第44話・悪魔の計算〜別れ
すみません。この話と次の話は黒さに満ち溢れています。
ご気分を悪くされた方、途中で戻って下さいませ。
順一郎とは不倫関係。
健吾とは恋愛関係。
けれど、繭子は2人とも愛してなんていなかった。
全ては自分自身の欲望____子供が欲しいという自分自身の思惑だけ。
愛なんて求めても居なければ、
彼らを愛することを、そのふりはしたとしても
繭子からは愛情等、心の底から浮かばない。
相手を愛するという感情なんて元から無いのだから。
不倫関係だとしても、普通の関係だとしても
繭子には負い目など微塵も感じずに、ただ自分の欲望だけを忠実に。
最終的に自分自身が気に入った相手の子を宿せば良いだけだと、思っていた。
じっくりと相手を見据えて観察し、
自分自身が相応しいと思った者を見詰める日々。
人間の感情や気持ちを商品としか思っていない非情な女。
繭子の手口は、巧妙で完璧だった。
身分を隠して、"か弱き女"のふりをし続けて。
2人に名乗る自分の名前もそれぞれ違って、それらを使い分けていた。
不思議と二股をかけている、という現実もバレない様に仕組んだ。
日時を指定もバラバラに設定し、
会う場所も相手に見られない様な遠い場所でデートを重ねた。
それはバレないように、見られて疑われないようにした計算の内である。
そして、携帯電話の登録した相手の名前は偽名にした。
なるべく女友達を連想させるような名前にしたのは、万が一
携帯電話を見られても疑われない為に。
欲しいのは、望んでいるのは、相手ではなく、子供。
子供さえ自分自身の身に宿ってくれれば、もう計画は上手く行ったに過ぎなくてそうなればもう相手は関係ない。……自分自身だけのモノだ。
順一郎と健吾と付き合って、何方かの子供を決める。
生活を送ってその時が過ぎていくに連れて、繭子の中ではもう決まっていた。
………何方子供を宿すかを。
そんな日々が続いたある日。
彼女は、念願とも呼べる妊娠を果たしたのだ。
その日数から数えても、自分自身が選んだ相手に間違いはない。
有頂天に達した繭子に取って、この願いさえ叶ったのなら
もう相手の存在はどうでも良いに等しく、その結末も考えていた。
_______終わらせる。きっぱりと、2人との関係を。
自分自身の願いは叶った。
だからもう、こんな生活も関係も続けている意味はない。
繭子は当然のように自分通りの思惑に嵌った計画を、終わらせる。
まずは順一郎のところへ行った。
彼をあの喫茶店に呼び出してから、待って、
そして。
「_________別れて、欲しいの」
「………?」
相手は首を傾けて、呆然としていた。
だが。ようやく言葉の意味を知った瞬間に、焦りが募り始めたのだ。
順一郎は繭子に問いかける。
「どうしてだよ………!!」
「終わりにしましょう。こんな関係、いつか奥様にバレたら…傷付くに違いないわ」
「今更、何を言ってるんだよ。それを承知で付き合ってたんだろ!! なのに」
繭子の肩を掴んで、そう訴える順一郎。
焦り怒りを見せる順一郎とは反対に、繭子の表情は変わらない。
そして"ある話"を、繭子は持ち出してきたのだ。
「奥様、妊娠しているのでしょう? ちょうど良い機会じゃない。
これを気に私達、止めて終わりにしましょうよ」
そう。
順一郎の妻も、彼の子供を身籠っているのだ。
自分自身と同じ境遇。それを話に取って、持ち出したのだが、
順一郎は今も尚、食い下がらずに、熱く語り出してきた。
「……嫌だ。俺は本気でお前のこと愛してきた。今でも愛してる」
「……それは痛い程に分かってるわよ。けれど、終わりにしないと、
誰かが傷付いてしまうわ。子供だって事実を知ってしまえば傷付くでしょう」
「一体、今更になってどうしたんだよ………!!
俺の何が気に食わなかったんだ、それとも他に好きな奴でも出来たのか」
「……いいえ。あたしが出した結論よ。こんな形で続けていると、
いつか誰かが気付いて、傷付くと思ったからよ。それに______」
感情的な順一郎を相手に、繭子はいよいよ言葉を口にした。
「_________あたしも、妊娠したから」
その瞬間。順一郎は固まった。
そして揺さぶっていた手は繭子の肩から、するりと落ちていく。
繭子はふっと微笑を浮かべつつ、身を乗り出す。
「ややこしいでしょう。不倫相手が妊娠したとなれば。
妊娠したからそれが理由で、あたしはこの話を切り出したのよ?」
「……俺の子か」
「ええ。貴方の子よ? けれど、もう何も望まないわ。
この子は、あたしの子供。だから、あたし一人で育てていくわ」
自らの腹を摩りながら、そう言う繭子。
「お前だけの子供じゃないだろ…。俺にだって責任がある……!!
その子の認知もするし、養育費も払う」
「そんなのいらないわよ」
昂ぶっていた順一郎の言葉を、繭子は斬り捨てる様に言う。
固まった順一郎に、繭子は淡々とした口を開いた。
それはまるで悪魔の様に。
「どうするのよ。認知や養育費の支払いとなれば、
結局、最後はそれもバレてしまうでしょうに。そうなれば
貴方の立場も危うくなると思わない? だから、何もいらないわ」
「……おい!!」
「もう、これっきりにしたいの。私達の事は無かった事にするのよ。
そうすれば上手く収まるから。
明日からは何も無かった様に暮らせば、いつか忘れるわ。
良いわね、あたしは貴方の為に言ってるの。
……だから、お願い」
心にもない上辺の言葉を次々と乗せていく繭子。
こんなの本心でもなんでもない。全ては偽りの言葉達。
繭子はもう、一刻でも、別れたいという気持ちしか無いからだ。
「俺は、納得なんかしてないぞ!」
「私達の為よ。……だから、もう関係ごと断ち切って
これで終わりにしましょう。良いわね。……さようなら」
そう言って、繭子は去っていく。
順一郎は何か言っていたが、もう決意を決めた繭子には
相手が何を言っていたかなんて全く聞こえなかった。
すみません。この章は黒さに満ち溢れています。
ご気分を悪くされた方、改めてお詫びを申し上げます。




