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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第3章・母娘の愛憎
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第21話・裏腹の思い




人生は、時に理不尽で残酷だ。

それを定めたのは、誰なのか。

聞く余地も知る余地もないけれども。

ただその理不尽に、挫折するか抗うのかは、その人に委ねられるのだろう。


夜の(とばり)が、街を包む。

理事長室からやや隔離された、窓から見えるその景色を見詰めつつ

その目の前の机に手を組んで頬杖を着き微笑する男を、

青年は正常心ながら内心冷めた眼差しで見る。


「________素晴らしいと思わないか?」

「そうですね」


理事長の言葉に、芳久は淡々と答えた。

彼の手に持たされているタブレット端末は薄暗い部屋で、

煌々と光っていて其処にはプランシャホテル____我がエールウェディングの業績表が映っている。


一定の安定感を保っているグラフは、最近になり

少し上がり気味、それは紛れもなくこのプランシャホテル・エールウェディング課の営業業績が上がっている事を、

確実に示しているものだ。


昔から、このホテルの人気は落ちぶれ無い。

黒字は見たとしても、赤字の等の線は一切見た事は無かった。

特に新プランを立てるエールウェディング課の人気は、飛び抜けている。


このグラフが上がったのは、提携経営を結んだからだろう。

それしか理由が浮かばない。それが無ければこんな結果なんて出なかった。

この結果が出る事を望み、更に業績が上がる事を組み立てていた張本人、

即ち、芳久の目の前にいる男は自分自身の思惑に嵌って、喜んでいる。


しかし、芳久の心は冷たく無情に冷え切りでなんとも思わない。

昔から、計画通りに事を勧める事に精進している冷酷な人間だからだ。

今ではすっかり慣れてしまい、何とも思わなくなってしまった。


「もっと、喜んでも良いんじゃないか」

「喜んでいますが?」


作り笑顔を浮かべ、平然とそう答える。

それを、顔に出ていたつもりは無かったのに。

けれど顔に出ていなくても、彼には自分の事が分かってしまうのだろう。

何故ならば_________。


「________お前は、私の我が息子でこのホテルの後継者なんだからな」


聞きたくない。

出来るのなら耳を塞いでしまいたかった。

心の中で冷ややかな舌打ちしつつ、芳久は理事長という名の父親を見据える。


高城芳久は、このプランシャホテルの理事長・高城英俊の息子だ。

けれど、その肩書きを芳久は嫌って自分自身が理事長の息子であるというのを

隠しているまま今に至る。芳久が英俊の息子だという事を周りには

あまり知られていない事実で、親の七光り、二世という感じさせない

求められる実力を備え、彼自身が高城英俊の息子と思われない様に努力を積み重ねてきた。



(_________あんなに蔑ろに、してきた癖に)



腸が煮え繰り返る思いで、そう思う。

あれだけ、次男である自分自身をを蔑んで、そして狂わせてきたのに。

そんな男の跡目等、継ぎたくも無いのが一番の本心だ。


この父親という人間も。

このホテルも、好かれたモノじゃない。

芳久にとって、一生涯で罪悪を連想しそうな人間と物体だ。


この世で、最も怖いのは“人間”だ。

人間が持つどす黒い欲望にとって、世界は黒く染まりモノクロの世界と化す。



都合の良い人間め。

自分自身の都合上で周りの人間を操る非道な悪魔。

自分自身がそんな男の息子である事を認めたくなくて、否定したかった。

けれど、彼には出来ない。血縁の束縛と後の無い選択を定められているからだ。


高城家は、何よりも血筋を重んじる。


出来る事ならば、逃げたい。

そう思い続けてきたのに、それは何時しか無情に変えて行った。

腹の中は黒く嫌っていたとしても、表向きは従っている振りをしたら良い。

抗う事は許されない。そうすれば、この男は自分自身の敵を潰していくのだから。


絶対権力を持つこの男に、抗う者は居ない。

居たとしても、その人間は潰されているのだから…………。

それを恐れて、依怙贔屓(えこひいき)する奴らが増えてきたと知った。


けれど、ふと思う。

もし、自分自身が逆らったら、

この男は自分自身をどうするつもりなのだろう?



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