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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第5章・娘から悪魔へ送る白詰草の花
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第47話・あの頃の面影を消した復讐者



今、愛情が欲しいと言えば、理香は否定する。

あれだけ渇望し欲していた愛情が、最期の実母に言われた言葉や

復讐を誓った瞬間から自分自身には愛情なんて要らないと、

心に存在するのは、“復讐心”だけで良いと思い始めた。


(…………私の望みは、“あの人”を破滅させるだけ、よ)


全ては、復讐の為だけに。

それ以外はくれたとしても、跳ね返すだろう。




芳久からの電話を閉じた後、

入れ替わる形で今度は繭子から電話がかかってきた。

やっと隠蔽主義の女社長、悪徳業者である会社の勤務から解放されたと言うのに、とも思ったが

溜め息一つ着いてから『通話』を押しスライドさせて、電話を受け取る。


「はい」

『あ、椎野さんかしら』

「……はい。椎野です」


今更なんだろうか、と呆れた眼差しと気持ちになりながら

それらを隠して、何時も通りの落ち着いた声音を発していく。

疲れていると悟られない様に、相手にしたくないと思っていても、

それを表には出さずに取り繕った。


「……社長、どうしました?」

『あのね。さっき言い忘れていた事があって。

実は貴女の考えた新開発プランを形にしたいのよ。

それで貴女にそのプランの企画の責任者になって貰おうと思ってね。


悪い話じゃないでしょ?


貴女なら、顧客のニーズに完璧に応えてくれる。どうかしら』


あの参考程度に出したプラン。

それが予想外に悪魔に気に入られ、商品化するらしい。

それは理香自体も意外だったが、最初は深入りしたくないという感情から断ろうとしたが


(………私は、“この人”に気に入られ始めてる?)



逆手に考えれば

悪魔に近付き復讐するチャンスであり、

悪魔に気に入られ距離が縮まってきている証拠だろう。


(………なら利用しても、いいわ)


そう考えれば、絶好の良い機会だ。


「……兼任社員の私が提案したそんなプランを商品化して下さり

加えてその責任者に就いても良いでしょうか?」


『当たり前じゃない!!

優秀な人材で信頼の厚い貴女にだからこそ、

なって欲しいのよ。 これはあたしの推薦も入ってるんだから。


だから、ね? どうかしら?

あたしは是非、貴女にお願いしたいのよ!! 良い話でしょ?』


思わず自分自身の私利私欲に溺れた計画的な声音。

理香は熱気の入った大声で話す悪魔の女の声に、無意識的に携帯端末を遠ざける。

こんな音量制限のない熱弁を振るう繭子に、理香は対して思う。


(………鬱陶しい。自分自身の私利私欲になると必死になるんだから)


自分自身の手許に置いておきたい気持ちが丸見えだ。

優れた人材でも置いて低迷しつつある会社の業績でも上げたいのか。

だが当然だと悟った。


この悪魔は

自分の身の周りの事なら、どんな悪行でも手段を選ばない。



「……では、有難くお受けします。

こんな私ですが誠心誠意務めさせて頂き頑張ります」

『そう、良かったわ!!』


電話越しに伝わる悪魔の、私利私欲に溺れた歓喜の声音。

それに理香は哀れみの眼差しと冷たい微笑を浮かべていた。



(_______今に見ていなさい、魔性の悪魔)


今の悠々自適な自分自身の生活と思惑が何時まで続くか。

それには、実娘によってリミットがかけられていることを知らないだろう?







(…………どうせ貴女には、待つ事しか出来ないのだから)



指先を動かし、パソコンのキーボードを打つ。

薄明かりだけを灯した部屋で理香は、

画面を見詰めながらひたすらにパソコンのキーボードを打ち続けるその指先は止まらない。

これまで調べに調べ上げた森本繭子の事、全てだ。


業を燃やしている会社・JYUERU MORIMOTOのことを

散々、飽きる程に調べて纏めてきた。


『母親』と言いながらも理香は繭子の事をあまり知らない。

日々顔色を伺いながら生活していたせいか、

繭子の“女社長”の一面はあれから見た事がなかった。


しかし、森本繭子、という女は全て虚偽で造り上げられていた。

華やかな育ち、都内では名門、高い偏差値の女子学院を卒業、

偏差値の高い名門の大学に進学し、大学生の時に、自ら起業をしている。


だが、それは全て嘘だ。

学歴詐称、経歴詐称、加えては自分自身の年齢を大胆にも20歳もサバ読み。

本当は私立女子学院を受験したものの不合格、大学も都内では名の知れないところだった。


大学生の時、自ら起業したというが

それは事故死した親の遺産を勝手に使い込み親の遺言を無視して、繭子起業した。

女社長になった後は華々しい業績を残しているが、それすらも改竄(かいざん)されたものだ。


シングルマザーで女手一つで、一人娘を育てている。

………娘に虐待を繰り返している事は隠して。


(…………貴女の経歴は、穢れの一つもない、華やかしいものね)


非の打ち所のない、華麗な経歴。

しかしそれは虚偽で表向きを繕ったに過ぎない。

悪魔は自分自身の欲望、私利私欲を満たす為に虚偽を付いてでも華やかな栄光を手に入れてきた。

本当のものなんて、悪魔には何一つ有り得ない。


もう知ってしまった事は良い。

後は______。


(私は、タダでは済まさない………。痛い程に絶対に仕返しして

貴女の企み執着しているもの、全てを奪ってあげる………これは)


私の人生や他の人を弄び、操ろうとした罰よ。



心菜の心は、繭子によって殺された。

身体的な虐待を経て、精神的な虐待を繰り返されて生き苦しい中、

最期の最期で言われた言葉の(ナイフ)に絶望という名の止めを刺され、

自分自身の“隠された秘密”を知った末に森本心菜は死んだのだ。



自分自身が理不尽な理由で操られた末、心菜は殺された。

それならば椎野理香は、繭子を絶望に追い詰める復讐者として

森本心菜から生まれ変わったというべき存在だろう。


“椎野理香”は、心菜の絶望から蘇った別人格。

全ては実母である繭子を憎み、自分自身の受けた仕打ちを返す為だけに。


椎野理香となってから、

全てが変わりつつも、理香自身で、自分自身で変えてきた。

髪を伸ばして染髪し、成長に伴い背丈もかなり高くなった。


その控えめな端正な美貌は洗練され磨かれていき、

自分自身を纏う雰囲気すらも全て変わっていた。



けれど。

ただ、ひとつ。




それは鏡を見れば、分かる。

自分自身では見えない顔立ち、

あの悪魔が長年に渡り憎悪を抱いている顔立ち。


それだけは唯一、変わっていない。



顔立ちそのものは、勿論、弄っていない。

成長に従い変わったというのもあるが、そんな大々的に変わっていない。

化粧は苦手だから素のままの顔立ちままでいる。


しかし自分自身でも何処かで変わった様に思えるのは

きっと気のせいじゃない。それに変わっていなければ

流石の悪魔に一瞬で見抜く筈だ。


それは

雰囲気が変わったせいだと理香は、てっきり思っていた。



けれど、事実は違う。

それは、幼少時から劣悪な環境で親の顔色を伺いながら、生きてきたせいで

幾度とない苦労してきた影響もあり、物憂げな顔付きへ自然になっていたのだ。



“椎野理香”という、心菜が絶望から生み出した人間。

理香が年を重ね、美貌に磨きがかけられていく度に

心菜の面影は、また一つ、ぽつりぽつりと消えていく。



加えては

母親とは一つも似ていない顔立ち。


それは、理香にとっては好都合だ。

心菜の面影が無くなれば無くなる程、自分自身は椎野理香として

生き易く復讐者として心置きなく、復讐を計画していけるのだから。

心菜の面影なんていらない。心菜の面影があれば、それが邪魔となる。


必要なのは森本心菜から分離した、椎野理香だけで良い。

復讐者となった今では、あの悪魔がまた自分を操ろうとするのなら、自分自身はそれに抗ってやる。



『……いつ、(おおやけ)にするつもりなんだ』



あの時の電話で聞かれた言葉。

芳久が言っていたものは、出来上がりつつある。




理香の計画は、全て出来ている。

それは失敗しない様に仕組ませ、全てを計画的に仕組んだ。

それはあの悪魔の女の大切に執着しているものを

根刮ぎ奪って潰してやる為に。


書き打ってきたものの内容は、JYUERU MORIMOTOの

営業グラフの改竄(かいざん)の件、森本繭子の学歴・会社の略歴の詐称。

他の会社の業績の略奪、数え切れない程の悪行を悪魔は

罪悪感も感じずに表に出し『ジュエリー界の女王』になり

今では横暴に好きにやり放題している。


“これ”は見るだけでも反吐が出る内容だが、

もし有名な会社の女社長がこれだけの詐称や改竄していると知れば

世間はどう思い、変わる変わるの世間の話題に皆はどう思うだろうか。



そう。

今の提携ブランドのピークを迎えた、その瞬間。

森本繭子とJYUERU MORIMOTOの、全てをマスコミを通じて

世の中へバラすつもりだ。



理香は、悪魔を潰し奪うつもりなら、

何の手段も選ばない。……例えば、自分自身が壊れてしまうとしても。



少し修正・加筆しました。

これからはもっと集中力を高めて、ミスのないように

コロコロと変わってしまう結果ですが、よろしくお願いします。


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