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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第224話・受け入れ難い現実


「繭子………」



「………繭子………」



耳障りな声が、自分自身の名前を呼ぶ。

その度に首が締め付けられそうな感覚に襲われてはもがき苦しむ。


(あんたは、消したのに______)






瞳を開けた。

霧のぼやけた世界は、天井を見詰めている。

しかし繭子を違和感を感じて何度も何度も瞬きを繰り返す。

何故ならば、視界に広がる霧が晴れないからであった。


(………なんで?)



「森本さん?」

「………」


淡い輪郭だけが見える。甲高い女の声。

しかしその人物像すら分からない。この看護士がどんな姿なのかも。


「目が覚めたんですね。先生を呼んできます」

「…………あの、」

「はい」

「ここはスモークでも焚いているの?」

「…………え………」



あの時、理香と健吾を見付けて睨んだ。

何故、一緒にいるのだ。この華々しい再生の舞台に憎きお前達が。

その瞬間だった。耳障りなビリビリとした音が聞こえて

轟音と共に何かが此方へ迫っていく圧力。次の瞬間には硝子が割れた音。

重くて身動きが取れず、そのまま意識が遠退いていく事だけを覚えていた。



医師は切迫感のある表情で飛んできた。

そして精密検査を一通り受ける様に様々な検査を受けて、

(ようや)く繭子は、病室に戻されベッドに横たわる。




「森本さん。落ち着いて聞いて下さい」



主治医は、神妙な面持ちと声音で、呟く。

「緑内障を貴女は患っています。治療もなく放って置かれたので緑内障は進んでおります。____悪化の傾向として。


そして今回の事故で、視神経に影響が。後遺障害9級、

両目の資料が0.6以下です。また今の森本さんの視力は

両目共に0.1に相当致します」

「…………そんな………」


繭子は、声を震わせた。

まさか照明の落下により視力を失いつつあるなんて。


「そして。緑内障もかなり悪化しています。

このままだと失明を余儀無くされるかと」

「__________っ」


(………嘘よ、嘘よ!!)


これからはまた華々しい女社長としてのレールを歩くのだ。

また華々しい名誉を惜しみ無く欲望の壺に注いでいく。

それなのに待っている、突き付けられた現実に繭子は、激しく拒絶した。

障害がある以上、女社長としての威厳もこれまで通りのものでは行かなくなってしまう。

ばん、と派手に机を叩き、繭子は主治医に迫った。


「先生、お金なら幾らでも払いますわ。

だから目を元通りに戻して下さい。お願いします!!」


これからまた始まるのだ。再生の華々しい舞台が。

その為ならば資金を(はた)くくらいの覚悟は持っている。

早く治し復帰しなければ。_____JYUERU MORIMOTOの

華々しい女社長として。


必死の形相の繭子に、医師は厳しい面持ちで言い

そして静かに首を横に振った。


「…………難しいでしょう。

緑内障は視神経の病ですし、今回の事故で視神経がダメージを。

視神経の再生、回復する事は0と言えるでしょう。

森本さん。緑内障が進んでいますので、いずれは……覚悟をしておいて下さい」


それは、“失明”を意味する。

その刹那。絶望の奈落に突き落とされた気分だった。

糸が途切れたマリオネットの様に、繭子は椅子から

転げ落ち、そしてだんだん、と床を叩く。


「そんなの嫌よ。

あたしの華々しい道はこれから始まるの!!

なのに。なんであたしだけがこんな目に遇わないといけないの!!

不平等よ…………なんで、あたしだけこんな目に………!!」


ベッドの上で泣き叫び、地団駄を踏み暴れ回る。

それを制止しようとする看護士の頬を力いっぱいに殴り、突き飛ばした。


「全部、嘘よ!!嘘に決まってる!!

この藪医者。このあたしにこんな酷い嘘を吐くなんて!!

緑内障ですって? あたしは昔から健康体よ。自慢なの。

そんなものはないわ。認めない。訴えてやる!!

虚偽の説明をしたって!! あたしが誰か知っているでしょ!

あのJYUERU MORIMOTO女社長、森本繭子よ!!」


目は見開かれ、血走っている。

その眉間の皺た表情筋に縦横無尽に走りめり込んだ皺も相まって、その姿は悪魔の様だ。



まさかこんな地獄か待っていようとは。

自分自身が緑内障になっていた事は繭子自体、初耳だった。

目が霞む事が増えた、と思っていたくらいで

まさか自身が病に蝕まれている等、何とも思っていなかったのだ。

自分自身が不死身の健康体である事は、若い頃からの自慢だったのだから。


「安定剤と、沈静剤を投与しておく様に」

「……分かりました」


医師は静かに言うと、その場を後ろ髪を引かれる思いで去った。





(……………これも、あんたのせい?)



佳代子。

お前が、あたしから、視力を奪ったのか。


それとも心菜。お前か。

何度も容赦無く実母を奈落に突き落とし続けたお前が仕組んだのか。




憎い、憎い、憎い、憎い______。


佳代子も、心菜も。

あの二人のせいで何時までも縛られ、容赦無く、繭子の高い自尊心を傷付ける。

繭子は暴れながら泣き叫び続ける。



(許さない。高貴なあたしをこんな目に、姿にさせるなんて______)



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