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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第4章・復讐の思い
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第30話・試される挑戦状



この憎しみは、呪いという名の怨念だ。

ずっとこのまま、自分自身は変わる事はない。

あの悪魔が自分自身を嫌っているのならば、此方も奴を嫌い憎んでやろうと怨念の憎悪を走らせている。



ドレスの衣装室にある、

何着とずらりと並べたられたウェディングドレス。

十人十色、人が一人一人違う様にドレスも一つ一つ違い、

それぞれの存在感と色合いを伏せ持ち合わせている。


口元で指先を組み立てて、悩ましげな表情を浮かべている女性。

ずらりと並んだウェディングドレスに対して迷いを見せている。

長年の勘からか、彼女がウェディングドレス選びに迷っている事は、理香は解り切っていた。


素朴の雰囲気な女性だが、何処か華やかさを伏せ持っている。

控えめな彼女にとって、あまり派手なウェディングドレスは似合わないだろう。



「佐藤様、これはいかがでしょうか?」

「まあ、素敵ね。ふわふわとしていて良いわ」

「ふふ。きっと佐藤様の清楚な雰囲気に、お似合いになられると思いますよ」


迷っている彼女に、理香はドレスを差し出した。

純白の全体的にふんわりと優しいケーキのようなウェディングドレス。

胸元やスカートの裾の部分には、花柄のレース刺繍が施されてあるものを選んだ。


このドレスを選んだ理由は

清楚でやんわりとした彼女の雰囲気や出で立ちに似合いそうだと直感が働いたからだ。

あまり主張が強すぎるウェディングドレスは、主役をくすませてしまう。


だが。


(これは、芳久に聞いたものから素直に提案出来たのかもね)



これのウェディングドレスは

芳久に以前、どんな感じかと尋ねたものだった。

その感想を思い出して、きっと彼女に似合いそうだと思い提案してみたのだ。

花嫁姿は一生の思い出に残るものだという。

そんな人生を左右する事を思うと普段は少し迷ってしまうが、

先日、ドレスの雰囲気を同僚に聞いていた経験が役立ったのだろう。



評価は悪くないみたいで

花嫁となる当事者である彼女は心底気に入ってくれたようだ。


ヘアメイクも終わり、

試着室でドレスを着た彼女は鏡に写る自分自身の姿を見詰めながら、

傍らにいるウェディングプランナーに問いかけて、尋ねてみた。


「……どうでしょうか? 似合っていますか?」

「ええ。佐藤様の雰囲気とドレスがとても良くお似合いになっていますよ」

「_________じゃあ、これにします」


ドレスを着た花嫁は、照れ隠しを見せながら微笑んで答えた。




PURANNSYA JYUERUのブランドが立ち上がってから暫くが経つ。

評判はブランドとしても双方の会社としても、上昇の一途を順調に辿っていた。

提携経営による合同製作された新作のドレスや装飾品。


斬新なデザインとして、どれもが一目を引くものらしく

デザインを製作するJYUERU MORIMOTOと、形として出すプランシャホテル。

双方の会社は上昇していき、そしてその結果を生み出す。

理香はそれを知りつつも、裏を探っていた。




人は新しいものに飛び付くが、その業績は本当なのか。

先日のの会議で示された結果は、

今までの業績を頭二つも飛び抜けるものだった。

短期間でこれまでの業績を出す等、何処か疑わしく有り得ない話だ。



確かに

プランシャホテルで、ウェディングの挙式を

挙げたいという声は絶えず、これから先の予定も随分ある。

けれど此処まで飛び抜けて上昇する結果は、どうなのだろうか。


(こんなに変わるものかしら?)


プランシャホテルは今も昔も、勢いや人気が絶えない

ホテル界最高峰の有名ホテルとして、名を轟かせている。

だが反面、今やJYUERU MORIMOTOは宝石会社としては、

業績低迷の一途を辿り人気も去り世間から名前も忘れかけられていた。


(………何か裏がある?)


そんな事を思いつつも、自分自身の仕事をこなしていた。




込み入った話があると

主任から聞いたのは、一通りの仕事が終わった後の事だった。

どうやら相手は、理事長らしい。しかし

それが理香には不思議だった。



理事長は、あまりその姿を現わすこともない。

会議も特に大きな発表の時だけに限られていて、その時だけだ。

いつもは責任者として理事長室で過ごし業務をするという当たり前のスタンスを取っている。


理香は遠目でしか姿を見た事がないが、

何故、自分が呼ばれたのかは不明だった。


しかし。

ある疑念が、理香の脳裏を横切った。


(…………私の素性がバレた?)


そう辿り着いた思考に、思わず肝が冷えてしまう。

自分自身がJYUERU MORIMOTOの社長令嬢で、森本繭子の実の娘だと。

理事長の手にかかれば、社員の身辺調査等は早いものだろう。

まさかと思いつつも、理香は首を横に振った。


(大丈夫。椎野理香の素性の土台は完璧だもの。

私が神経質になっているだけ。それに“私は”あの人には似ていない。

今までバレた事は一度もないから、平然としていれば良いわ)




午後3時を回った頃。理事長室に迎えられた。

西洋風なホテルの雰囲気とは間逆で、理事長室はレトロな雰囲気の造りだった。

まるで一昔の時代にタイムスリップした様な、

違う世界に来た様な錯覚に陥りそうになりながら、対面の形で座る。


「……初めまして。椎野理香です」

「ああ、初めまして。君の評判は聞いているよ。とても優秀な人材だと」

「……そんな有り難いお言葉、滅相もないです」


頭を下げて、そう低調な物腰と言葉を返す。



(やはり聞いてはいたが、かなり低姿勢で謙虚な人物だな)


椎野理香を観察しながら、英俊はそう思った。

理香は頭を上げた時、無意識に理事長の顔が伺う。

50代前半とは噂で聞いたが、そんな風には見えない程に若々しく整った容姿を持った人物だった。


近くで見てみれば

理事長としての品格と威厳な雰囲気を感じさせる人物というべきか。

物腰の落ち着いた、静かな存在感を秘めている様に察する。


しかし、

芳久の話によれば、彼もまた”欲望の理事長”だと聞いた。

どうも表向きはそう見えないのだが、人は見掛けに寄らない。

芳久は自分自身よりも洞察力がかなり鋭いから、

何かと自然と人を存じているのかも知れない。


けれど。

その刹那、ある事が過ぎる。


(_________?……)


理香は、その顔立ちや雰囲気に一つ疑問符が浮かぶ。



誰かに似ている。


根本的な顔の作りは違うが、顔立ちの雰囲気が。

けれど緊張からなのか上手く思考が回らない。

その誰かが、浮かばないが

知っている誰かに似ていると直感が、見るだけで働いたのだ。



「良いかな?」

「……すみません。それで、私に何のご用件でしょうか」

「ああ。最初に言って置こう。


さっきも言った様に

君の評判はエールウェディング課の主任からもお客様の声からも聞いている。

君はプランシャホテルの優秀な社員だ。

それだからこそ、この話をしたいと思ってね」

「……なんでしょうか?」


何の話だろうか。

そう思った時、次の言葉に衝撃が走った。



「我が社と、JYUERU MORIMOTOは提携経営しているだろう。

それで、向こうの社長さんと話し合った結果、


我が社の優秀な社員と向こうの優秀な社員の

入れ替えをし提携経営の取り引きとして助け合うという話になってね。


我が社としても

君に向こうの会社へ移籍して欲しいとの事だ」


「………………?」


理香は驚きを隠せなくなってしまう。

JYUERU MORIMOTOへの移籍。あの悪魔のいる会社の社員となれ、ということか。


「これは、向こうの社長さんからご希望でもあってね。

君の移籍の話は、私としても、このホテルとしても鼻が高い。

良い話だと思わないか?」

「……………………………」


理香は固まった。

移籍の話は、悪魔の希望。それは悪魔が呼んでいるという事だ。

あの悪魔に他人として近付くチャンスだとは思うが、けれど______。

それは同時に、

あの悪魔という欲望の女社長の思惑に嵌まるという事だ。

それは即ち、あの頃に戻ってしまうという意味合いもある。


それは宜しくない。

理事長は自分自身の素性を知らないからこそ、提案しているのだろうが

その話はまるで、操り人形に戻れと言われている様に感じる。

素性はバレていないと安堵を浮かべる反面、理香の心境は複雑化していく。


(つまりは、私は“あの人“のところへ、戻る、という事ね)



理香は、暫し沈黙するしかなかった。




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