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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第240話・悪魔の味方





森本繭子との不倫により

三条富男の家庭は壊された。富男に残ったのは多額の慰謝料、娘の養育費。


「妻にも、娘にも、見限られた」



それを脳裏に佇ませながら、

重い足取りでロビーの階段を降りようとした富男はふと立ち止まった。



市役所の玄関サイドで、見慣れた姿を捉えた。

フードを被っていても溢れた髪の一房が

優雅にさらさらの長い髪が冬の風に(あお)られて、微かに揺れる。

彼女は、黒いフードのパーカーに黒スキニーパンツという出で立ちだった。

飾り気は無いのに素朴さ、独特の儚さは健在だった。



普段から華奢だと思っていたが、

その曲線美の姿は思っていたよりかなり華奢に見える。


「なんだ」

「いいえ、この度は御愁傷様です。

…………貴方は身を滅ぼしました。あの人と関わった事で」

「なんだ、この中年オッサンを笑いに来たのか。慰めならないよ」

「………いいえ。そのつもりは毛頭御座いません。

貴方にもご事情があったのだと推測します。今はあの人がお憎いでしょう」



理香は、冷静沈着に淡々と言葉を紡いでいる。

その真意が掴めないせいか、彼女が何故、此処にいるのか分からない。

理香は物憂げな双眸で見詰めていたが、不意に言葉を呟いた。



「______その“憎しみ”分けて貰えませんか」



(…………この人も、被害者)




_______プランシャホテル 理事長室。




まだ提携経営契約解消のサインは、まだ届いていない。

森本繭子の不倫スキャンダルも重なり、それどころではないのは分かるが、

英俊の(ふところ)もそんなに偉大ではない。

あの女社長には待たされてばかりだ。


「だが、私もそんなに待ちくたびれてばかりでは要られない」


にやり、と英俊の口角が上がり微笑を浮かべる。

その英俊の見せる表情に、芳久は無言の威圧を感じ

悟りを開いた。



「まさか、理事長………」


芳久に不穏な冷や汗が浮かぶ。

否定が出来ない。この男は、プランシャを守る為ならば

手段は選ばない男だ。


森本社長の視覚野は、奪わつつある事を誰も知りやしない。

奴等にとって手加減等ということば通じない。

主の要望を必ず叶えて戻ってくる。

芳久は理事長室を後にすると、直ぐ様に携帯端末を取り出した。

理香の存在地位を奴等はまだ知らない。




____JYUERU MORIMOTO社長室。


どすどすと聞き慣れない、不可解な足音。

ドアからぞろぞろと社長室に入ってくる気配に

繭子は、怪訝な


だん、という凄まじい音がデスクに響く。

リーダー格の男は、社長のデスクに座っていた、

繭子をひけらかす様に呟いた。




「プランシャとの提携経営を解消して頂きたく」

「……………嫌よ。絶対にしないわ」


震える声音で、繭子は叫ぶ。

聴覚が鋭くなり恐怖心から背筋が凍り付いて、上手く言えない。

その刹那、何かが壊れる音がけたたましく残響した。

社長室にあるものを全てひっくり返し、滅茶苦茶にしているのだ。

備品は呆気なく壊れていく。


「調子に乗ってるんじゃねぇよ!!

落ちぶれたジュエリー会社の社長の癖に」


心菜は、何処にいるのか?

まさか、この男達に怯んだ、もしくは痛い目でも

遭えばいいと思って出て行ってしまったのか。


(あの役立たず……)


その瞬間、ガチャリと開いた。

黒スーツを来た体格の良い男達が数人、社長室で暴れている光景、

理香はそれは冷ややかな眼差しで見詰めながら、

内心、溜め息を着いた。

理香が入室した瞬間、男達が固まる。







「解りました。でしゃばる真似を致しますが、

この案件は私に任せてくれはしませんか」

「しかし、」

「貴方達のお望みのものは、高城家に届けます。

絶対、条件です」


にこり、と控えめな微笑みを浮かべると、奴等は引いた。

この女には言葉には出来ぬ安心感と信頼があった。

それに、“後継者の妻”として、手を出さぬ様に

しっかりと英俊から言い付けられていた。


「帰るぞ」


リーダー格の男がそう合図を告げると、

周りにいた男達はすんなり引いていく。

ぞろぞろと社長室を後にする奴等を見届けながら

理香は溜め息を着き、拾ったナイフを手に取ると、じっくり眺める。


「大事になる前に決心された方がよいかと」

「…………あんたが使わせたの? あたしを脅す様にと」

「いいえ?」


小首を傾げて、鼻で理香は嘲笑う。


プランシャホテル後継者の妻の地位に座ったのなら、

何でも裏から手を回せるだろう、奴等を操る事すら

簡単だろう。





「貴女を他人には、脅させない」


ドス、という独特の音が近くで聞こえて、身を縮ませる。

氷河の様に、凍える雪の粒の様に、理香は囁く。



「貴女を脅す事が出来るのは、私だけ。私だけの特権よ。

私のやり方に邪魔なんかさせないわ。貴女に指図したり出来るのは私だけなの」


にやり、と浮かべた微笑。



「この不倫報道によって貴女に失うものがある……けれど貴女には残されたものがある」


残されたものがある、と告げた瞬間、繭子の瞳は輝いた。



「………不倫発覚により、多額の慰謝料。

不誠実な対応による世間の冷たい眼差し……かしら」

「は?」


繭子は、立ち上がった。

不倫発覚の慰謝料、と理香ははっきり告げた。

三条富男との慰謝料だなんて聞いていない。


「三条富男に妻子がいるのは、関係はない事だと思ったでしょうね。

でも立派な不貞関係に当たる。慰謝料の請求は三条さんだけじゃない。

不倫相手である貴女にも支払いが命じられている。

…………三条富男さんのご家庭は崩壊したわ。貴女の横槍のせいでね」



多額の慰謝料請求。


「………ねぇ、そろそろ観念したら?

もう貴女に残された栄光は、何一つ存在しないのよ」


低い声の囁きが、背筋を凍らせる。

にやり、と微笑を浮かべる理香は何処か愉しげだった。


「悟りを開いたなら、これにサインして?」



いつの間にか机の上に用意されていた、

プランシャホテルとの提携経営契約解消の書類。

理香は微笑むが、繭子の顔色はどんどん焦燥感と

恐怖心により顔面蒼白になっていく。



「嫌よ……」

「そう。じゃあ、知らない」


突き放す様に言われた言葉に、何故かすがりたくなった。


「サインしないなら、貴女の秘密を暴くまで……。

もっと地獄を見たいようだから………」

「………ねえ、」


繭子は震える声で、問う。


「貴女は何処まで、あたしを追い詰めるの………」

「追い詰める? 私はただ介助者の役目を果たすだけ。

プランシャホテルとの契約解消を、お義父様に渡すだけよ。

…………“高城家の人間”として、ね」



繭子には分からなかった。

“介助者”としての、椎野理香は人畜無害で、

自分自身の与えられたものを完璧にこなしフォローをする。

今までの憎悪や復讐心は消えた様に思えて、

何処かでまた刃を向けるのでは、ひやひやしていた。

だからこそ、神経が休まらず張り詰めて居たのかも知れない。


「貴女の、目的はなに?」

「………目的なんてないですよ」


(……目的……貴女が破滅する様を見届けること?)


理香は冷たくあしらった。

でも、と繰り返す。


「不倫も終わった。私も貴女を見放した。

誰一人、貴女に“接触する人間はいなくなった”」


理香は、微笑を浮かべ呟く。



「…………もう貴女には、味方は、誰一人として居ないのよ」






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