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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第213話・違えていく誤解

タイトル「たがえていく」です。


車は、優雅に高速道路を走行している。

約束通りに芳久はあの別荘にいる健吾を乗せて、都心部へ戻りつつあった。



『元はと言えば、あんたのせいよ。

あんたが、あんな失敗作を置いて行ったから……。

あんたの血を引いてなければ、あたしの娘は、佳代子に似ずに済んだの!!』



『佳代子ばかり、周りの注目を奪うから。

ちやほやされて幸せそうな顔を見る度に、あたしは、惨めだった。

周りからはちやほやされているのに、何故か佳代子は周りの視線にへこへこするだけで何処か嬉しそうじゃなかった。


佳代子ばかり見られて、

あたしは置いてきぼり。佳代子が跳躍する程に、あたしは侮辱感に晒されたわ。


だから佳代子が亡くなった時、清々したわ。

これでアイツに行く筈だった権利や財産は、全てあたしのもの。


けれどそんなの、どうでも良かったわ。

あの憎い女が消えただけで清々したわ、もう苦しめられなくていいと思った』


『心菜は顔立ちを見た時、ぞっとした。

だって佳代子がいるんだもの。最初は、成長して顔も容姿も変わっていくって信じてた。


でも違ったの。

恐ろしい程に、心菜は佳代子に似ていくのよ。

容姿だけじゃなくて性格まで生き写し。気持ち悪いじゃない………』


『心菜が成長する度に、

佳代子に抱いていた憎しみが蘇ったの。

佳代子に似ていく心菜を、正常な神経で見れると思うかしら?

……………そんなの出来ない。あたしの心が潰れそう。



あの頃はあたしが妹だったから何も出来なかったけれど……。

娘なら母親には逆らえないでしょ? だから、佳代子に

抱いて憎しみを心菜で晴らしていたのよ………!!』


それが、自分自身の娘を虐め抜いていた理由。

繭子の逆恨み。姉への妬み、嫉妬。繭子の一方通行

の憎しみにより、心菜は純粋無垢な心を壊された。


(たったそれだけの理由で、

その身勝手な感情で、奴は一人娘を虐め続けた)


一人娘は、佳代子____姉に瓜二つだったから。



子供は大人の事情等、知り得ない。




純粋無垢な心菜にとって、

母親しか知らない身勝手な大人の事情が絡みながら生活していた。

それは言葉に出来ない恐怖に晒され怯えながら、生きていた事だろう。


(母親しか頼れない世界で、母親に冷遇され、

愛情の一滴もなく母親が抱く憎悪の感情のまま

虐められる箱庭は、娘にとって恐怖心しかなかっただろう)


娘が虐められ怯えながら生きている

それを知らないまま、繭子を何処かで恨んだまま、自由に生きていた。

自分自身に対してやりきれない悔しい感情に晒された。


要は、

佳代子への積年の恨み、憎しみを、娘で晴らしていた。

佳代子に瓜二つの容姿と性格を伏せ持ち合わせた心菜という娘は、母親の忘れていた憎悪を目覚めさせる事等、簡単だった。


心菜には、何の罪もない。

ただ生を受けた、命だった。



(無理強いだとしても

あの時、繭子を引き留めておけば、娘を見守っていれば………)


その後悔だけが拭えない。

繭子と家庭を築いていれば、娘は守れた。

その成長していく愛らしい娘の姿を見守れた筈だっただろう。

もしも、自分自身が傍に居れば、娘の心は壊れずに済んだのではないか。


(繭子、母親から守れていたら)


その娘への後悔と、悲しみが交錯する。

あの時に繭子の話を鵜呑みにせず、結婚していれば。

そう何度も思っても、過ぎ去った過去はどんなに懇願しても戻らない。



(俺は、最低な奴だ………娘を見捨てて)






『浮かない顔ですね』



傷心に浸り、自分自身を責め続けている健吾は、

その一言で現実を引き戻された。



車内用ルームミラーからは、

とある記者が浮かない表情のままの、車窓を見詰めている。

それは未亡人如く、浮かない、そして何処か悲しげな表情をしている。

その端正整った紳士的な顔立ちは、悲壮感を漂うダンディーな映画俳優の様だった。


「夜というものは、

無自覚にも人の心を感傷的にさせる、そう聞いた事があります」


車は、優雅に高速道路を走行している。

約束通りに芳久はあの別荘にいる健吾を乗せて、都心部へ戻りつつあった。

時折にして、備え付けのルームミラーは後頭部座席のある記者の様子を偽りなく写している。


椎野理香が、自分自身の血を分けた一人娘という事実

そしてあの別荘での出来事から、繭子と何かしらの

会話をし、何かを知ってしまったのかも知れない。


「理香が心配でしょう?」

「……………」

「……理香に会いに行きませんか?」


青年は沈黙の表情をしている。

憐れみ軽蔑する訳でもなく、笑う訳でもなく。

健吾は感傷を抱きながら、頬杖を着き窓からの景色を見詰めている。


「私には合わせる顔がない。その資格すらないんだ。

あの子には父親らしい事の一つもしていないんだから………」

「……………白石さん」


一呼吸を置いて、芳久は話を始めた。


「これは、僕の独り言かも知れません。

なので軽く聞き流して下さい。



僕は、父から父親らしい事も、愛情を貰った事もありません。

父がどんな人物像かは伝えられますが、父から貰ったものは何もないんです。

父は僕に対して酷く無関心でした。


正直、父に対して知らないばかりです。

僕に対して父親らしい事をして貰ったかと言われれば、ノーになります」


健吾は、静かに聞いたままだ。

青年の語り部は、凛と優しい声音で話を続けた。


「愛情の裏返しは無関心。本当の無関心ならば、

その人の事なんて興味もなく浮かばない筈です。

ですが白石さんは違った。体を張って、娘様を救おうとした。

本気で娘様を心配していた。……あれが、嘘だなんて言わせないで下さい。

僕の目には、貴方が娘を思う父親にしか見えませんでした。


僕は、貴方は父親らしい事をしていないなんて微塵も思っていません」


(初めて人間らしい、親らしい、まともな人を見た)


あれが父親の姿。

子供に抱く純粋無垢な親心は、偽りのないものだった。

その迫力に圧巻されていた事は内緒にしておこう。



その表情は見えない。

髪に隠された横顔と姿は、濃紺空が、青年の輪郭を映すだけだ。

ミステリアスな雰囲気を佇ませながらも、その青年の言葉は確かに心に残響したままだった。






処置室を覗くと、

紙をぼんやりと見詰めたままの彼女が居た。

彼女が複雑化した眼差しで見詰めている紙は、きっとDNA鑑定書だろう。


そのままゆっくりと近付くと、理香は青年の方に視線を向けた。

青年は相変わらず悟りを開いた表情で、此方を見下ろしている。






「あの人は………」

「………?」

「白石さんは………?」


何処か憔悴仕切った表現で、理香は尋ねた。

芳久は一瞬、言葉に迷ってしまったが、

はぐらかすかの如く柔く微笑み、呟いた。


「………大丈夫だよ」






(理香………心菜、君を置き去りにして申し訳ない)


処置室から離れた場所から、健吾は娘の様子を見詰めていた。

その心には懺悔の感情を佇ませたまま。





【ご挨拶】


このお話が、年内最後の更新になると思います。2019年、拙い物語ですがお読み下さった読者の皆様、

感謝を申し上げます。誠にありがとうございました。


とても長い愛憎劇となってしまっていますが、

来年は完結を目指し、努力を惜しまず精進して

参りたいと思います。


2020年もこの物語をよろしくお願い頂ければ、幸いです。



では、皆様、良いお年を。



改めまして、ありがとうございました。



2019.12.27 天崎 栞

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