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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第5章・娘から悪魔へ送る白詰草の花
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第46話・子供は親を、親は子供を、誰も選べない




休日。今日は雨が降っていた。

今まで晴天の中の日々で珍しく天の恵みが

降っているのを見詰めながら理香の気分と心は、一瞬で沈んでいく。


それは、何気なく付けたテレビのニュース。



「________今入りました速報です。

草木の中で黒袋に入れられた、子供の遺体が見つかりました。

長らく身元不明でしたが司法解剖の結果、その子は 5才の◯◯ちゃんと判明。


◯◯ちゃんの体には無数の火傷や痣があり

病院が不審に思い警察に通報。警察が虐待ではないかと

調べたところ、◯◯ちゃんの両親が犯行を自白。


日常的に両親が虐待を繰り返していた、ということです。


東京○○署は

容疑者である◯◯ちゃんの両親を、直ちに殺人・死体遺棄で逮捕________」



心が疼く。

また尊い命が消えたと悟った瞬間に、終わったニュースを消した。

無意識のうちに足元が崩れ落ち、

理香は手を付いて項垂れて眼を伏せる。


子供は親に振り回される。

純粋無垢な子供は、大人にとって操られる操り人形だろう。

子供を操るのは大人だけの特権であり、エゴなのだから。



虐待によって消えた命。

身体・精神的な暴力によって、

しまいには親の手によって殺められた。

子供は何も悪くない。大人の、親の理不尽な都合と理由で、

傷つけられ最悪、その儚い小さな命を落とす。

全ては、身勝手な大人の事情________。


テレビを消した後、

ベッドに座っていた理香は崩れる様にベッドに横たわり静かに眼を閉じる。

(やが)てに仰向けになり、目元に腕を置いた後、

そっと手を虚空へと伸ばし天井を見ながら神妙な表情(かお)を浮かべた。


理香の脳裏に、自分自身の経験が蘇る。



『どうしてなのよ…!!! 本当に何もかも“アイツ”ににそっくり。

成長すれば変わると思っていたのに。誰からもちやほやされて。

穢らわしい。まだ子供の癖に人に媚を売っているなんて。

あたしの娘として、恥ずかしいわ!!


なんであんたは、あたしを苦しめてばかりなのよ!!!』


脳裏に霞んだ悪魔の怒号。

悪魔の言う言葉は決まっている。

いつも口癖の様に、呪文の様に、言っていた。



あの頃、自分自身も虐待されていた。

小さい頃、繭子はそう言いながら、暴力さえ振るったが、

世間に傷と痣のある娘が居たら何か疑われるのではないかと考えてらしく

顔や手足の見える所は避けて、なるべく服で隠れる場所、


背中や胴体、髪を引っ張る等、

なるべく痣が出来ない方向の暴力をされていた。


当然、あちこちに傷や痣が出来た。

けれど服さえ着れば隠れる。流石にに見えてしまう所まで

傷と痣が及んでしまった時は長袖のシャツを来たり、

自ら自分自身で転けて付いてしまったのだと相手に思わせてなんとか誤魔化していたか。


髪は整えたり結わえれば、

普段通りに過ごせるが、髪の毛は大量に抜けていた。

きっと母親からのストレスからだったろうと思うが、

幼い身ながら心菜は円形脱毛症も患い、その部分を隠す為に、


その要因が、虐待だと悟られぬ様に

独学で結わえて隠したり、編み込みにしたりと試行錯誤する日々が続いた。


『子供の癖に、色気付く事を覚えたの? 気持ち悪い』


地道の努力の基盤を(つちか)っていく心菜に対して

嫌味げにその媚びに満ちた罵倒を、平然と実娘に浴びせた。


繭子は長髪を嫌って居たので、

肩に(かす)るくらいしか髪は伸ばせなかった。

それでも髪も長さについてどうこう言い、文句を付けてくるものだから抑えて居たが


密かにロングヘアに憧れていたのも、今となっては怨念だ。

ロングヘアの願望は大人になり、果たす事が出来ている。





(…………下手をすれば、私も殺されていたのかも知れない)


色々と思い返してみると、自分自身が生きている事が不思議だった。



繭子は、女社長として世間体を気にする女だったから

不様に虐待を繰り返しつつも、娘が息絶える事は許さなかった。

事実、何度が意識を失った記憶があるが、

悪魔によって強制的に失いかけた意識を取り戻した事がある。


『死なないで頂戴。あんたが死んだら、あたしの名誉に傷が付く!!』


”死なないで“は、娘を心配する訳ではない。

もし自身が死んでしまい虐待が(おおやけ)になれば、

女社長の地位と名誉に傷が付いて取り返しがつかなくなってしまう。


けれども奴は、娘を心の底から嫌っていた。

きっとこの世に法律と警察、社長という自分自身の立場が無ければ

悪魔はきっと実娘を殺めていたに違いない。



虐待していた事はひたすら隠した。

異常だとは感じ始めたが、洗脳された思考で、

操り人形になっていた自分自身は“母親から受ける虐待を無視した”のだから。



けれど、どれだけ平静を繕っても、

受けた心の傷はだけ隠せない。



だが、言って解決するものではない。

ひたすら隠し我慢した。もし虐待を言ってしまったら

倍返しという形で躾という名の虐待が返ってくる。


否。

本心を言えば、

子供心に辛く怖かった。


般若の形相と、自分自身を罵倒をする母親が。



怯える心を隠し、

悪魔の狂気に満ちた拳、暴言を受けるしかなくなかったのだ。



『……お母…さん。ごめ…んなさい……』



自分自身が悪いと思っていた。だから謝り続けた。

悪魔の狂気に満ちた顔で、自分自身の首を絞めていく母。

苦しく息が切れてしまいそうになる寸前で、ようやく離されて

何度咳き込んで息を、薄れていく舌を噛み、意識を吹き返した事か。


(………死ぬのは嫌……)


そんな日々を過ごしても、耐えて来たのは

当時 母の愛に飢えていていつかと、愛が受けられる事を望んでいたからだ。

我慢すれば、良い子で入れば、いつか振り向いて貰えるそんな事を。



暴力の身体虐待は、幼稚園卒業まで続いた。

けれど小学校に入ってから悪魔は、心理的な虐待に切り替えて

暴力を振るう代わりに、言葉の暴力を繰り返す様になったのだ。



『あんたは計算付くな子。…………ムカつく。

あたしの気の障るばかり事をして。

母親のあたしを虐めて楽しい? 親を虐める娘って、何様なの?』


『いつまで良い子にしてちやほやされたいの。馬鹿な事を……。

あんたのせいで、あたしの価値が下がるじゃないの。

本当に親不孝な子。


どうして思い通りに生きてくれないのかしら。

ああやっぱりあんたは、

あたしを苦しめて楽しんでるんでしょうねえ。

……煩わしい。気持ち悪い』



じゃあ、どうすれば良い。

赤点でも取れば良いのか。そうしたらまた文句を言うのだろう。

『出来損ないの娘』とか言って罵倒して、自分自身の品格を落とした等と言うに決まってる。


けれど、小さい頃からの願望を沈める事は出来ずに

"本当の理由"を知らなかった自分自身は、未だに愛情を求めていた。




物憂げなまま、起き上がる。

虐待の連鎖は止まる事はない。虐待によって尊い命が奪われていく。

悲しい現実と社会の現状は変えようにも変えようがないのだろうか。

虐待死が発覚してから、世間は初めてスポットを当てる。

けれど。


(…………それではもう、遅いのよ)


虐待している者は、『虐待している』なんて思ってない。

連鎖は終わらない。願っても無いのに続いていくだろう。

子供は親を選べずに、ただ置かれた環境に立たされるだけだ。


理香はそんな事を思いながら、

更に繭子という名の悪魔への憎しみを背負い

ふつふつと湧き上がる感情に、更なる復讐を考えていた。



悪魔への仕返しを。理香は胸元を握り締めた。

12年間に育ってきたこの劣情を晴らして、悪魔には苦しんで欲しい。




ある日。

JYUERU MORIMOTOで働いていた理香は、社長に呼び出されていた。

心の何処かで悪魔に近付くには絶好のチャンスと思いながら、

平然とした態度で社長室に向かい、君臨する女王の悪魔と接する。



「社長、なんですか?」

「今日はね、貴女の考えたプランについて話したいの。

あのプランは顧客からも人気だし、それを知った新規のお客も

来たのよ。さすがエールウェディングの優秀な社員ね。

貴女に来て貰って良かったわ。


ねえ、もうこの際、うちの会社に移籍してほしいくらいよ」


理香が会社に訪れてから、営業成績は上がっている。

それに目がくらみ、ギラギラとした狂気と眼差しを送る繭子に理香は


「……いえ、それ程でも。

私の才能ではなくたまたまお客様に合う商品が

見つかった機会だっただけに過ぎないと思います。

私自身はまだ未熟者ですから」

「あら、相変わらず謙虚ね。もっと高く見積もっても良いのよ?」


あの頃、欲しかった言葉。

けれど、今は反吐を出てしまいそうなくらいに憎い。

礼節を弁えた相槌と言葉を打ったあと、社長室を後にする。


一旦、エールウェディングへ帰宅する中でかかって来た電話。

相手は芳久だった。周りを見回し(やが)て誰も居ない路地に隠れて電話を取る。


「はい?」

『理香。今良いかな。大丈夫?』

「……ええ。ちょうど仕事が終わった後なの。

今からエールウェディングに戻るわ。今日も皮肉撒いて来たから」

『そっか。それで……いつ(おおやけ)にするつもりなんだ? その…………』


言いにくそうにしている青年に対して、

彼女はあっさりと代わりに告げた。


「“あの件”のこと? そうね。今まだ猶予期間よ。

プランシャホテルとの提携であの会社がピークに達した時にバラすわ。

……必ずね」



理香の口元に微笑が浮かぶ。

策は打ってある。森本繭子とJYUERU MORIMOTOは調べ尽くした。

そろそろ。あの悪魔へ、会社へも(おおやけ)な復讐の時は近付いている。



それは______。


繭子が口癖のように言う、理香に似ている誰かとは……?


すみません。現実と似ている状況ではあると思いますが

これはその前に、書き留めたものです。架空ですのでお許し下さい。

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