第217話・情報提供者、共謀者
______数日前。
「この人は、森本佳代子、
君の叔母さんの不審死に関わっていた担当刑事の方だ。
まだ不審死、不慮の事故死と片付けられた事を疑問と感心に抱いている」
その人から、
森本佳代子の関しての記事を書いて欲しい、
そう頼まれているという話を知ったのは、三条富男と会う直前に教えられた事だ。
「私に出来る事があれば、出来る限りご協力していきます」
父親の隣に座った娘は、そう呟いた。
(容姿から、何処までも似ている娘だな)
三条富男は固まったまま、動かなかったが
しかし事情を事細かく説明し、飲み込んで貰う事が出来た。
富男は驚愕、驚きと言わんばかりの表情を浮かべているが、
なんとなく森本佳代子の容姿を通じて理解し、飲み込む事が出来た。
「事情は分かりました」
此処で白石健吾が、口を開く。
「あの。連日の森本繭子のスキャンダルは、三条さんはご存知でしょうか」
「ええ。知っております」
隠された女社長の裏の顔。
その姿に驚愕すると共に、やや過激な批判の内容。
その言葉には一つ一つ説得力と現実味があるのが、印象的だった。
週刊紙に載っている森本繭子は、
“ジュエリー界の女王”という名声と名誉を手に入れた女社長の姿とは到底思えない。
まるでその女社長の生き様は、明確ながら
小説の様に物語を語る様に書かれているのも印象的だ。
今更、という感想と、気になるミステリアスな女社長の偽りだらけの生き様。
それらは、読み手の心を掴み、続きを知りたいという感情を駆らせる。
それだけ、現実味があり説得力のある文章力なのだ。
「あれはリーク者の情報提供とライターの文章力に虜になりましたね。
まさかあの女社長が偽りだらけの人だったとは。
読み手側に惹かれてしまう記事だと思います。
つい、続きを知りたい、追いたい、と思ってしまいました」
(…………そう思われているのなら、本望だわ)
三条富男の意見を聞いて、理香は内心、そう思った。
目の前にいる元刑事は世間の読み手からの声だろう。
ライターである健吾の文章力に感謝する共に、森本繭子はそう思われているのだと悟る。
「申し訳ございません。
つい刑事の感覚で、話してしまう癖がありまして」
「いえ、ご感想が聞けて良かったです」
其処まで話を終えて、富男は勘付いた。
何かが可笑しいと。
健吾の隣に座り目の前の女性が、
白石健吾の娘であり、森本佳代子の姪という事であれば。
もう一人の人物とも関係があるのではないのか。
確か森本佳代子には、7歳離れた妹が居た筈だ。
その名前は覚えている。森本繭子。
実は、JYUERU MORIMOTOの森本創業者・女社長が、
彼女の妹と同姓同名事を、三条富男は見逃す筈はなかった。
なのでアポイントを取ろうとJYUERU MORIMOTOにも訪れた事がある。
しかし。
「申し訳ございません。社長は、今日は外出しておりまして」
「社長からご承諾頂かないとお会いお会い出来る事は出来ないお約束でして……申し訳ございません」
森本佳代子の不慮の事故死を担当した刑事だと
身分を明かした後に「御姉様の事に関してご相談がある」と告げた。
何度かJYUERU MORIMOTOへ足を運んだが、
毎回、受付嬢から門前払い同様の対応を受けては返されるばかり。
そして何度か足を運んだ後に、受付嬢から手紙を受け取った。
“姉の事故死は痛ましい事であり、
何年経っても胸が締め付けられてしまいます。
姉に関する事柄については私から申し上げる事は辛くもあり出来ません。
そっとして頂くと幸いです。お願い致します。
森本繭子”
彼女は遺族だ。
姉を失った悲しみとデリケートな感傷もあるだろうに。
土足で領域に踏み込んでしまったと、デリカシーに欠けた行動に詫びた行動を詫びた手紙を出したのを最後に
富男は繭子との接触を避けた。
森本佳代子を、彼女は叔母と呼んだ。
ならば、すなわち彼女の母親は………。
「貴女のお母様は、
あのJYUERU MORIMOTOの女社長、
そして森本佳代子の妹にあたる森本繭子さん、という事ですか」
神妙な面持ちで富男から、その質問を受けてから、
理香は微妙な複雑化した表情を浮かべて
少し物憂げな表情を浮かべて視線を落とす。
その影を落としたシリアスかつ、
神秘的なミステリアスな瞳が面持ちが、感情を焦らす。
森本繭子の密接者でなければ、あの現実味のある物語は描けない。
週刊紙では、母親からの酷い虐待の末に自殺した悲劇の一人娘。
それを信じるならば、彼女はこの世には存在しない。
下ろされた長い髪が、
主の複雑化した心境を表すかの様に揺らめいている。
しかし次の瞬間、凛とした面持ちではっきりと告げた。
「____はい。そうです。
私は、森本繭子の一人娘です。
そして一連の森本繭子の情報は全て私が、
父に、白石さんにリークしたものです」
______“彼女は、我々の力となってくれる女性です”。
幻だろうか。白石健吾が、口角を上げて微笑んだ気がした。
白石健吾が発したこの言葉の意味とは、何であろうか。
一見、か弱い物静かな女性に伺える
森本佳代子に瓜二つな彼女は、何故彗星の如く現れたのか疑問が解けた。
富男は、唖然する。
しかしながら同時に納得してしまう。
身近にいて森本繭子、母親を見て、仕打ちを受けてきたからこそ
あの週刊紙に暴かれた内容は、読者の心を掴んで離さないのだと。
『私に出来る事があれば、出来る限りご協力していきます』
その言葉に秘められた言葉の意味。
自殺筈の森本繭子の一人娘は、生きて、目の前にいた。




