表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
243/264

第239話・破滅への取り引き


今日は自棄に、外界がざわめいている。

研ぎ澄まされた聴覚が、闇の中でそれを確かなものにした。

異様な雰囲気を感じ取っているのか繭子は何処かぎこちない。

理香はその様子を見詰めながら、身を乗り出した。


『社長、今から流れる音声に、心してお聞き下さい』

「どういうこと?」


表向き悩ましげな表情を浮かべているが、

裏では薄ら笑う理香は、容赦なく【Enterキー】をクリックした。


『独占スクープ・JYUERU MORIMOTO社長・森本繭子、

衝撃的なスキャンダルが発覚』





【“JYUERU MORIMOTOの社長・森本繭子社長の衝撃的なスキャンダルが発覚】

二人は仲良さげに腕を組み、高級料亭へ消えてく夫人。

JYUERU MORIMOTOの社長・森本繭子である。

夫人の傍には、親密そうな男性がいた。


森本社長のお相手は、JYUERU MORIMOTO秘書を務めるS氏”

しかしながら森本社長の新たな恋には支障がある。

実はSは妻子ある身なのだ。関係者によると、

数年前から親密な関係になったとのこと、である”】


その無機質な音声が鼓膜を震わせた刹那に

繭子の背中に悪寒と冷や汗が、(ほとばし)る。

高城理事長との会食の前、恋人らしい事がしたいと踏み出した事が仇となるとは。


(まさか見られていたなんて…………)





(むご)く、凄い娘だ。まさか、ここまでやるとは』

「そうですね。貴方の憎悪が乗り移ったのかも知れません」


理香はあっさりと肯定し、冗談混じりに淡々と告げた。

絶望した双眸にそっと淡く口角が上がり、微笑する。



実は、あの会食の時、健吾も居た。

健吾は影武者として、記者としての役割を果たす為に。

会食が行われる数時間前に、理香に呼び出された。



「………白石さん。実は、森本社長の事でお話が」

「何かな?」

「プランシャホテルは、JYUERU MORIMOTOとの

提携経営をしている事はご存知ですか」

「まあな。把握している」

「………実は、プランシャホテル側が提携経営解消を

求め、今夜、会食が予定されているんです。

その場で理事長は提携経営解消の話を持ちかけると思います。


ですが、話は提携経営解消の話だけでは納まりそうにありません」


寝耳に水だった。

プランシャホテルとJYUERU MORIMOTOは提携経営関係だとは頭に入れていたものの、その話に呆気に取られた。

健吾は呆然自失としていたが


「白石さんは、

あの人の性格を知って居られるでしょう?

きっと提携経営解消の話が持ち上がれば、

あの人は冷静なままでは居られないと思います」

「………そうだな」


繭子の性格は、瞬間湯沸し器の様に短気で

感情的にヒステリックになるのがオチだろう。

提携経営解消を提案したところで、受け入れないだろう、と健吾は思った。


「それに同時に“面白いもの”が現れます。損はしません」

「…………面白いものとは?」

「それは見てからのお楽しみです。森本繭子を陥れるのは完璧だと思います。………なので、あの人を尾行して下さいませんか」


これは私からもお願い致します、と言われ

頭を下げられしまえば申し訳無くなる。

加えて


(______理香の告げた事は密告ではないか)


衝撃的な記事が書ける、それは理香の瞳が物語っていた。

好奇心が掻き立てられ、森本繭子の隠し事を見たくなる。

見てみたいと、二つ返事で了解した。


理香から場所と時間帯が提示されたメモを片手に、

ミシュランガイドに掲載された事もある、高級な和風料亭に身を潜めた。

すると最初から健吾は、目の前に起こるセンセーショナルな現実に愕然とした。


森本繭子の恋人は、三条富男。

彼女の秘書であると頭に記憶していたので、

最初はそのよしみかと思っていたが、それらは健吾の想像を超越していた。


富男による繭子のエスコート。

繭子の妖艶で何処か誘惑に近い、スキンシップ。

言わずもがな二人は恋人同士だと気付いた刹那、健吾は無感情になった。


(………裏切った人がいるとも知らずに、お気楽な事だな)


(それが、いつか軽率な行動、どころでは済まされなくなるのに)


悪魔の性格への哀れみ。

その行動一つ一つが、自分自身を自滅させるというのに。

彼女は自身の行動の一つ一つが、仇となってしまう事を知らない。


一分一秒たりとも目線が話せない。

携帯端末のカメラが、無意識に二人を追う。

バレない様に草木に隠れ、料亭の視角に隠れ、撮影や連写が止まらない。

仲睦まじいその裏切り者二人の姿に、

冷ややかな眼差しで見詰めながら、恍惚な感情に駈られてその姿を撮り続けた。

自らの手で、彼女の名誉を突き落とすのだ。

(かつ)ての酷い仕打ちをそのまま返してやる。否、倍にして。

愛した妻を、娘を奪った女への仕打ちはこのくらいでは足りない気がした。


(佳代子を守る事も、理香の成長を見届ける事も出来なかった。

それは全て貴様の欲望のせいだ)



しかしカメラ撮影する中で健吾は気付く。



繭子の素振りが何処かぎこちなく、不安げだと。


(_____何故だ?)


編集室に戻り、記事の内容を書く彼の指先は素早いものだった。

それは妻と娘を奪われた、憎悪が背中を押す。

復讐出来る機会を与えてくれた娘にも感謝すら覚える。

写真をピックアップを確認していると、携帯端末が震えた。


“_____記事のブーケになる事を願います”


椎野理香から送られてきたのは、あるボイスデータ。

それは富男との会話、そして、高城理事長と口論している会話だった。


“いいスクープが取れたよ。感謝する”

“____いいえ”


そのメールのやり取りの後に理香は微笑した。

そして確信した。


今まで以上のスキャンダル、取り返しの付かない大事になると。

きっともう後戻りは出来ないのだ。


(…………思い知ればいい。

貴女が母から奪ったものは、虚像の権利だと。

貴女には虚像という哀れな物事にしか出来ないのだと_____)




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ