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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第3章・母娘の愛憎
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第27話・交差する善悪




夜は深さを増していた。

街灯だけが灯る明かりだけが、闇夜の中で導きを照らしてくれている。

少しだけワインを飲んだので酔い覚ましと、

休憩の為に人気の無くなった公園のベンチに座って

少しだけ、休憩する事にした。


緊張感で張り詰めていたせいか

身体の脱力感が物凄く襲ってきて、どうしようも無くなってしまう。

やはりあの悪魔に会うと毎回同じ、緊張感と脱力感による疲れが襲ってくるらしい。

無意識で気にも留めない様にしていても、後々で疲れは出てくる。


(やっぱり、気が乗らない事は疲れてしまう)


『楽しかったわ。椎野さん。

機会があればまた食事をしましょうね』



繭子との食事会は無事に終わった。

最初は皮肉を吐いた事を不味いと思ったが、

後で悪魔が優越感に浸る様にと良い方向へと話を持って行ったせいか

ますます、理香は悪魔には気に入られた様で、安堵を浮かべたのは先程の様に感じる。


けれど。

気が晴れた反面、理香の心境は複雑だった。


今まで母に逆らった事は、一度もない。

そんな事は許されないと思わされて生きてきたからだ。

そんな中で、悪魔へあんな皮肉を吐いた事等は初めてだった。


(あれは、私が他人だから、許された事だもの)


きっと心菜ならば、無事では済まされない。





復讐に捧げると決めた心。

昔の弱かった自分自身をかなぐり捨てて、奮い立ち生きてきた。

善悪の違いは勿論、知っている。復讐に善良は要らない。

自分自身は悪になると決めたのだ。


所詮は自分自身も、悪魔の娘なのだから。


ただ。

自分自身の決意の中で、

良心が未だ残っている事を理香は知っていた。

孤独の中でいる時は復讐計画も、容赦なく思いのままに進めるのに

周りの環境_____人の優しさや有難みを知ると、それが揺らいでしまうのだ。


(私だけの世界だったら、何も気にしなくていいのに)


一人だけの世界ならば、容赦なく復讐出来るというのに。

明日からまた他者と関われば、少しだけ思いは揺れてしまう。



悪魔への復讐だけを、考えていれば良い。

ただそれだけ。ただ人の優しさに触れてしまえば、自分自身が壊れそうな気がしてならない。

微かに憂鬱と共にその蜂蜜色の瞳が潤み揺れていた。


だがもう後には退けない。

このまま、突き進んでいくしかないのは承知だった。




「____________泣いてるの?」



不意に、聞き慣れた声が降ってきて、微かに驚く。

恐る恐る顔を上げれば、其処に穏やかな面持ちの青年が、此方を見ていた。


いつの間に現れたのだろう。

さっきまで気配すら感じなかったせいか、傍若無人に現れた青年に驚く。

______何故、此処に居るのだろうか。

そんな事を考えたまま、理香は呆然と座り尽くす。



「…………芳久?」



視界がぼやけていたのは気のせいではない。

青年の言う通りなのだろう。


けれど理香はその問いを素直に、肯定する訳にはいかなかった。

自分自身には涙なんて要らない。泣いていたら、

変わると決心したのに結局、昔と同じじゃないか。


「違うわ。泣いてなんか……」

「…………今更、誤魔化すなよ」


そっと、眼元に当てられたハンカチ。

それが薄く滲んでいる事は、もう否定など出来やしなかった。

同時に青年の優しさが滲む様に心にひしひしと伝わってくる。


けれども降りかかってきた優しさに、

心が微かに揺れているのを理香はそれに気付きながらも

心は拒絶し、理香は無視する。


(駄目だ。気付いてしまったらいけない)


「貴方こそ、どうして此処にいるの……」

「さあね。通りすがりだと思って」

「………………」


芳久はさらりとそう言って、ハンカチをしまう。

彼は読め掴めない所がある。けれど今更、こんな心情では問う事もどうでも良かった。

大体、こうして会うのは久しぶりだ。暫くの間は離れては居たから。


(______やっぱり、強がりなんだ)



青年だって馬鹿じゃない。

秘密を知られた事を彼女は気にしているのだろう。

見るからに彼女は図々しいとは真逆の、繊細でデリケートな人間だから。

視線を俯かせ、影を落としたままの理香の表情に、芳久は察しは着く。


彼女が、この表情を浮かべる時は_______。




「…………森本社長と、あったの?」




その瞬間、理香の表情が固まった。

そして見据える様な眼差しで、芳久を見据える。



「どうして……」

「理香さ。あの社長さんと会った後って、

理香は決まって何時もそんな顔してるから」

「…………そう?」


前々から気付いていた。

あの社長にあった後は決まってそんな複雑に意味深な顔をする。

“あの事情”を知ってから、彼女が影を落とした表情するのか分かってしまった。


幼い頃からの習慣が癖になってしまったのか、

芳久は人の表情の変化にはかなり過敏だ。


対して、理香は見透かされた様な気分を覚える。

咄嗟に(とぼ)けたふりをしたけれども、どうして青年は知っているのだろう。


「…………それが、なに?」

「否定しないなら、本当なんだね」

「さっきけら図々しいわ。人の事情につかつかと………」


理香は立ち上がって、芳久に背を向けて歩き出す。

知られているからこそ、巻き込みたくない。そんな気だった。


(何かあるな。

人には言えない、悟られては困る、何か)


芳久は、理香の身に何かある事は見抜いていた。

人には知られてはならない、かと言って人は誰も気付かないであろう秘密を。

けれどその秘密の沼に入っていく度に、彼女は儚く消えていく様な感覚に襲われる様だった。

特にJYUERU MORIMOTO、森本社長関連の事なら、尚更。



「誤解しないで。わざわざ入り込むつもりはないよ」

「……だったら、知らないふりをして居れば良いのよ。

貴方は無関係なの。私は巻き込むつもりなんて更々ないわ。

わざわざ首を突っ込んで、自分自身から来る必要なんて何処にもない」

「そうだな。俺は真っ当の他人で無関係の人間だよ」


青年は、簡単に肯定した。

理香は敢えて冷めた口調で、芳久にも振り返る事はなかったが。

寂しそうな孤独の貼り付いた後ろ姿を、放っておく事はもう出来ない。


静かに理香に近付いた芳久は、言葉を続ける。


「ただ。一人で背負う孤独も決意も辛いでしょ」

「それで良いの。私だけで。私は孤独と生きてきた。

それに他者(ひと)を巻き込みたくはないから」

「そっか。じゃあ俺は構わない。

でもね、知らんふりする立場も居られたものじゃないから」


知らんふりして過ごす事は慣れているけれど

彼女はかなり複雑そうだ。………“自分自身”よりも。

知らんふりを続けて目を背けていたら、彼女はきっと豹変してしまう。

そんな気がした。


(パンドラの箱の中には何があるのか)




決意は、決まっている。

一人で背負うものがどれだけ辛い事も、冷たい孤独の中で生きていく自分自身も知ってる。



「____________ならいっそうの事、

俺を、復讐の協力者にしてくれないかな」



呆然とする彼女に、青年ははっきりと言った。



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