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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第5章・娘から悪魔へ送る白詰草の花
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第58話・復讐者の猶予、思わせ振りな言葉



プランシャホテルと、JYUERU MORIMOTOとのミーティング。

今日の会議内容は、協同ブランドである、PURANNSYA JYUERU(プランシャジュエル)の事だ。


会議室では、PURANNSYA JYUERUの企画開発メンバーが集められ

前にあるモニターで企画開発の状況をプランシャホテル理事長である高城英俊が語っていく。

それに加えてモニターの右下ではテレビ電話が繫がれ、

提携経営者であるJYUERU MORIMOTOの社長・森本繭子も参加して話を進めていく方式だ。


「協同ブランドの利益と業績は、昇り高にあります。順調かと」

『そう思って良いでしょう。高城様の言う通り、開始当初から下落は見せておりませんし』

「この調子で行けば我が社も、森本様の会社の為にも良いでしょう」

『そうですわね。

ではプランシャホテルの皆様、今後ともよろしくお願いします』


そう告げる繭子は、ゆっくりと微笑した。


テレビ電話越しに会話するのは、欲望に包まれた同士。

プロジェクト企画状況、業績を伸ばしている証拠であるグラフも

モニターには映し出されており、その成果も如実の如くに上向きの景気だ。



プロジェクトの参加者メンバーであるエールウェディング課一同は居る。

暗闇の中で映るモニターの映像と社長同士の会話に皆、緊張感を抱えながら釘付けなものの


そんな中で1人だけ。

隅の目立たない席に座り、誰も気付かぬ場所で色々と書き留めていた椎野理香は何時に無く真剣な眼差しで

プロジェクト企画状況を見詰めている。


一方で右下の画面に映る森本繭子に対してだけは、

心の内では酷く冷めた目で見ていた。


(貴女はいつもそう。

自分自身の(ふところ)が満たされれば、笑いが止まらないの)




協同ブランドの業績は昇り高の中にある。

個人業績ではプランシャホテルが上昇、JYUERU MORIMOTOは下昇している。

しかしそんな個人的な業績は理香には関係ない。

協同ブランドとして纏められた全てが一番となる。

理香は何食わぬ顔でモニターに映る会社同士の業績をただ見詰めて密かにメモを取って居たが、心中では冷静に言葉が溢れていた。



(__________どす黒い)



欲望に包まれた社長同士の会話は、毒を含んでいる。

双方の会社の為と簡単に口にするが、結局のところ自分が一番可愛い。

上品な言葉で包み隠しているものの、その身包み(みぐる)みを剥がせば、完全な欲望の私利私欲の塊。

嗚呼。なんと大人の事情に包まれた欲張りな陰謀なのだろうか。




まあ、良い。

全てはこの業績次第に掛かっている。

この業績のグラフが昇り高のままでさえ居てくれれば、

自分自身の事も上手く進むのだから。


内心、理香は協同ブランドを宜しく思っていない。

思惑の黒___それらを持っている人間が形にすれば、

とんでもない陰謀が生まれ、形となって現実に現れる。


ただ、今悪魔はこの協同ブランド、

ホテル最高峰のプランシャホテルとの提携経営を結べた事を

喜んでおり上機嫌なので、周りは見えてない。_____この女に、憎しみを抱いている娘の存在を。


だが。


(………貴女が、そんな上機嫌で居られるのも何時までかしらね)


理香の思惑と陰謀も、リミッターは外された。

全ては悪魔への復讐の為に捧げるもの。

その悪魔の、堕ちる瞬間を見たいだけ。


あの華やかな道しか歩いていない女が、

失望し地面に這いつくばる哀れな姿を。






__________JYUERU MORIMOTO、企画部署。



定時の時間になり帰りの時刻を伝えるチャイムの音が聞こえた。

企画メンバーはそれぞれ立ち上がり、帰る身支度を済ませている中で。



「椎野さん、お疲れ様です」

「……お疲れ様。

皆さん、気にせずに先に帰って、溜まった疲れを休ませて下さい」

「え、でも。椎野さんは…………」

「私は大丈夫です。なので皆さん、

自分自身のペースで動いて下さって構いません。だから遠慮はしないで下さい」


理香は偽りの微笑を浮かべた。

そう理香が告げるとすみません、と言ってからメンバー皆は帰って行った。

一人一人見送ってから、手元のパソコンの画面へと視線を戻す。


メンバーを定時に帰らせたのには、理香なりの考えがあった。

孤独に慣れ切った孤高の理香にとって、一人きりの方が仕事をしやすいからだ。

それに一人きりの方が、色々な情報も入手出来る。


(…………私の立場は便利なのかも。

一瞬は迷ったけれど、JYUERU MORIMOTOに乗り込んで正解だった)



今日は仕事が立て込んでいた。とても1日では終わらない程の量だ。

この企画プロジェクトは順調な業績を伸ばしていて、落ち度がない。

不景気の煽りを受けているJYUERU MORIMOTOでこの部署は唯一の救いだ。


残業と評して理香には考えがあった。

この会社のパソコンならばJYUERU MORIMOTOの全てが配布され

部署の業績グラフは勿論、会社の業績グラフや現在に至るまでの状況まで

側からでは分からない事も、この場所に訪れれば無条件に画面に向かえば全てを教えてくれる。


だからこの際

この会社の事も色々と調べられるこのデスクワークに長居をして

一つでも新しい事を飲み込んでおきたかった。……"今後の為に"。


自分自身の性格上、一人でやる方が良い。

集中力も人目を気にしなくて良いメリットに溢れていると見込んで探る。



(………やっぱり、可笑しいわ)


理香は業績グラフを静かに睨む。

プランシャホテルと、JYUERU MORIMOTOの合同ミーティングではJYUERU MORIMOTOの業績グラフは、真ん中より上にあった。

けれど元の回線を通し、最初から探ってみると


業績グラフは、真ん中より随分と下。右肩下がりに明らかに低迷している。

会議で出されていた業績グラフとは、かなり違う。


(………まさか)


理香の脳裏に、ある考えが浮かんだ。

だがそれは、あの悪魔がやりそうな事だと開き直ると同時に静かに微笑する。

理香は鞄からUSBメモリーを出すと、パソコンに繋げてコピーする。

USBメモリーがパソコンの内容をコピーしている間、

無情な表情で、理香は業績グラフを見ながら思う。



(そうね、貴女は、自分自身の欲望の為なら、手段を選ばない人だったわね)


(………けれど、貴女の“華々しいお城”は何時まで続くかしら?)






「………………終わりね」



全ての仕事を済ませてから、一息付いた。

パソコンの電源を落としてから、ふと周りがやや薄暗くなっているのに気付く。

気付けばもう夕暮れの空から淡い紫色が交じった空_____陽が落ち始めている事に。

仕事上問題は全く無いが、かなり長居をしてしまった様だった。



時計を見れば時間も

定時の退社時間から随分と過ぎていて通りで

辺りが既に暗い事が、周りの景色を見て教えられた。




だが。此処に来て損する事はない。


さらなる証拠も入ってきた。

全てを済ませた事だから、もう帰ろう。


身支度を整えてから、

理香は帰ろうと部屋を出てエレベーターホールに行くとちょうどエレベーターが開いていた。

エレベーターに乗り込んでから【閉まる】ボタンを押そうとした時、

もう聞き慣れた、まるで叫びの様な声が聞こえる。



「待って頂戴__________!!!!」




その声の方へ視線を向けた瞬間に、心が豪雨の如く冷めていく。

手元が間違えていたらそのまま【閉まる】ボタンを押していただろうに。

相手が悪魔だと気付いて直ぐ様に【開く】ボタンを押して、相手を入れた。


慌てて入ってきた繭子は、息を整えてから相手を見る。

それが自分自身のお気に入りの人間だと気付いて、詰め寄ろうと思った。



「…………社長、お疲れ様です」

「ええ。お疲れ様。……あら椎野さん、今頃、退社なの?」

「仕事が立て込んでいまして。今の時間になりました」

「そうなの」


二人だけの、エレベーターの密室空間。

知らない実母と知っている実娘を乗せてエレベーターは静かに降下する。


静かに壁に寄りかかり、

エレベーター降下している証拠である数字をただぼんやりと見上げている理香。


何時もと乗っているエレベーターには変わりない筈なのに

なんだか、悪魔と二人きりで乗っているこの時間はとても長く感じられた。

まるで底の無い悪魔の奈落に引き摺り込まれていく様な感覚。


孤独を佇ませながら、静寂な雰囲気を醸し出している彼女。

その雰囲気に声を掛けるのは躊躇を覚えるものの、

そんな事くらいで繭子は怯まない。


刹那的で頑な彼女を、

なんとか自分自身の(ふところ)に入れて置いて置きたいものだ。



「貴女のお陰でプロジェクトは順調よ。高評価を受けているわ」

「……そうですか。なら、良かったです」

「このプロジェクトでJYUERU MORIMOTOの基盤が戻りつつあるのよ。

だからそろそろ地を固めて、本腰を入れてくれないかしら?」


その刹那、ぴしり、と理香の中で亀裂が入ると同時にそれを察する。


要するに遠回しだが、プランシャホテルを辞めて

JYUERU MORIMOTOに入れと言われた様なものだろう。

悪魔は執念深く諦めないのは心で分かっていたけれど、

露骨に此処まで言うのか。


(………図々しい人。

流石、欲望の為ならば、他社に勤めている人間に辞めてまで来いと?)


刹那に理香は悟る。嗚呼、そうか。

自分自身は今、悪魔の言いなりに、お気に入りの人間だ。

だがたまには、否定からではなく肯定論で言って

期待を持たせて見ようかと思った。


「…………己の地を固めるですか……そうですね。“いつか”は」

「そうなの!!」


案の定、悪魔は食い付いてきた。

獲物を欲する様な形相の繭子に理香はやんわりと


「けれど今は

順調な軌道を見せている両社に水を差す様な事をしたくないんです。

協同ブランドの件もありますし、双方の力添えになればと………」


「そうなの。残念だわ。でも、この協同ブランドの業績も

下落を見せずに順調に上がってもう少しでピークを迎えるから

落ち着いたらこの会社に移籍する件、頭に入れていて頂戴ね?」

「……はい」


(誰が貴女の会社に移籍するものですか)


繭子の言葉に、理香は軽く目を伏せて頷いた。

本心をあやふやにしながら、思わせ振りな言葉で今は繋いでおく。

そのちょうど、エレベーターは1階に着いて音と共にドアが開いた。



「じゃあ、また」

「……お疲れ様です。社長」



理香は軽く手を振って、繭子を見送った。

そんな欲望の社長の後ろ姿を見送りながら、心の中で微笑する。



(__________もうすぐね)



条件はそろそろ揃おうとしている。

充分な証拠は、自分自身の手元にある。後は条件が揃うのを待つだけ。

そろそろ、悪魔の女を突き落とす時が来る。時間は間も無い________。



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