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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第12章・相殺は決別の為に
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第257話・無情と非情な舞台裏





同室の囚人達が騒がしい。

こそこそと、女性特有の噂話をしている。

本人達は小声で話しているつもりだが、この半畳程の檻の中で筒抜けだ。


「森本って……」

「悪どすぎ。一体、何個、罪があるのかしら」

「酷い女ね。私、あの人のファンだったのにぃ……」


(なんの話かしら?)


闇夜の中で鋭くなった耳を傾ける。

けれども話の内容から不穏な空気が漂っている事は分かっていた。




「私、プランシャホテルを自主退職して、転職したの」

「へえ」

「今は私の職業は、なんだと思います?」


何処か含みのある微笑で、理香は小首を傾ける。

対して繭子は何処か仏頂面で不機嫌だ。

全てがどうなった今、全てがどうなっても、

憎たらしい小娘の職業なんてどうでもいい。


「貴女に汚名を着せる、立場になると言えば?」


ぴくり、と繭子の眉間が貸すかに動いた。


「まだ、あたしを痛め付ける気?」

「否定しろ、と言えば出来ません。けれども貴女は

罪を重ね続けた人生を歩んでいる。それを表に現すだけです」


繭子は、理香の声音に気付いた。

理香の声音が微かに、健吾に似ている事に。


(まさか………)



「貴方の過去を辿らせて貰ったわ」

「こんな姑息な方法……父親に似たのね。悪どい……」

「悪どい事を重ねて平然と生きてきた貴女だけには、言われたくないわ」


ばっさり、と理香は言葉を切った。


「けれども

口先だけの痴話喧嘩を繰り返しても、意味がないと

思ったの。そして気付いた。私は、貴女を知らないと」


そうだ。

佳代子に似た少女をいためつける事しか念頭になかった繭子は、外界に触れる事も、誰かを知る権利も与えなかった。

少女が触れていいのは、恐怖心と孤独だけ。

だから鳥籠の少女は何も知らない。


_____だった筈なのに。


「貴女の事は知ったわ。

意外と言えばそうだけれど、

貴女らしいと言えば、そう思った」


家出少女は、夜の街の華やかな蝶。

複数のパトロンを味方に付けて居た。


「どこまで、知っているの?」

「最初から終演まで。貴女を知っているクラブ女性が包み隠さず話してくれたの。

援助交際、妊娠と中絶の繰り返し。そして……例の、」

「…………煩い!!」


面会室に悪魔の怒号が、残響する。

この小娘は何処まで自分自身を追い詰めるのか。


「かなり有名人だった、と聞いたけれど。男性に魅力的だったとか。

でも意外だったわ。合理的な

貴女は玉の輿に乗るとばかりと思っていたわ」


「何故、高貴なあたしが、一人の男に縛られないといけないの。

そうやっておさんどやって老けていくなんて耐えられない。

だから既婚男性と付き合ってあげていたのよ。

あたしは寂しい男に癒しを差し出して、男は金を出す。

ウィンウィンの清い関係でしょ?」


(この人に、罪悪感なんてない)


不貞関係の時点で、アウトだろう。

堂々と清い関係と言ってのける図々しさ、貞操観念の無さに呆れた。


「………何故、別れたの?」


「既婚者だから。慰謝料を請求されると困るもの。

だから相手側に知られない内に別れるの。そうしたら、上手く行くから」

「だから同じ方法を………」


だから短期間の関係でしかなかったのか。

悪魔でも多少のリスクを考えて、リスキーな関係を重ねていた。

この悪魔なら平然と堂々と胸を張ってやりそうな事だと理香は納得する。


理香は手帳に、

繭子の証言を文章として書き連ねて行く。

繭子の図々しさと姑息さが詰まった後味が悪い文章が並ぶ。

しかしリスキーな行動に至るきっかけとはなんだ?


「大胆な事を。

そこまで危険を犯してまで貴女を動かしたきっかけは?」


言わなくても、聞かなくても、分かっている。

理香の脳裏には穏和に微笑む女性が、浮かんでいた。

その刹那、悪魔の顔面には血が昇り、目が見開かれ充血している。


「だって佳代子に勝つには、それしかなかったの!!

女を磨くしかないの!!」


義姉の事に関しては、

感情的に、嫉妬という醜さを晒す女。

理香は対して冷静沈着に繭子を観察していた。


「様々な男と付き合えば女は磨かれて綺麗に、魅力的になる。

現にこのあたしが証明しているじゃないの?」


佳代子には、義姉には勝てない。

繭子は飽き性で何もやってみても中途半端で投げ出してしまう。

本気を失うと、ちっぽけに見えてどうでも良くなるのだ。

最初は熱く期待をかけていた母親も、繭子のその姿を見て呆れ、軽蔑し出した。

佳代子に勝つには、それしか考えられなくなった時、


佳代子への劣等感、母親から軽蔑の眼差しに

耐えられなくなった繭子は道を反れ、グレた。

けれども、いつか佳代子を見返してやる、という感情は消えない。


「女を武器にしようと思ったの。

バイオリンにしか興味がないアイツよりも

女として佳代子よりは勝っているって。それを証明する為に」

「そこまでして………勝つ意味はあるの?」


見切りも、必要だと思う。

自分自身の身の程を知り弁えて、自身を理解した上で生きる事も大切な事だと理香は思うのだ。

身の丈に合わない性格や生活は自身を狂わせる。




「だってアイツは森本家の子供じゃない。

孤児(みなしご)なのに。どうしてアイツばかり可愛がられるの?

本当の森本家の子女はあたしなのに、誰も目も暮れやしない。

悔しくて堪らない。本当の娘はあたしなのに………」



(嗚呼、やはり

森本繭子も、“森本家”というものに執着していた)


理香は、つくづくそう思った。

森本家というブランドに縛られているのは、一人だけじゃない。

その見栄や誇張のせいで被害者となった母親が居たたまれない。


「外面的な魅力も必要だろうけれど、

内面的な魅力が人を惹き付けるのだと思う」


どれだけ外見を着飾っても、魅力的に魅せても、

結局は内面的な魅力的がその人の本質を美しく見せる。

そして理香は(ようや)く身を乗り出した。


「貴女が殺めた人は沢山居るわよね。

私の両親。貴女の義姉、私、そして………名塚 瑠璃夜」


名塚 瑠璃夜の名前を口にした刹那、繭子はぴたりと止まった。



「会社設立の資金の元手は、この人よね?」


理香は、不審に思っていた。

いくら親子程の歳の離れた相手と援助交際しパドロンがいて

資金と貯めていたとは言うものの、“一人だけ例外がいた”。

それは一世を風靡した大物俳優の存在だ。


繭子と付き合っていた大物俳優は、

自己破産が原因で31歳という若さで自ら身を投げている。

アイドル歌手と結婚し順風満帆な家庭を築き上げ

自身の年商億単位と謳われた大物俳優の自殺に、

世の中は皆、首を傾けた。


けれども

その裏側には多額の借金苦だと噂されていたのだ。

多額の借金を抱え自己破産した理由は、愛人に貢いでいたという。



「名塚は夜の街で有名人だった貴女を、手離すまいと必死だったの。借金をしてまで貴女を繋ぎ止めたかったのよね。

貴女の我が儘の派手な散財により、

その大物俳優の年商億単位のお金は湯水の如く消えた。

借金苦により連日、野蛮に来る借金の取り立て。

そして貴女が離れていく焦燥に彼は心を病んだ。

そして………」


31歳という若さ、惜しまれるままに消えた。



夜の蝶として稼いでいた年収、援助交際で集めた資金。

だが多額の会社起業にはまだ足りないのだ。

そんな中、大物俳優が愛人に貢いだ金額を足した所、一致した。

それらの資金を集め、生まれたのは、

あの『JYUERU MORIMOTO』だった。


不貞関係と愛人契約で貯めた貯金と

その大物俳優の億単位の資金を貢がせた元手。

それが、JYUERU MORIMOTOというお城のきっかけだった。


悪魔の口許から、

真実を吐かせた末に、理香は切り上げる。

面会の30分後はもうすぐやってくる。


胸ポケットにしまっていたICUレコーダーの停止を押した。

口許に微笑に含ませながら。







「残念ね。貴女はまた自滅した。

感情の赴くままに、ペラペラと話して」

「な……騙したの、あんた!?」

「恨むなら、口の軽い自身を恨みなさい。

私は容赦なんてしないわ。優しい母、貴女の義姉とは違うのだから」




物語の構成上とは言えども、

文章内・登場人物の言動に不可解に、

不快に思われた方も居られると思います。

誠に申し訳ございません。

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