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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第1章・憎しみの回想
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第2話・逃げられない籠2 (ー娘の記憶ー)

思い詰め、追い詰められていく心菜の心________。



何時からだった、だろう________。



幼い頃から、ずっとこの生活だった。

社長である、母・繭子は、自分自身の会社の地位と

キャリアが昇っていくにつれて自分自身の家庭も、たった一人の娘を顧みない様になっていく。


けれど会社が終わると、繭子は必ず家に帰って来た。

あの頃は純粋な子供心に、心菜は素直に嬉しいと思っていた。

忙しいながらも自分自身を思ってくれているのだと、素直にそう思っていたのに。



______森本家、リビングルーム。




静寂の部屋で、独特な陶器のカチャリと音が響く。

黙々と食事をする母娘の間にあるのは、重たい沈黙と部屋を包む静寂な空気。

基本的に其処には、全く会話がない。単に黙々と食事を済ませていくだけだ。


だが。もし、会話があるとすれば________。



「心菜」

「………はい」


母のドスの利いた据わった声に、

心菜は思わずびくりと震えてしまいそうになる。

だが_____それらの恐怖心を無理矢理に隠して、自然な笑顔を作り返して見せた。

しかしそんな実娘の柔わな微笑みすらも、繭子にとっては相当憎らしく思えてくる。


鬱陶しそうな眼差しで繭子は片手で頰杖を着き、

もう片手は箸で"それ"を突きながら、言った。

繭子の箸先で突かれているのは、心菜が作った焼き魚だ。

それはまるで、毒と言わんばかりに。


「この焼き魚、味気がないわよ。少し薄いわ」

「すみません。この間は、味気が濃いと言っていたので、

少し薄く味付けをしてみたのですが………………」

「_______……………」


伺う様に少女の言葉から紡がれるのは、敬語。

母娘とは思えない他人行儀が存在し、娘は常に母に怯え顔色を伺うのが日常茶飯事だ。


心菜は震える声を抑えて、平常心のまま答える。

彼女は自分自身の美意識をとても気にする。容姿端麗である自分自身、

品格のある完璧な女社長として、

女としている為に食事の注文は多い一方だった。


スタイル維持の為には、日常の食事から。

栄養バランス。食材も程よくあって良い。悪い物は一つもいらない。

だから自分自身は何もしないのに、

料理の作り手である娘には口煩く要求して______。


昨日は、味が濃いと罵声を浴びたばかりだった。

だからこそ、今回は反省も含めて味の改良と味付けを薄めにしてみたのだが、どうやら完璧主義で細かい事も気付く彼女には

お見通しの様で気に障わってしまったのだろう。




(___なにもかも、そっくりね)



繭子は、苛立ちが募った。



心菜が言った刹那。

その瞬間、繭子の表情が険しくなった。

心菜が不味いと思った時には、もう時すでに遅し。


「なに? それが親に対して言う言葉?

何時も言ってるでしょ、"言い訳は口答え"だって。

養って貰っている分際で 母親に口答えをするなんて身の程知らずね。


だいたい

誰に養育して貰っていると思っているのよ。

生きてる価値もなんの取り柄もないあんたの世話を、

仕方なくあたしが見てるって言うのに………。馬鹿ね。


全く少しは、反省しなさいよ!!」


「……ごめんなさい。次は気を付けます」


ぎゅっと制服のスカートに握り締めながら、心菜は返事を返す。

耳を塞ぎたくなる衝動を、スカートを握り締める事で耐える。

表情に影を落とす娘に、不機嫌な顔をする一方で繭子は心の中で笑っていた。

良い気味だ。もっと落ち込めばいい。


「全く………あたしに似ていたら良かったのに。

あたしに一つも似てないんだから……。

学習出来てないのね。完全なグズよ。アイツに似たせいで………」


ネチネチと小言を言いながら、食事を続ける。

不味いと言われた時点で下げましょうか、とも言いたくなったが

それでは火に油を注ぐ様なモノで、母の怒りにまた触れてしまって二の(にのまえ)になってしまう。


何時も、こんな調子だ。

母は嫌味の小言を言っても、自分自身を認めてくれない。

心菜が繭子に甘えた事は愚か、褒められる事もなく、

それを望むのは許されない事だ。


(_____わたしが悪いだけよ)


そんなこと、心菜は分かり切っていた。

自分自身の容量の悪さで、また母を怒らせて要らない仕事を作ってしまったこと。

全ては根元を作ってしまった自分自身が悪いのだ。

だから_____自分自身が我慢すれば良い。


けれど、

この小言を耳にする度にズキと心が重い何かが生まれる。

本当は気付けるそれを心菜は、心の奧底にしまって掻き消した。

気付いてしまえば、いけない気がしたからだ。


言い返そうとも思わない。

言い返せば、また小言が増して、耳を塞ぎたくなるから。

心が痛くなり、純粋無垢な少女に傷心として染み込んでいくには充分な傷を生み出す。

娘の隠した傷だらけの心に、また母は刃を入れる。


悟って現実を受け入れるしかない。

今は事を荒立てずに、良い子で居れば良い。

そう思って、今は母親の"操り人形"を続けていれば良いのだから。

そうしたら、何時か母は認めてくれて、愛してくれるのだから……。


その時が来たら、自分自身の今までの思いは叶う。


そう思って今を生きることが、救い様のない娘の願いだった。



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