第42話・計画的な思惑〜偶然か、必然かの出会い
幼い頃から、輝くモノ、煌やかなモノが大好きだった。
輝くモノは常に眩く傷を知らない。
暖かな光りと鮮やかな色彩。
だからこそ、
宝石会社を自分自身会社を一代で、自分自身だけの会社を設立した。
大好きだった宝石会社を自分自身の力で建てたのだ。
それで目標は達成し、繭子の人生は順風満帆でしかなくなった。
欲しいモノも華やかな地位や名声を手に入れた。
そんな中で更に、欲は芽生えていく。
子供が、欲しい。
自分自身の血を引く、いずれは自分自身の後を継いでくれる子供が。
単に言えば後継者の事だったが、
人並みの物とその道具を手に入れなければいけないと思い込んだ。
それらを手に入れなければ、自分自身はくすんでしまう。
けれど。
結婚する気なんて更々ない。
家庭に収まる主婦には自分自身は不向き。それに亭主の言う事を聞いて
妻として支えるという立場なんて真っ平ご免だ。
何時も自分自身が一番で居たい。
否。そうでなくてはならない______そんな思考を、繭子は思っていた。
けれど、子供だけは、欲しい。
後継者。自分自身に子供に居ればなると、世間体も良くなる。
世間体を気にしてしまう繭子は世間体に恥じない様になる道具が必要だった。
相手なら、誰でも良かった。
けれどどうせならば、学歴や年収の高い、優秀な人材が良い。
そして世の中で生きていく為の容姿端麗さも持ち合わせた方が良いに決まってる。
自分自身の森本繭子の子供として相応しい優秀な子供を欲し始め進んでいく。
そんな子供の父親を探している中だった時、
計画の中で、ある夏に出会ったのは、あの小野順一郎だった。
「……大丈夫ですか?」
「はい。平気です」
まだ下ろし立てのヒールに慣れずに、躓いて転んでしまった時だ。
彼は心配そうな面持ちで、彼女は駆け寄り手を差し伸べた。
見知らぬ他人の自分に手を差し伸べ、助けてくれた___
その顔立ちと表情をみるだけで、優しそうな人間だった。
ヒールの靴は
無事だったけれど、皮膚の表面__脚元が軽い擦過傷になって
じんわりと血が滲んでいて、順一郎は驚きつつも繭子を立ち上がらせる。
「血が出てるじゃないですか…………痛そうだ。
取り敢えず、其処のベンチに座って下さい」
「……え」
手を引かれて、近くのベンチに座る。
歩くとやはり痛い。慣れない高めのヒール靴を履いて、気取ってしまったせいか。
ヒール靴を履いた脚元は無防備な素肌だったから、衝撃は大きかろう。
背伸びしてしまったのも自覚しつつ、色々考えていた。
「これ、少し深い傷ですね。痛い、ですよね………」
「…………まあ………はい」
「取り敢えず、 このままよりも何か当てて置かないと。
救急箱を持ってれば良かったんですが、取り敢えずこれを」
そういうと、ポケットから純白のハンカチを取り出して
その傷口に当てて巻いて緩く結ぶ。早くも白いハンカチには血が滲み出していた。
呆然としてしまっていたが繭子はふと、我に返ってから
「すみません………。折角の綺麗なハンカチが。
助けて頂いてありがとうございます。けれど、どうして…」
瞳を潤ませながら、助けてくれた礼を言う。
男は女の涙には弱い。繭子の嘘泣きの演技で異性を落とす術を身に付けていた。
繭子の涙に、順一郎は思わずどきり、と心臓が弾んだ。
そう思う心情を隠し順一郎は変わらない表情で
「人間、お互い様じゃないですか。
それに貴女が転けるの派手だったので
思わず見て見ぬふりなんて出来ませんでした」
「……………そう」
繭子は、少し恥ずかしい気持ちになった。
気高い社長である自分自身が言う通りに派手に転けてしまっていたのだろう。
それに恥ずかしくなった。
(大人にもなって子供じみた転け方をするなんて…………このあたしが)
「あの、お名前を教えて頂けませんか」
「はい?」
「助けて頂いたので、
もし良かったらお礼をしたいんです。ですから……」
繭子の言葉に、順一郎は小さく微笑う。
「俺は、小野順一郎です。
大体、この時間帯になると此処の公園の噴水が見たくて訪れてるんです。
なんだか和むので。あ、お礼とかは気にしないで下さいね。
さっきも言った様に人間、お互い様じゃないですか」
順一郎はさらっと紳士的な言葉を告げると
時計の時間を気にして軽く会釈すると帰って行った。
小野順一郎。その名前と顔立ち。発した言葉。全て繭子は覚えて
脳裏に刻むことにした。
品のある、端正な顔立ち。
平然と成し遂げる紳士的な振る舞いと性格。
全てに非の打ち所がない。
(………………もし、この人の子なら)
繭子の心に浮かんだ企み。
相手は、この公園が好きだからこそ、此処に現れる、と。
それを。その時間帯を狙ってまた来てみようかと思ったのだ。
数日後。
繭子の組んだ必然的な筋書きに、また出会ってしまった。
声をかけたのは繭子だった。隅から隅まで覚え尽くした人間を忘れず筈がない。
「おや、君は…………」
「偶然ですね、貴方は…確か、小野様でしたよね」
「覚えてくれたんだ?」
偶然に見せかけて、会うように仕組んだ。
相手は繭子の組んだ筋書きにも、魔性の微笑みにも気付いていない。
それが繭子にとっては好都合でしかない。計画的に相手に近付いてから
「こないだは、ありがとうございました」
そう言って あの日に結んで貰い、洗ったハンカチを返す。
順一郎はきょとんとしつつも、繭子が差し出したそれを受け取る。
すぐに血が滲んでいたハンカチには、
もう赤の面影すらなく綺麗な純白さに戻っていた。
「わざわざ良かったのに…」
「いえ。借りは作りたくないんです。それに助けられて有り難かったですから」
「あの後は大丈夫でしたか?」
「……はい」
そう偽りの微笑みを浮かべて見せる。
助けて貰った事は有り難かったが、繭子は既に相手に目を付けていた。
子供の父親候補_____その対象人物として。
それから、よく会うようになった。
偽名を名乗り出、社長の素性も明かさずに、
ただ、か弱い女の振りをして接していくに連れて相手の言葉から情報を得ていく。
彼はとある会社の御曹司。
いずれは実家の家業の跡を継いで社長になるそうだ。
婚約者とは最近の結婚し、家業を継ぐその時期ももうすぐだと語っていた。
お気を悪くされた方すみません。




