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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第232話・悪魔の元へ戻ったもの


英俊は悩ましげに、

腕組みをしながら机に置かれた代物に視線を落とす。

達筆な文字で「退職届」と書かれたもの。差出人は……。





プランシャホテル、エールウェディング課。





「高城君、任せたよ」

「はい」


主任の言葉に、誠実に言葉を返す。

主任は首を捻りながら、項垂れた表情を浮かべた。


「この課の即戦力は、君しか居なくなったからな……」


芳久は無言。

ちらりと隣の無になったデスクに目を遣った。

主を失ったデスクは言葉には表せない物寒々しさを感じた。


突然、椎野理香が居なくなった。

エールウェディング課、プランシャホテルを退職。

自身の担当する顧客の晴れ舞台を全てを

見送ったタイミングで雪の様に消えた。


あの廃棟の屋上で話したっきり。姿を見たっきり。

居住のマンションは引き払われ、その姿を見た者はいない。

まるで椎野理香、という人間が最初からいなかったように。


(生き様が似ているのか、似せているのか)


それは分からない。ただ一つ言えるのは、

彼女は森本佳代子の生きてきたレールを重ねて歩いているという事だ。

ただ芳久はあの日、最後に理香と会った日に彼女が、

何かに対して腹を括り、決意したのだ、とは察知していた。


(………何かとは、何だろう)


理香は、自分自身を“殺人者の娘”と呼んだ。

今まで森本佳代子を殺めたのは、実母ではないか、と可能性を疑いながらも自身を卑下し、そう呼んだ事はなかった。

けれどもあの時の椎野理香は、椎野理香ではない気がした。

椎野理香ではない誰か。


(………森本心菜、なら)


あの姿は、椎野理香ではなく、森本心菜なら。






何度、横槍に入られても、絶対に手放さなかった。


。_____JYUERU MORIMOTOの華々しい女社長“、“ジュエリー界の女王”という名声。


JYUERU MORIMOTOが悪評の波に晒されたとしても、

その玉座から降りたくなかったのだ。

それは、まるで佳代子に与えられた椅子に、

自分自身は見合なかったと思いたくなかったからだ。

まるで自分自身から負けを認める様な行動は絶対にしたくない。


(例え這ってでも、この玉座(いす)は手放さない)






「カモミールティです。ご休憩下さい」


冷静沈着な声音。

カモミールのふわりとした香りが鼻腔を安らかにした。

繭子の視界は日に日に霧が深くなり、殆ど視界は闇に近付いてくる。


(どういう心変わりかしら)


あれだけ自分自身に

歯向かっていた狂犬は、急に大人しく従順になった。

それが何処か気持ち悪く、不気味で繭子の神経は張り詰めている。


(目の前にいるのは、本当に心菜なのか)


繭子の生活は、180度変わった。………理香によって。

彼女からは点字を教えられ、繭子はそれらを全て覚えた。


娘は嫉妬する程に万能で、

あの頃よりも更に即戦力を伏せ持っている。


それが憎らしい。

娘と密接する空間にいる事は、侮辱的でもある。

心菜は佳代子と瓜二つ。その心菜と生活するのは、

佳代子との生活を送っている様な錯覚にも陥ってしまう。


心菜の姿や言葉を聴く度に、

侮辱され、泥を浴びせられる感覚。

異母姉から感じる憎悪や屈辱感は、娘に抱く感情果たして変わらない。


心菜を一個人の人間として見られない。

嫉妬や憎悪、屈辱感、無意識に心菜と佳代子が同一視してしまう。

憎らしい人間の塊と生活するのは、

何処か侮辱されている気がしてストレスが溜まる一方だ。


繭子には一つ誤算があった。

あの頃の様に根こそぎ古希を使い、イビり

自分自身の操り人形として調教させ、自分自身の威圧感と偉大さを見せしめる予定だった。

けれども、それは呆気なく玉砕する。


何処とない心菜の威圧感。

否応を言わせない存在感は何処か、言葉を失った。







手元には完璧な点字の資料類。


ただ一つ疑問が浮かぶ。

声音は心菜そのものだから、替え玉等、疑ってはいないが。

ただあの敵意剥き出しにしていた狂犬が、大人しくなったのは矛盾が生じた。

顔色が見えないからこそ余計に。研ぎ澄まされた聴覚で彼女を伺うしかない。



彼女は、介助者として誠心誠意、尽くしている。

穏やかでまるで12年前のあの頃みたいに。

決して読めはしない変わらない声音や態度。


影武者として務めを果たしている訳は申し分はない。

が霧の向こう側にある、その表情が知りたい。





______週刊誌の編集室。



(理香は、何処に行ったのだ)


パソコンの前で物憂げな表情を浮かばせながら

健吾はそう思った。理香が居なくなったと聞いてから

何処となく上の空のまま、娘の身を案じている自分自身がいた。


だが、

理香の突然の失踪は偶然ではないだろうと思っている。

理香の身を危うくする人物ならば、真っ先にあの女の顔が浮かんだ。

気になるのは、最近は突然変異の出来事が続いていた。



椎野理香の失踪、JYUERU MORIMOTOの復活。

加えて疑問なのが、JYUERU MORIMOTOの営業成績が良好な事だろう。


行方知れずの理香、揺らぐ繭子の影。

現実は、一体どうなっているのだろうか。







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