、冷静に理解すれば訳は分かる気がした。

繭子は欲望に染まった悪魔。奴は何時、何を(ひらめ)き何をするのか分からない。


理由は言うまでは森本繭子は、

自分自身の私利私欲、欲望の為ならば手段を選ばない女なのだから。


察するに会社の業績が自分自身の思う様にならないから、

また何かの手を打って、手を出そうとしているに違いない。

話は嘘ではなさそうだ。悪魔は確実に新たなものに手を出そうとしている。


常に華やかなレールを歩き

絶望も知らず、他人を犠牲にしてでも自分自身の(ふところ)の欲を満たす女。

理香の感性が奪われた心の中で、ふつふつと湧き上がってくるのは憎悪。

………そして、あの悪魔という実母を地獄へ堕とすという感情。


(……………欲深い女)


(………でも。ちょうど、良かったわ)



"きっかけ"が出来て。

手を汚すという躊躇いも、これを知ったのならば消える。

ただ噂から掻き立てるには性に合わない。正式な何かを知ってからやってやる。

握り締めた手の中には、繭子の提案した内容の薄っぺらい計画書が入っていた。






「提携経営すれば、

お互いの会社の繁栄や跳躍にも繋がりますわ。

悪い話ではない筈。どうです? ここは踏み切って前へ進みませんこと?」

「………それは良いですね」


地方では有名なジュエリーブランドと話を着ける。


互いの会社の為に。

そうすれば新たな跳躍と会社の進出を期待出来る筈だ。

言葉巧みに優雅な振りの熱弁を奮えばすぐに相手方も本腰に乗ってきた。


『では、提携経営の証として、

そちらから代理人、代表社員を一人、設けて頂けますか』

「代表社員ですか」




そう言われて、繭子の脳裏に浮かんだのは、“彼女”。

椎野理香は誰もが認める敏腕社員だ。彼女を提携経営の代表人として、率いる部署を出しに使えば良いだろう。

電話を切った後、内線の電話である処へ掛ける。


「椎野さん、今から来て頂戴」




_______プロジェクトルーム。



「チーム長、社長がお呼びです。今すぐに社長室へと」



計画書の案に目を通していた時、後輩にそう言われた。

そう聞いて一瞬、仕事を邪魔された気分になり、気に障る。


(……また、か)


兼任社員として入社して数ヶ月。

事あるごとに繭子は社長室へ理香を呼び出す事が多くなり、

その度に媚を売る様な仕草と声音で込み入った話をする様になった。

これが溺愛にも似た気に入られている証拠というのは良いが、

仕事の邪魔をされるのは良い気がしない。



「……分かりました。ごめんなさい。後は任せますね」


チームの皆に、一声かけてから社長室へと向かう。




_______JYUERU MORIMOTO 社長室。





「……どういう用でしょうか?」



そう尋ねる理香に、

繭子は煙草を一本吸い終えた後、微笑する。

理香は繭子に視線を向けつつ、内心とんとん、と灰皿に指先で落とされていく煙草の灰を見詰めていた。


「お陰様で貴女がリーダーのプロジェクトは良い調子よ。

余りにも良い成績を残すから、あたし、思わず嫉妬する程なの。それで」


(仕事に、自分自身の感情を交えないで)


あんたの嫉妬が、どうこう、の話は興味はない。

表向きは真剣な面持ちで聞きつつも、心の中では冷めた眼差しを送る。

しかし繭子が上機嫌なのは丸見えだ。単純な思考の持ち主だからこそ

すぐに何かが決まればすぐに舞い上がっている事なんて、知っている。



「で、この本社だけでおしまいにするのは惜しいと思ってね。

まだ正式に発表していないけど、地方の有名ジュエリーブランドである

aurora(オーロラ)と提携経営する事が決定したの。


その会社の代表を貴女の率いるプロジェクトチームに、

そして交渉代表者に、椎野さん。貴女を指名したいのよ_______」



理香は眼を見開く。

やはり噂は真実だった。第二の提携経営に手を出した悪魔。

それに、その代表と責任者に自分を出してくるとはどういう魂胆なのか。


(プランシャホテル以外と、契約を結ぶなんてどういう意味?)


あれだけプランシャホテルに期待を寄せていたのに。

それを裏切り同然の行為を働き、今度は地方の会社と提携経営を結ぶとは。


(………プランシャホテルは、貴女はもう飽きたのかしら?)


悪魔は貪欲で飽きっぽい。

否。違う。プランシャホテルでは自分自身の(ふところ)を満たせないと悟ったからだろう。

だからプランシャホテルを裏切り、他社に(くら)替えしようと思ったのか。

己の(ふところ)を満たす為だけに。



何処まで欲深く、

自分自身の懐を満たす為なら手段を選ばない女だとは知っていたが

にしても今回は飽きる期間が早過ぎではないだろうか。



けれど。

これはある意味、

この悪魔の決まった定位置に着けるのではないか。

そうすればこの目の前に居る欲望の悪魔を堕とす絶好の機会だ。


(___________良いでしょう)



理香は、心の中で微笑を浮かべた。



「はい。ありがとうございます。

こんな私で良ければ快く引き受けます。よろしくお願いします」



悪魔を堕とす機会は、もう其処まで近付いている。




(………これから貴女が見るのは、どんな景色かしら?)







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ