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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第241話・孤独の代償


きっと、森本心菜が

「母親を支えるの操り人形」というのなら

椎野理香という存在は、


「………私は、“貴女の人生を横槍”を入れる者よ」




「ねえ、意地でもプランシャホテルとの

提携経営契約解消を拒みながら、震えて生きるか、

プランシャホテルとの提携経営契約解消を受け入れ

全てを捨ててこのままひっそりと表舞台から姿を消すか」


不適な微笑み、物憂げな面持ち。低い囁き。

椎野理香の全てに繭子は震えている。


けれどもそれを飲み込み受け入れる事は、出来ない。

あの華やかな脚光を浴びた高揚感、満たされる自己顕示欲。

自分自身を全て包み込み、心を焦がす程に満たしてくれる光り。

離れられる訳がない。。



繭子の悪足掻きにくすくすと嘲笑を浮かべながら

悪魔が小鳥の様に震えるのが、可笑しくて



「貴女が会社を再構築しても、(ちり)となるだけじゃない?」

「それでもあたしは、この名誉を捨てるなんて嫌よ!! 絶対に嫌!!」

「何時まで、その“名誉”に固執しているの?

名誉だとか名声だとかもう、硝子の様に砕け散って無くなっているも同然よ」

「違うわ!!」


ダン、と凄まじい音。机に拳を叩き落とす。

しかし理香はそれにも動じず、囁いた。悪魔が鎮める言葉を……。



廃棟、芳久の住み着く部屋。

質素でミニマニストの持ち主の部屋は綺麗に整理整頓されていた。

この部屋だけはどうも、廃棟の一角にあるとは思えない。



視線を落とすと、手元には青年がくれた淡い紅茶。

その香りが心を静かに落ち着かせる。



青年のノートパソコンのキーボードを手際良く、

指さばきやその背中を見詰めていた。

理香は思い立った様に立ち上がり、

芳久の横に立つとそっと代物を差し出した。



これを、と差し出されたのは、提携経営契約解消の書類だった。

微かに驚いて2度見してしまったが、

しっかりと森本繭子のサインと捺印が押されている。


「どうした、凄い産物だなあ……」

「これで理事長の願いも、貴方の憑き物は落ちる」

「有難う。でも“あの時の君の強さ”にはお手上げだよ」

「………そう?」


小首を傾げ、理香はゆっくりと微笑した。

芳久は


「そう言えば、三条さんに会ったんだよね。

あの人の怒りと憎しみは鎮められた?」

「ええ、多分」





あの後、役所のロビーで、理香は告げた。


「森本佳代子さんの変死のきっかけを掴めるのなら、

と思いました。けれど、どんどん魅力的な彼女に惹かれ、

お恥ずかしながらという関係に……」

「母の事に人力して下さった事は感謝致します。

しかし記事掲載の同業者である父を見捨てた事は

見過ごせません。貴方は森本繭子から貶められたのです。

………あの人は、常に誰かがいないと駄目なのですから」




三条富男の後をつけたのは、

彼の呟きを聞いてしまったからだ。


(もてあそ)んで棄てたあの女、許さない。俺は全てを失ったのに………』


あの男に膨らんだ心の留め金になった、悪魔の殺意。

理香も人の事を言えない。繭子に独占欲を抱いている。

あの悪魔に触れて、手を下していいのは、自分自身だけ。

彼女を苦しめる権利を持つのは、“私”だけ。


『あの人ごときに、人生を棒に振るのは割りにありません。

まだ母の不審死を記事として形する方が、貴方の為になる。

奥様も、娘様達も、貴方の成した大役に誇りに思い、見直されるかと』


三条の娘達は、記者として翻弄する父親が自慢だと聞いた。

取り繕う形で告げたばかりだが、三条の瞳は潤んでいる。

三条は指先で涙を(ぬぐ)って、

礼を言いながら理香に対して頭を下げた。





いつだって、そうだ。

あの女は孤独に震える。寂しくなると命を終える動物の様に。

孤独に、一人になってしまうと、正気を失う。

偽りを毛皮に隠し孤独に震えていたのだから。


「心菜、何処に居るの!?」


あの頃、心菜として虐待を受ける中で、

自分自身がいなくなるとずっと叫んでいた。

ジュエリー界の女王のお城は広くて狭い。

そして自分自身のスタンスを壊さぬ様に、弱味を知られぬ様に


心菜(あんた)には、母親(あたし)がいないと駄目なのよ」


呪文の様に、呪縛の様にして悪魔は囁き続けた。

娘という操り人形が逃げ出さない様に、束縛の黒い縄で縛り続け

それが絶対的だと思い込んでいたのだ。


廃棟から見送る為に二人は、薄暗い廊下を並んで歩く。

理香は物憂げな眼差しで回想を淡々と呟く。

その儚い横顔は、心菜として束縛されていた頃を映すかの様に何処か寂しげだった。



芳久は自然と距離を詰め寄り、理香を壁に追い詰めた。

理香はきょとんとした眼差しのまま、

青年を見上げ芳久は複雑な眼差しを彼女に向けた。


(母親の操り人形だなんて言うけれど、彼女は操り主を分かっていない)





「森本社長は、理香を逃すつもりはなかったんだよ」

「………何故」

「理香に逃げられてしまうと、自分自身は独りぼっちになってしまうからだよ。

佳代子さんを憎しみ殺したのも事実だけれど、

あの人に構っていたのは、佳代子さんだけだった」


そうだ、と理香ははっとした。

両親には、特には母親からは『森本家の子女』と

相応しくないと見放され、絶縁同然で見放され、

佳代子が亡くなって家を飛び出してからは完全な絶縁だった。


(単なる“憎しみ”から傍に置いていた、ではなかった)


佳代子は、当たらず障らず、繭子に構っていた。

憎まれている、と感じていても彼女は知らないふりをして。

佳代子を憎しみの末に殺してから気付いた。

……自分自身は一人になると。


だから、自分自身を奪い拐ったのか。


(あの虐待行為や嫌味は、自分自身を忘れて欲しくなかっただけ?)


哀れみを抱いた。

其処までしないと、誰かから振り向いて貰えないのか。

繭子は誰を脅して束縛しても、孤独にはなりたくなかった。

憎しみの()け口にも出来る自分自身を呪縛したのか。

自身が孤独になりたくがない為に。






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