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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第4章・復讐の思い
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第38話・もう退きはしない。そして、潰す。




操り人形にはならない。

もう、あの貧弱で弱々しかった少女は、自分自身が自ら殺した。

自分自身が例え地獄の闇に堕ちたとしても、構わない。



復讐を誓った瞬間からそのつもりだった。

あの悪魔を仕返し潰す。その復讐に、どんな代償があるとしても

理香にはその覚悟は出来ていた。




JYUERU MORIMOTOの勤めは、理香にとって詰まらなかった。

それは母という悪魔の会社という概念があるからか。

ただの接客。常連の貴婦人達に媚を売り、ご機嫌を取っては、

宝石を勧める。


単なるその繰り返しだ。

張りのない仕事を淡々とこなすだけの作業。


(私には合っていないし、向いていないわ)


だが、自分自身がもし“森本心菜”として生きていたら

こんな風に母親の元で宝石の接客に勤めていたのだろうか。

仮にも過去の自分自身は、森本繭子の娘であり、

JYUERU MORIMOTOの社長令嬢だった。


しかし。

仮に、自身が森本心菜として生きていたとしても

理香には、その姿は想像出来なかった。


(やっぱり、心菜は死んだ人間にしか過ぎない)


“椎野理香”と“森本心菜”は、別人。自分自身にとっては

棄て殺した過去の人間にしか過ぎないのだ。



つくづくそう思った。



そして気になったのは

表向きに発表されている、向上業績と現場には

目を疑いたくなる程に客足は少なく、昔からいる常連の顧客しかいない。


提携経営を結び、オリジナルの提携ブランドを立ち上げたにも

関わらず、新規の顧客は少しばかりしかいない事に

理香は驚いていた。


煌びやかな宝石に群がる人は、ほんの人握り。


正直言ってすぐに飽きて、自分自身には合わない。

プランシャホテル___エールウェディングに戻りたかった。

ウェディングプランナーとして責任とプライドを持ち(たずさ)えながら様々な人間模様が見れる方が良い。



飽きない人間模様が伺え、

それぞれの顧客の喜ぶ顔が伺えるのだから。

自分自身の仕事と行いと遣り甲斐さえ感じるのに、

JYUERU MORIMOTOでは全く感じない。


寧ろ、時間を潰されている、そんな気がした。


(これが“あの人”のやり方で、作り上げた会社だったのね)


繭子の娘であり、社長令嬢であったにも関わらず

彼女は自分の母親が起こした会社の実態を知らなかった。

否。興味があったとしても“見れなかった”というべきか。


繭子から、

JYUERU MORIMOTOに訪れる事は固く禁じられていた。

それに心菜にとって、母親の会社を訪れる暇もなかったというべきか。


繭子の身の回りの世話や、家の仕事や学業に追われ

気付けば日々は慌ただしく過ぎ去っていて、彼女には

JYUERU MORIMOTOに訪れる暇もなかったからだ。


(…………私は、ただの操り人形だった)


そんな事を心の中で思いつつも、

理香は内心、様々な思いが交差しながら、“表向きの顔”を作っていた。




「椎野さん」


「……社長」



昼休み。休憩と共に昼食を摂れる時間になっていた。

理香は人と群れる事には慣れていない。

それよりも自分自身の時間を過ごしたい。



1人になりたかったので

出来るだけ場所を選んで、1人になれる場所を選んだ。

陽当たりの良いオフィスのテーブルで、休憩と共に昼食を取っていた時に森本繭子_______自分にとっての悪魔は易々と此方へと来た。



悪魔は

にこにことしていて、見るからにご機嫌の様だった。



「お疲れ様です」

「ええ。お疲れ様。

貴女は流石ね。お客様はとても喜んでいたわよ」

「そうですか。それは良かったです。ありがとうございます。

ですが。まだまだ私等が、まだその評価には及びません。

もっと経験値を積んで学ばなければいけませんから」

「あら。喜んでも良いのに。貴女、何処までもストイックで謙虚なのね」


(“理香(わたし)”には、よく誉めたがるのね)


繭子は、笑って見せた。

理香は穏和な微笑みを浮かべながら、


(_______他人だと思っているから、お疲れ様なんて言えるの。

実娘だったらこんな労りの言葉も、こんな表情も見せない癖に。人が他人になれぱ、単純で馬鹿な人………)


もし実娘だと知ったら、相手は拍子抜けするだろう。

そしてまた自分自身を罵倒するに違いないけれど、

幸い、良い事に相手は気付いていない。



理香にとってはそれが好都合だ。

某復讐相手に仕返しもこの会社を洗いざらいに

全て潰す気も充分に作戦は立てている。ならば最初は、この会社の事を探らなけれぱ。





彼女の浮かべる表情は、一切崩れず微塵も変わらない。

優しい微笑み。それは彼女の薄幸な生い立ちと人生等、結び付かない。

悔しい程の淡く端正に整った美貌と、凛とした落ち着いた雰囲気。

それに持ち合わせる彼女の実力と華やかなキャリアには、

繭子自身以外、JYUERU MORIMOTO社員全員、誰も敵わない。

けれど。ただひとつ。


そんな理香を見た時に、繭子は少し疑問が浮かんだ。

彼女の見せる受け答えが少しばかりか、あの少女に似ていたからだ。


(………………心菜!?)


繭子は、実娘に対して敏感になっている。

だから心菜に通じ、彼女を感じたりする部分があれば、過剰に反応してしまうのだ。


椎野理香の受け答えは

自分自身の憎き相手。あの少女の答え方にそっくり。

そして繭子が憎悪を抱く"アイツ"にも生き写しで、一瞬だけあの姿が浮かんだ。

知らない赤の他人の筈なのに、何故、どうして彼女が心菜に見えたのだろう。

一瞬、怒りを覚えて、繭子は拳を固く握り締めて耐える。


そんな繭子に理香は、少し不思議な顔をしてから


「どうかしましたか? 社長………?」

「いいえ。なんでもないわよ。気にしないで頂戴」

「……そうですか。でも_______」


立ち上がって、悪魔へ近付く。

嗚呼。やっぱり近付くで見たら益々、憎悪が湧いてきて渦を巻き出した。

当たり前だが12年の歳月が流れると流石に老けたと感じる。

それを必死で厚化粧で塗り固め、若作りをしているが。




悪魔には触れたくはない。

だから触れる一歩手前で、頰へ手を止めてから言う。


「あまり無理はなさらないで下さいね。

疲れは、溜まると取れにくくなりますから」

「ええ。ありがとう」


否、彼女は関係ない。

雰囲気も性格も心菜とは似ても似つかないじゃないか。そう自分自身に言い聞かせた。

そんな繭子に理香は、もう一つ切り札を出す。


「そうだ。これ、宜しければどうぞ?」

「……え」


理香が出したのは、純白の無地の封筒。

なんだろうか。そう思って受け取って彼女に視線を戻すと

相変わらず椎野理香は柔らかな微笑みを浮かべて、静かに言うた。


「マッサージの整体エステ、無料招待券です。

私も行ってみて溜まっていた疲れが(ほぐ)れて、だいぶ癒されたんですよ。

とても良かったです。オススメです」

「……そんな悪いわ。これ貰って良いのかしら?」

「はい。遠慮しないで下さい。先日のお礼だと思って下されば」


多分、中身を見れば凍り付くだろう。

実年齢を自覚せず、自分自身は未だに若いと思っているから、

エステ等の場で、衝撃と共に老いていく自分自身の事実を知るであろう。

それは彼女にとって大打撃でしかないだろう。


けれど良い。たまには良い薬だ。

それに_______。


「すっきりすると思います。

思わぬ発見があるかも知れないですよ。

せっかくですからすっきりした顔で、娘さんに会えると良いですね」


“娘を、利用目的で捜している”。

娘というワードは、繭子にとって隠したい事実であり後ろめたい事だ。

だが理香には手放せない利用価値だ。

表向き、森本繭子は娘を恋しがっている母親を演じているから、丁度良いだろう。

その晴れ晴れた表情で、憎い感情で生き別れた娘に会ってくれ。

そしてどん底に堕ちればいい。


「……ありがとう。今度行くわね」

「ふふ_______社長にとって良い結果になると良いですね」


(あたしが、老けているとでも思ってるの?)


(自分自身は美魔女だの、なんだの、

自分自身を過剰評価しているけれど現実はそうじゃないわよ?)


自分自身の、老いを連想したくない。

繭子の高飛車なプライドは、ズタズタだった。

心の中で呻く彼女に、理香は表情を崩さないまま、立ち去って行く。


理香を横目に見届けながら、

繭子は立ち尽くしたまま、暫く動けなかった。

繭子のプライドが崩れていくのを理香は予想は付いて、

心の中で見届けながら静かにひっそりと嘲笑う。



(_______たまには自分自身を知れば良いわ。たっぷりお返ししてあげる。

貴女はもう私の母親じゃない。そして私も、貴女の娘じゃないのよ……)


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