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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
特別章・始まりのクライシス〜
48/264

第45話・悪魔の計算〜もう一つの別れ

これで特別章は最終回です。

色々とすみませんでした。悪い内容なので

ご気分がなられましたら、苦手な方はお戻り下さいませ。



外はもう夕暮れ時だった。

黄昏の空を一瞬だけ見て視線を逸らし、思う。





(_________行かなくちゃ)




繭子はそう思って、少し早足で歩く。

もう一人。別れを告げなければならない人間がいる。

待ち合わせの時間や指定はもうしてある、だから、後は其処へに向かうだけだ。


夕暮れ時の、公園。

その敷地内にあるベンチの前で、見慣れた人物___健吾はいた。

繭子に気付くなり、健吾は軽く手を振ってから此方へ駆け寄ってきた。


「ごめんなさい。突然、呼び出したりして」

「良いんです。それより、話って……」

「驚かないで聴いて頂戴ね。あの突然で申し訳ないけれど……」




心にもない気遣いの言葉。

気遣いを見せる女のふりをしてから、繭子は例の言葉を_________。




「_________別れて 欲しいのよ」




やはり、突然の事に健吾も呆然としてから固まる。

しかし、少し視線を落としてから申し訳なさそうな表情(かお)をする。

________何故?と繭子は一瞬、疑問に思ったものの、健吾は口を開く。


「……僕に、何か悪い事があった?」

「……え」


一方通行で感情的だった順一郎とは正反対の反応。

それはそうだ。健吾と順一郎の性格は時計の針を逆さまにした様に全く違う。

固まっている繭子に対して健吾は微笑みながら、



「そんな気がするんだ。ごめん、話を聞かせて貰って良いかな」



順一郎とは違い、健吾は至って冷静沈着だった。

感情を露わにする事もなくただ落ち着きを払っていて、乱れない。

寧ろ自分が悪いのだと思い込んでいる様な節が見えていて以外で。


ベンチに腰掛けて座った後、繭子は本題を切り出す。

鞄から分厚い資料の束を差し出して渡すと、健吾は眼を見開いた。

それは、海外のとある海外支社にあるJYUERU MORIMOTOの入社要望。


これは、繭子が仕向けたことだ。

健吾を会社から、日本からも追い出してしまおうという計画。

自分自身の思惑が計画的に上手く行った以上、易々と彼を置いておく訳には行かない。



「……唐突でごめんなさいね。

実は貴方に海外支社から諸事情で、転勤の要望が出ていて。

優秀な人材である貴方に向こうは是非来て欲しいって

言っているのよ。


良い話だと思わない? 貴方にぴったりだと思うけど」

「……だから別れたいって言ったんですか。突然に言うから驚きましたよ。

でも、僕の思いは変わりません。駄目ですか。遠距離恋愛じゃ」


冷静沈着に

束になっている資料をはらはらとめくり見詰めながら健吾は告げた。



「でも。そんな中途半端な状態で続けていくなんて出来ないわ。

あたしには会社があるし、日本(ここ)から離れたくはないわよ。あたしは社長で、JYUERU MORIMOTOが最も大事だから。


だからこの際、

綺麗に片を付けたいと思ったの。だから、別れたいのよ」


遠距離恋愛でも、

思い合って交際を続けている者達は沢山いるだろう。

けれど相手は兎も角も、繭子にはそんな気持ち、全く無いに等しい。


口だけならなんとでも言えるだろう。だから話術を利用した。

健吾は冷静で優しく、遠距離恋愛でも良いと言うがそんなつもりなんて、繭子にはさらさらなく、今は別れたい一心なのだ。


「……僕のこと、嫌いになりましたか?」

「そんな事はないわよ」


寧ろ、最初から好きでも嫌いでも無かったのだから。

順一郎の時は妻帯者というのを良い事に強気に出れたが、

健吾はそういう訳には行かない。繭子には少しの一抹の不安があった。


もし、妊娠したと告げれば、

きっと責任を取ると言うに決まってる。

繭子が恐れ嫌っている結婚という言葉も、言い出すかも知れない。

けれど、繭子の性格上、強気に出る事に決めた。


「あのね。このまま続けているよりも、あたしはきっぱりと終わらせたいの」

「……でも」

「それにね……。



あたし、妊娠したのよ」



健吾が何かを言おうとした瞬間、

被せる様に健吾は驚きの表情(かお)をした。

眼を見開いて、繭子の方へ視線を向けて彼女の様子を見る。



「……………妊娠したって……」

「そうよ。病院にも行って確定してるわ。あたしは産むつもり」

「……そんなの…………僕達の子供ですよね?」

「ええ」


繭子はそう言うと、健吾は神妙な面持ちをする。

対して繭子はやっぱり、と思っていると、

健吾は真面目な面持ちを向けて告げた。



「だったら、僕にも責任があります。

身重の貴女を放って置けない。こんな重大な事を……」


「そうよね。貴方はそう言うと思ってたわ。でもね、

この話を切り出した以上、あたしはきっぱりと別れて

全て何もかも無かったことにして欲しいのよ。

この子はあたしが育てる」


腹に手を当てながら決心が硬そうな表情(かお)を作り

繭子はそう言ってから、悪魔の本性の断片をちらつかせ、

本題へと軽く身を乗り出した。



「貴方はまだ若いでしょ。まだまだ未来もある。

"あたし達"のことは忘れて、海外で新しい生活と

新しい家庭を築いて行ったら良いじゃないの。


現れるなら、この子に恥じぬ父親の姿で現れて。


貴方があたしの事を忘れて幸せに生きて行ってくれれば

あたしは言う事はないわ。それがあたしの望みなのよ、だから…ね?」


海外支社に行く事は優秀さが認められたという事。

立派な姿となって、自分自身の血を分けた子に会え、という事か。

まるで囁く様に言う繭子に、健吾は決心を固めたような


「……分かりました。でも、認知とお金くらいは………」

「そんなのいらないわよ。あたしを誰だと思ってるの、

JYUERU MORIMOTOの社長よ。


子供を育てていけるだけの

経済力とお金はあるから心配しないで頂戴」


狂気を逸した繭子の形相に、健吾は何も言えなくなった。

もう黙り諦めるしかなく。ただ、子供に申し訳なさをひしひしと感じる。

本当は自分自身が責任を取る立場なのに、この女には

それさえも阻止されて出来そうにない。


ごめんよ、と繭子の腹の中にいる自分自身の子に呟き懺悔し

心の中でしか言えないまま受け入れるしかなかった。





「……良いわね。幸せになって。さようなら」



そのまま、繭子は立ち去っていく。

呆気ない別れ。あの日々はなんだったのだろうか。



あれから

急用の転勤とは言え、健吾はすぐに海外へと旅立っていった。

繭子は内心、心の中で喜び微笑っていた。


別れを告げて、もう居なくなった。

残ったのは自分が望んだ子供だけ。それだけで良かった。

悪魔の女は何も変わらない。ただ、自分自身の欲望の為なら、手段を選ばない。


……理香の父親は、どちらなのか。



特別章を読んでくださりありがとうございました。

繭子目線でとても腹黒い物語で気分を悪くされた方もおられると

思います。謹んでお詫び申し上げます。


次回からは、理香がようやく復帰し、新章が始まります。

(……だいぶお待たせしました)


後は活動報告にて、この章について思いを書きたいと思います。

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