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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第237話・現れて欲しくなかった形


約束の会場は三ツ星のミシュランガイドにも度々、登場する威厳の料亭だった。

その個室を高城家が予約しているそうだ。


会場に向かうハイヤーに揺られながら、

繭子は呆然自失としながら奥歯を噛み締める。

椎野理香は何故、三条富男と不倫関係にある事を知っているのか。

大丈夫だと思っていた筈の弱味を握られてぐうの音も出られなかった。


(奴は何処まで知っているの?)


再び現れた椎野理香は、傍若無人で、掴めない。

触れれば逆鱗に触れてしまいそうで唯一、秘密の鍵を握っている理香を何処かで彼女を恐れている繭子がいる。



ドアが開く音が聞こえ、繭子は我に帰った。



「………着きましたよ。………社長?」


繭子は固まったまま、動かない。


「エスコートして頂戴」

「………え、でも……」


三条富男は、戸惑いの表情を浮かべた。

私生活では不倫関係でも、表向きは清い社長と秘書の関係だ。

固まる富男に繭子は手を差し出した。


「個室に行くまでは、誰もいないでしょ?

もし見られても恋人同士にしか見られないわ。

高城理事長に会う前に離れたら良いことよ。早く」

「了解致しました」


伸ばされた手を受け取ると、富男はエスコートする。

ハイヤーから一歩、踏み出すと富男の腕に絡み付き、その肩に頭を乗せた。


「社長」

「良いでしょ? 恋人らしい事したいの」


妖艶な微笑みを向けられて、富男は息を飲む。

理由は分からない。けれどもこの女性の魅力は惹かれたら

逃げられない。その薔薇の色気の誘惑の何も言えなくなり、

富男は逆らう事は止めた。


個室の前で、繭子は離れた。

和室風の個室の前に着くと、富男はそっと襖を開ける。

その先には先にテーブルの向こう側には、英俊と誰かが居た気がした。

だが砂嵐の様なぼやけた視界は、その人物の輪郭を捉えている。



「ご無沙汰しております。森本社長」

「いえ。此方こそ、お会いできて光栄です。……お隣にいらっしゃる方は?」

「ああ、私の(せがれ)です。いずれは私の後を継ぐ者です。

ご挨拶なさい」


一歩踏み出すと青年らしき人物は、深くお辞儀した。


「初めてお目にかかります。高城芳久、と申します」

「あら。ご立派ですこと」


穏和な雰囲気を漂う、好青年だった。

柔らかい物腰と言葉、ぼんやりと伺える優しい顔付き。

あまり高城英俊とは似ていない様な気がした。



(………後継ぎならば、この青年に媚を売らなきゃ)


気に入って貰う事は、最も大事な事だ。

提携経営先、ホテル最高峰であるプランシャホテルを逃す訳には行かないのだ。


その後の食事会はすんなりと、穏やかな雰囲気が流れた。

雑談を交えながら会社の業績の話し合いや、これからの予定等。

提携経営者同士の会話は、途切れる事なく続いていく。

そんな中、いよいよ英俊が身を乗り出した。


「実はこの度、私の倅が結婚致しましてね」

「まあ。おめでたいですね。おめでとうございます」

「……ありがとうございます」


ぽそり、と表向き照れくさそうに、芳久は呟く。




「そして

森本社長にもご紹介したく、呼んでいるんです。

ご紹介しても宜しいですか?」

「まあ、おめでとうございます。

私も是非、ご子息様の奥様をお目にかかりたいですわ」


ほほほ、と繭子は上品に笑った。




(………目から心臓が飛び出さない様に)


上機嫌な繭子に、芳久は思う。

呼びなさい、と合図された芳久は微笑みながら

席を外すと、一旦個室から出ていく。



一旦、芳久が出ていくと場の空気は静まり返った。

そろそろかと英俊は本来の目的である、議題を出す事にする。


「森本社長、

今回はわざわざお足をお運び頂きありがとうございます」

「いえ、とんでもございません。ご子息様も伺えた事ですし」

「そう言って下さると有難い。そして本題に参りたいのですが………」

「なんでしょう」


すっかり警戒心を無くし、上機嫌な繭子に英俊は身を乗り出した。

それは、残酷な言の葉。



「_____提携経営の解消をお願いしたいのです」


「……………え……」


ぴたり、と繭子の動作が止まった。

先程まで浮かんでいた上機嫌な微笑みも剥がれ落ち、呆然自失としている。

そんな繭子にとって奈落に突き落とす同然の言葉を告げた後、


「会食を告げた頃から、考えておりました」

「何故です? 何故、提携経営解消だなんて、こんな良好な関係ですのに?」

「良好の関係?」


パニック状態となり、頭に血が昇っている繭子に

ふっと鼻であしらい英俊は冷静沈着に残酷で無慈悲な話を続けていく。


「それは、お宅が思っているだけでは。

此方はJYUERU MORIMOTO、貴女の起こした騒動により相応の被害を受けている。

提携経営解消は考えておりました。しかし、私が会食を持ちかけても、貴女は逃げていたのではありませんか」

「それは………」

「………提携経営の解消は、

プランシャホテルにとって決まった事項です。

直ちに提携経営解消を求めます」


動悸と冷や汗が止まらない。




「_____この経営解消書類と、誓約書にサインをして下さい」

「嫌です!!」


繭子は声を荒げる。

JYUERU MORIMOTOの経営再開にまで(ようや)く、辿り着いた。

そんな中で業務提携経営先は、手放してはいけないのだ。


「せっかくのご縁を手放すなんて、私は反対です!!」


その繭子の言葉に、英俊は溜め息を着いた。

それは何かに呆れた様な、見切りを着け、見放した様な。

そして英俊はそれまでの穏やかな表情を抹消し、ぎろりと険しい眼差しに変わる。

しかしながらその英俊の眼差しに、繭子は気付かない。


「ご縁ですか。貴女はそう言いますが、

私、プランシャホテルにとっては悪縁でした。

はっきり申し上げますがJYUERU MORIMOTOと

このまま提携経営を存続していたら、プランシャホテル、

私の倅の代になっても影響が出ます。


私としては、提携経営解消をお願いしたい。

これは絶対事項でもあります。了承して下さい」

「そんな………酷い」

「先に酷い事をされたのは、そちらの方です。

此方としては早くサインをして頂きたい。

否応言うのなら此方にも考えがございます」




すっぱり、と話を切った。刹那に絶望へ突き落とされる繭子。

ドスの聞いた威圧感のある声に震えながらも、

繭子は混乱の渦に巻かれ、意気消沈しながらも心は拒絶していた。

だが。



「お父様、森本社長、お話中のところ失礼致します。

入っても宜しいでしょうか………?」



不穏な空気の中、

凛とした芯のある穏やかで控えめな声音が響いた。

そうだ。高城芳久の妻を紹介したい、というのを忘れていた。

そんな事はもうどうでも良かったのだが。


「ああ。済まない。呼びなさい」

「はい。…………行こう」


慣れない靴音が、耳元に届く。

華奢な輪郭が横切り、高城芳久の隣に着いた。

しかし突如にして繭子に違和感が襲う。


慣れた雰囲気が、空間に現れた様に感じた。


芳久の隣に現れた彼女の、ストレートな髪がふわりと揺れる。


「初めまして、“高城理香”と申します」


聞き慣れたその声音に、

(はらわた)と、心の奥底にある憎悪が(うごめ)いた。

まるで行水(ぎょうずい)の滝に打たれた様な、冷ややかな衝撃が冷水となって現れた様だ。

理香は静かに口角を上げて、柔に微笑んでいる。




(…………心菜が、嘘よ………)


お願いだ。嘘だと言って欲しい。

しかしそれを覆したのは、英俊の言葉。


「私の倅の妻である、理香さんだ」


その理由はすぐに分かってしまう。

プランシャホテルの次期後継者の妻が、心菜なのだ。

心なしか英俊の声音は明るいものの様に感じてしまう。

心菜が、気に入られている事等、すぐに理解した。


(心菜が、プランシャホテル息子の嫁ですって?」



繭子は絶句して、佇んだままだった。



(_____知らなかったでしょう? もう逃げ勝ちはさせないわ)




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