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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第4章・復讐の思い
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第29話・消せない思い、新たな計画




愛されたかった。



母親に望んだ、たった一つの欲しいものだった。

ただ、それだけを思って貴女に振り向いて欲しかったのに。

なのに___________。




その思いは粉々に砕け散り、

今はもう跡形も無く潰れ消え去っていた。

あの悪魔が自分自身を嫌っていた様に、自分自身も嫌い憎んでやる。

そんな母への憎悪が、良く言えば理香の心を支え、悪く言えば支配されていた。






"協力者"が出来てから、より提携の交流の奥が見えてきた。

母という名の悪魔の情報は、今まで生きていた限りに避けてきたからか

耳にする情報は新鮮味があり、よりあの悪魔の本質を知ることが出来て良かったのだ。


それはどす黒いモノに塗れた、闇としか言えない。

提携を結んだのは両者の未来____全ては双方の会社の為に。

それは提携によって、“活性化と新たな顧客のニーズに合わせ答えて、喜んで貰うこと”。

だが、それは表向きの絵本の創り話でしかなかった。




芳久の話によれば、提携経営は両者の会社は争奪戦。

提携を結んだのは争奪戦によって、“互いの会社を利益を伸ばす為”ではなく

”そのどちらかの積み上げてきた結果である会社を、経営権を奪い、果てには潰す“。





世界は、この世は、どす黒いモノに、包まれている。

表向きは綺麗に繕ってまとめてみても、中身はそんなモノだ。

裏は闇と人間の利己的な思惑で染まって変わる事は、やはり気分の悪かった。


(やっぱり、裏があったのね。

あの人が進んで提携経営の契約を自ら結んだ理由は)


自己欲に溢れた悪魔。

誰にも譲らず、何でも自身の(ふところ)に入れ

独り占めしたい繭子が、誰かと仲良く手を繋ぐ筈がない。

提携営業した事を結んだ事自体、理香は不思議だった。




けれど。


(あの人がどうなろうと、私には関係ない。

寧ろ、好きに操られて潰されてしまえばいいわ_____)



理香にとって、

ほんの一瞬だけ____どうぞ、母を潰してくれと思ったが

それでは自分自身の積み上げた基盤が崩れてしまう。

なんせ、あの悪魔を自分自身の思惑で手で潰したかった。

例えやり方が野蛮で、冷酷だとしても、あの血の繋がりと過去で束縛する悪魔を自らのこの手で。


自分自身が堕ちていく事も、

自分自身の手が(けが)れていく事も構わない。

あの悪魔が自分自身に仕向けてやってきた様に、

自分自身も全力で悪魔に仕返しを返す。

それは理香の中で決まっている事だ。


娘として母を堕とす。それが良い様に仕向けた復讐だった。


それに、それ故に_________。



「奪われたモノは、奪い返すわ」


自分自身が受けた痛みと傷を、そのまま返す。

それは血縁という束縛状態にいる娘の特権にさえ見えてくる。



(今に見ていれば良いわ。娘から贈り(プレゼント)をあげる)


森本繭子という人間に、自分自身が受けたものを全て。

その悪魔の思惑に抗い、止まぬ憎悪からの母への復讐心は、

彼女を奮い立たせていった。





転機と言う名の衝撃が告げられたのは、某日のこと。

会議の前。ちょうどエールウェディング課の廊下の壁に

大々的に貼り出された紙に、理香は驚いた。


『____プランシャホテルと、JYUERU MORIMOTOの

共同ブランド・「PURANNSYA JYUERU MORIMOTO(プランシャジュエル)」設立』

これはエールウェディング課で企画を進めるとする。




一瞬だけ驚いたが

お決まりとも言える当然の企画だろうと理香は思う。

提携経営を結んだ思惑を、協力者である芳久に聞いていた故に、


何処かで

何かが起きるのだろうと持っていた鋭い勘は、見事に当たっていた。


「_________これ、驚くよね」

「……芳久」


いつの間にか、隣にいた同僚の青年も企画の紙を見詰めている。

協力者と言え、二人ともこの企画は初耳で、初めて知ったことだった。

何をやらかそうとしているのか。あの悪どい社長達の提携経営は____。


「そうよね。新たな発展を期待してるのかしら……」

「これは予想外だよ。株価の取り引きと提携経営だけと思ってたんだけれど、

まさかこんな企画を始めるなんて、なんか裏がありそうだ。怪しいな」

「……ええ」


其処で理香は、気付いた。

怜悧で冷めた眼差しと面持ちを、青年はただ企画書に向けられている。


芳久のその眼差しを傍で見ながら、理香に疑問符が浮かぶ。

あの提携経営の祝いの席、理事長が出席する会議では

特に青年は常に悟り冷めた表情をしている。


何時も穏和な面持ちの青年が、時折、見せる冷めた眼差し。


これは、決まって見せる表情。

けれどその理由は、まだ理香には分からなかった。



_____プランシャホテル、会議ルーム。



「_________ウェディング課の担当者の方は、

もうご存知の方もおられると思いますが、

この度に社長同士の話し合いの結果。双方の提携経営の証として

そしてお客様に喜んで貰う為に、この“PURANNSYA JYUERUの

設立に至りました」


エールウェディング課の会議では、正式に発表された。

これからエールウェディングには、JYUERU MORIMOTOの宝石を

取り入れプランシャホテルと共同で作られた品物が入れられるらしい。



会議の終盤にはプランシャホテルの理事長である高城英俊が出席。

そして今日は不在であったJYUERU MORIMOTOのの社長・森本繭子

____あの悪魔の社長のコメントの手紙を読み上げていく。


(改めて客観的に見てみると、急すぎる。

そして違和感と思惑が見え見えの様に見えてしまう)


理香は提携経営内容を飲み込みつつ、そう思った。

真相を聞いて見る視点が変わってせいか聞けば聞く程に

偽りに聞こえて、何処か無理矢理こじつけた感じがしてならない。


この企画自体も、芳久が言った通りに怪しいモノだ。

表向きは提携経営の証とお客様に喜んで貰う為にとしているが

本当にそうなのか。そしてその裏では何かの思惑が浮かび、

計画があり取り引きしているのではないか。


ちらりと、同僚を見遣った。

理事長が社長のコメントの手紙を読み上げていく中でも

頬杖を付きつつ、理事長に対してはやはりあの冷めた眼差しと

面持ちで見聞きしている。


(………何故?)


つまらないと言った感じではない。

ただ言葉に出来ない様な冷めた表情と、眼差しの理由は

気になるけれども理由は分からない。

それになんだか、その理由には触れてはいけない気がした。



理香は視線を理事長に戻して、再びこの企画の思惑を見詰める。


これは、この提携経営や企画自体、こじ付けか___?

けれど、理香にとっては良いチャンスと思っていた。

よりあの悪魔との接点が増えていく。こんな機会は一生にもうないだろう。

やるなら良い機会である今しか無いのだ。時間も猶予もない事は決まっている。






復讐の刃は日を追うごとに鋭くなっていく。

変わらないのは、その誓いと消えることのない憎悪。

理香は心の中で良く喜びつつ、普通の社員の振りをしていた。



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