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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第5章・娘から悪魔へ送る白詰草の花
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第52話・狂わされる悪魔




話し合いも終わり、理香が会社を去った後、

繭子は社長椅子に座り仏頂面で目の前のデータを見詰めていた。

その眼差しはやがて歪み、眉間に皺が出来、睨む様な狂気の眼となる。


(どうして、上手く行かないのよ……!!)


目の前にあるのは、椎野理香の個人データ。

真面目な面持ちの写真を睨み付ける様に見た後、染み染みそう思った。

プロフィールの参考事項には、『プランシャホテル社との派遣・兼任社員』と

存在を表すかの様に太く色濃く書かれてあり、それが繭子の感情を逆撫でする。


この文字を消したい。

正式にうちの会社の社員となって、集中的に勤めて欲しい。

今回の自分自身が押し通したプラン計画は椎野理香の出勤日しか進まないのだから。


否。自分自身の欲望としても、繭子は理香が欲しかった。

自分自身の会社を救ってくれる唯一無二の優秀な人材を(ようや)く見つけたのだ。

そうなれば完全に自分自身の側で取り込みたい。

けれどどれだけ遠回しに完全入社する様にと促しても、椎野理香は上手くすり抜けていく。

それに抗いどんなに引き込もうとしても、あの彼女には不思議な力があって

私利私欲の女王である繭子でさえも強引に引き込む事が出来ない。


_______それは、何故だろう?




何度もそう考えたが、答えは見つからないままだ。

苛立ちを晴らす為に煙草を一つ取り、ライターで火を灯し吹かす。

煙草を唇から離すと溜め息混じりの吐息が、虚空へと舞い消えていく。


そんなことを考えながら、以前自分自身の息のかかった人間に

ふと前に調べて貰った椎野理香の報告書の調書を手に取って目を通す。








実母の母性が欲しくて感じたかった。

無条件の愛情はどんなもので、それはどんなモノか理香は知らない。

昔はそれが知りたくてどうしても振り向いて欲しくて、

努力を重ねて来たがそれすらも無駄だった。

繭子にとって、娘は”都合の良い操り人形”だったのだから。


今は、もう、悪魔の心など欲しくはない。

もしあったとしても、全てを理解し知った今ならば、

『要らない』と跳ね除けてしまうであろう。

今、理香の心の中にあるのは。


(_________あの悪魔の魔の手には、絶対に嵌らない)





「髪飾りか、ティアラどちらが良いですか?」

「ティアラが良いです……。でも、どれが良くて似合うのか分からなくて」

「そうですか」


理香は装飾品に迷いを見せる花嫁に、優しく接してから装飾品に視線を向ける。

今日はプランシャホテル、エールウェディング課の社員。

だが提携経営を結んだ上に協同ブランドが誕生してからは

JYUERU MORIMOTOのジュエリーが込められた物も増えた。


プランシャホテルの要いた装飾品の中で

JYUERU MORIMOTOのジュエリーが込められた装飾品も増えた。

しかしJYUERU MORIMOTOのジュエリーは社長の趣味嗜好が、

取り入れられており全て原色の派手派手しいもの達ばかりで


何処かで落ち着かない。

宝石をちりばめた装飾品も、全てどぎつく強いものばかりだ。


(………“あの人”の宝石)


理香の脳内にはそう、固定観念があるからか。

内心ではそれらに冷ややかな眼差しを送りつつも、

それらを隠して笑顔を作り、

花嫁が希望したそれに似合う様な物を見定める。



花嫁はまるで

凛としつつも強く咲き誇る朝顔の様な雰囲気を持っている。

穏和ながら強い芯を持つ雰囲気に似合い、

その優しさを引き立てるティアラは無かろうか。


そんな時だ。

銀色でところどころに薄紫色の花の形が刻み込まれたティアラを見つけた。


それは、JYUERU MORIMOTOの物ではない。プランシャホテルの物だ。

綺麗な花輪の様な代物に理香は、それを取ってから

そっと鏡の前に座る花嫁の頭に乗せて提案する。


「_______これはいかがでしょうか?」

「まあ、素敵ですね。是非これにしたいわ」


理香が差し出した

代物の花輪の様なティアラに、花嫁は微笑んで頷いた。




理香にとって、あまりJYUERU MORIMOTOの装飾品は

顧客が望む以外はあまり勧めたくは無かった。


何故なら社員がデザインしたモノも

最終的にはあの社長が自分自身好みに変えてしまう。

悪魔がデザインした代物など勧めたくない。第一どぎつい物ばかりだ。


それに、理香は知っている。

協同ブランドの装飾品が選ばれずに指名され無ければ

その場合は、JYUERU MORIMOTOの評価と株が下落していくことを。


(____堕ちて行けば良いわ。

貴女は華やかな道ばかり歩いてきたのだから

次は底沼のない闇色の絶望と、喪失感に苛まれたら良いのよ)


内心の憎悪と

共に浮かんだのは、くすり、と浮かんだ微笑。




繭子は業績のグラフを睨む様に見詰めていた。

プランシャホテル社との提携経営、協同ブランドを結んだにも関わらず

JYUERU MORIMOTOの業績は何時もと同じくらいに下落して落ち込んでいる。

プランシャ社と提携経営を結び、椎野理香が発端にしてプラン企画を掲げた事で

この業績は上昇すると思っていた筈なのに、予想外の結果だ。


(……………なんで降下しているのよ!?

あの椎野さんも加わっているというのに、どうして上がらないの!?)



何故だ。何故だ。

自問自答を繰り返しては、頭を掻く様にして抑えた。

世の中が不景気の波に飲まれ晒されているのは、知っている。


けれど悪魔の根性はそれを認めたくはなかった。

どうしても、自分自身の価値であるこの会社を存続させなければ。

その為ならば、どんな手段も厭わない。


低いグラフをまた書き換えて、高くなる様に水増しする。

表向きの業績は良くすれば良い。回復しているのだと

思わせながら、ひたすらにグラフを高く書き込んだ。






理香は微笑する。

ガラス張りになっている廊下の角度からは部屋が伺える。

理香が立っている場所___其処から社長室が見えて、悪魔が踠いている事に。

そうだ。この際、もっと苦しみ苦悩を覚えれば良いのだ。



それが自分自身を奴隷の様に扱い、粗末にしてきた罰なのだから。

復讐を誓ったあの日、あれから心中で嘲笑が止まらない。


悪魔の苦しむ姿がこんなにも心地良いとは。

悪魔は知らないだろう。自分自身が計算した上で会社の業績を下げている事。


あのプラン企画は、理香にとってはどうでも良いのだ。

だから表向きは、プランシャホテルの顔を立てる為に、

熱心なふりをしているが、本当は没落を望んでいる。




厚顔無恥な、女め、



______もがき、苦しめ。



理香は心からそう思う。

復讐はまだ序章だ。これから悪魔を地獄の沼底へと突き落としてやる。




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