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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第246話・娘とした陰謀



白内障、事故の後遺症の影響で、

繭子の視界は(ヴェール)が日を増すことに濃くなって行き

今では光りさえも彼女の瞳は写らない程に深刻になっている。

茫然自失として留置場に留まっている、

今の繭子には(かつ)ての華やかさは消え失せた。


(全て、バレてしまった)


あれだけ計画的に練り込んで、森本佳代子を消し

彼女の娘の拐いの人権を奪った。あれだけ徹底し

隠し通し偽りの理想郷を作り上げた筈だったのに、

最期は呆気に砂の如く崩れ去った。



面会がある、と面会室まで連れられてきた。

(おお)せのままに椅子に座る。


(やつ)れたな」


アクリル盤から、容赦ない冷ややか声音が聞こえてきた。

健吾の言葉に繭子は皺を含ませながら睨み据える。

繭子の視界は闇夜の深い(ヴェール)に包まれている。


26年前の真実。

森本繭子は、姉の娘を誘拐し、自分自身の娘と偽り育て

精神的虐待をしていた事は全て明るみになった。

マスメディアは二転三転した森本繭子の真相に

踊らされたが、類に稀なスキャンダルに賑わっている。


ずっと墓場まで持っていくと誓った事実が、(おおやけ)となった今、

意外にも繭子は白けてどうでもいいと思った。

あれだけ明るみになる事を恐れていたのに、

いざに明るみになってしまえば。



しかし。


「………なんで、全てがバレてしまったの!?」



「………盗聴器と、GPS」

「…………やっぱり。姑息な真似をしていたのね!!」


繭子は声を荒くした。

あの知能犯の小娘がやりそうな事だ。

しかし盗聴器を仕掛けられた事は理解が出来るが、

GPSは聞いた事はない。


「………理香から、“髪飾り”とやらを貰わなかったか」


健吾の凛とした物言いに繭子は固まった。

騙された。貶められのだ。理香は、社長室、ハイヤー

繭子の砦である豪邸に数ヵ所こっそりと盗聴器、

そして埋め込み式のGPSを着けていた。


『この髪飾りを着けている間は、私がいます。

これを証拠としましょう』


介助者の令を出した際に、理香は髪飾りを繭子を渡した。

それがGPSナビゲーションを埋め込んでいたのだ。



「………もう嘘で固めるのは、止めろ」

「は?」

「………理香から聞いて、見ていた。………目の事も」

「なんですって?」




『これはGPS搭載の拡声器です。盗聴器を通して聴こえます』


理香から渡されたのは、

ミニサイズの四角いバッチのようなもの。

拡声器はカメラ機能も備えていて、社長室に居る繭子が見えた。


「盗聴器だけで十分じゃないか。なのに、GPS機能まで」

「…………白石さん。この人の様子を見て下さい」

「……………」


立ち上がった際の歩き方が、何処か他所他所しい。

今までの繭子の特徴的な人を見下す様な歩き方ではない。

何処かさ迷い歩いている様な、何処か覚束無(おぼつかな)い。

何かに勘付き始めている健吾に、理香は身を乗り出した。


テーブル、健吾の前に差し出したのは、医師の診断書。


「………前の、謝罪会見で、機材の落下事故が生じましたよね。

その際に怪我の後遺症が引き金となって、視覚障害が。

今、あの人は………」


理香は其処で言葉を打ち切った。

診断書には、白内障、頭部外傷の所見と経過を書かれている。

理香の言葉を悟った刹那、彼女は視覚障害を背負っている事に気付いた。

だから、理香は今まで慎重になっているのだと。


理香、健吾は、

それぞれ双方違う視点で、張り込みを重ねていた。

森本繭子の秘密を握りながら、記事を出すタイミングを狙っていたのだが


まさか、あの事を知ってしまうとは。

だが、あの台詞には何処か素直さがなく、裏側があるように見えた。

健吾が知りたいのは一つだけだ。



「手短に、単刀直入に問う。何故、理香を拐った?」

「…………」


「君には森本家の権利だけが、(ふところ)に入れば十分だった筈だ。

何故、憎しみを持つ姉の娘を拐って、自分自身の娘にしたんだ。

憎しみを持つ人間がいるのは、君にとって、不愉快な筈だ」


ずっと疑問だった。

繭子は、理香を権利譲渡の為に、一時的に拐ったに過ぎない。

けれども何故、自分自身の娘にしたのか。


「肩書きが欲しかったの」

「……肩書き?」

「____JYUERU MORIMOTO女社長、だけならインパクトに欠ける。

一人娘を育てるシングルマザー、そんな肩書きなら人目を惹くでしょ」


淡々と無表情に、繭子は告げた。

女社長として、インパクトを繭子は求めていた。

子供は自分自身を引き立てるブランド。我が子だけは

繭子には欲しがれない。

何故ならば、


「………あたしは、子供は望めないもの」



繭子は、子供が望めない身体だった。

梅毒を患った影響だ。子供にも遺伝してしまう。



それに血を分けた我が子だけはきっと情が移ってしまう。

自身の一部となる子供には遺伝して欲しくなかった。


子供が望めない繭子に、

“姉の娘”の存在は、逃してはならない気がした。

憎しみが積もっている存在でも、“シングルマザーの女社長の地位”を手に入れられる。

会社を設立ばかりの女性だけでは、ぱっとしない。

だから女社長としての形と、肩書きを求めた。


「愉しかったわよ。

哀れな憎しみを持つ娘を育てるのは。

でも、清々した。あの女が壊れていく様で愉しかったもの」


くすくす、と繭子は負け惜しみに嘲笑った。


「口を慎んでくれ。間違えても君がした事は犯罪だ。

君の元に居たせいであの子の心は壊れてしまった」


この女に拳を出す事も無意味に見えてきた。

全てを求めて手に入れたつもりでいるけれども、全ては虚像だ。

本物は何もない、


本当は、健吾の心の中は怒りで満ちている。

娘を拐い奪った事には代わりないのだから。


「感謝して欲しいわ。

哀れなあの子を育ててあげたのは、あたしよ」

「それ以上で留めてくれやしないか。俺は、妻も娘も奪われた。

育てたのは確かだが、最終的に君は理香に何をした?」


繭子は、

理香の人権に奪い、

精神的に追い詰められ彼女の心は傷付き折られた。

もう“本来の白石理香”は戻らない。


悪魔の傍に居て、育てられなければ、

理香はどんな風に育っていただろう。







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