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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第207話・天使と血を分けた者





_______森本家、別荘。



敵に打ちしがれた悪魔の様に、繭子は俯いている。

その欲望に溺れている女を冷めた眼差しで、見下ろすのは健吾だ。






「どういう事…………」



怒りにわなわなと震えながら、繭子は歯軋りをしている。

27年前、健吾と順一郎という二人の男性と二股交際をかけ、

どちらの遺伝子がより優秀で自分自身の子供に相応しいか

選んで見据え、最終的に繭子は子供の父親を順一郎を選んだ。


子供だけが欲しい。

父親は要らない。自分自身だけの操り人形となる子供を望んでいた。


代々続く資産家で地主、小野家には優秀者も沢山居る。

順太郎はその小野家の一人息子の御曹司。



対して健吾は、

幼き頃に両親を亡くした孤児(みなしご)で、慎ましやかに生きて

自分自身の人生を、自身の実力で人生の基盤の地を固めている。

慎ましやかな悲壮感の色を隠しながらも、優しい青年だった。


慈愛に満ちていた人物と言えただろう。

寡黙だが沈黙の優しさを兼ね備えた青年は、かなりの実力を秘め

繭子には持ち合わせていないものを持っていて、彼を秘書としてスカウトを受けるのに時間は掛からなかった。


しかし秘書として多彩な才能を有していると言っても

どれだけ優秀だとしても、凡人。



結局、繭子は、小野家の家柄に惹かれたに過ぎない。

全てが全て選び抜いて、繭子は子を宿したつもりだった。



「嘘よ。心菜は、順一郎の子供よ!!

沢山、計算したの。容易く妊娠した訳じゃない。

なのに心菜は貴方の子供ですって!? そんなの認めないわ。


このDNA鑑定は嘘よ。あんたが勝手に作ったんでしょ?

心菜は順一郎の娘よ!! あたしの計算が間違っている筈がない!!」


怒り狂った様に繭子は、健吾を激しく罵倒した。

感情剥き出しにしたその鬼の形相と、品のない

口汚い言葉と台詞は子供過ぎて呆れ果ててしまう。


健吾は、悟りを開いた。



(やっぱり浮気されていて、繭子は二股していたのか)


繭子は、

理香の父親は、二股していた相手の娘だと思い込んでいたらしい。

自分自身が父親だなんて思いもよらずに。



否。自分自身のやり方を過信して、

自分自身ではない相手の娘だと信じて疑わなかった。

だから自信過剰な自分自身が失敗してしまったのは、相当な打撃の筈だ。


呆れた表情を浮かべながら、健吾は熱のない口調で告げた。


「お前の性格なら

絶対に自分自身の失敗は認めたくないだろう。


俺はDNA関係の仕事をしている訳ではないから、裏から操作等出来ない。

その結果は嘘偽りのない本物の結果だ。


………椎野理香、あの子は、俺の娘だ」


まるで悪魔を断罪するかの様に、健吾は宣告した。

繭子は紙をくしゃ、と握り締めながら、此方を恨めしく睨み付けている。

加えてその宣告を重ねる様に、健吾は告げた。



「俺ね、お前が浮気していた事は、知っていたよ」




当時、付き合っていた頃、

健吾は薄々、繭子の後ろにある男性の影を感じ取っていた。

髪に付いた微かな煙草の匂いや、時々、繭子は派手な服装。

健吾は煙草を吸わない。それに自分自身と会う際は

なるべく清楚な服装なのに時々、辻褄が合わない。

あの頃は素直に彼女を好いて愛していたし、


単に自分自身に魅力がないから、と諦観していた面もある。

だから自分自身に実力が付ければ、と思っていた。


凛としている健吾とは正反対に、

繭子はわなわなと震えながら、再び、深く塞ぎ込み、

DNA鑑定書の結果の紙を破くのではないのかときつく握り締め、

睨み据えてから、子供の様に泣き出した。



「だから……。

あんたの子だから、あんな、失敗作が産まれたのね………。

あんたの娘だから。佳代子に似た、憎たらしい娘が………」

「あんたの娘は、あたしを苦しめた…………」



悲劇のヒロインを気取りながら、繭子の声は震えている。

容姿が引き金となって今まで佳代子に似ているとばかり思い込んでいた。

けれども思い返せば、心菜が健吾の娘である節々は覗かせていた。


何でも器用にこなす性格に加えて、先天的な天才肌の才能。

人々が(おのの)くその才能を持ち合わせながらも決して

天狗にはならず鼻にかけない謙遜した控え目な姿勢と態度。



あの頃、何でも仕事をこなし、

自分自身を追い越しそうだと嫉妬心を覚えた健吾にそっくりだ。

佳代子の性格と健吾の性格に似ている影響もあるが、

異父姉の見た目した心菜は、佳代子に似ていない節があった。

けれどもそれら矛盾は、若きの日の健吾の性格と重ねれば、納得出来る。


(お願いよ。誰か、嘘と言って頂戴)



悔やまれてならない。

まさか心菜は順一郎とは他人で、

健吾の血を引いた娘だったなんて。


(あたしの計算は失敗だったの?

認めたくない、認めたくない、心菜がコイツの娘だったなんて!!)


(心菜はあたしを苦め続けた。

健吾が心菜の父親というのなら、コイツが全て仕組んだ……)


被害妄想が走る。

憎たらしい娘の根源は、

(かつ)て、品定めし捨てた男だったとは。

そして何よりも自分自身の失敗を、繭子は認めたくはない。



だが何故、健吾が娘の存在を知るに至ったのか。



「…………なんで、あんたは、あたしの娘を知っているの?

“あの日”以来、疎遠だった筈よ。子供も娘か息子か分からないでしょ? なのに、なのに……」



わなわなと震える繭子を他所に、


健吾は胸ポケットから

名刺入れを取り出し、名刺を一つ取ると繭子の前に投げた。

飛び付く様に受け取った名刺には有名出版社の社名と、

“ライター・白石健吾”の名前が刻まれていた。


「あの日、お前に騙されて全てを悟って、絶望したよ。

人生を立て直す事を図るのにも大変な時間を要した。

今は、週刊誌のライターだ」


嫌な予感が、繭子の背筋に迸った。


(………まさか)


「数ヶ月前だったかな。

ある女性から、JYERU MORIMOTOの会社の不正と

女社長自身の不正を重ねているとの情報提供があった。


最初は興味本位。

けれどもな。お前の不正を知る度に、

文字に書き起こす度に俺は精々していたよ。


お前に騙されて捨てられた復讐が、出来るってな。

情報提供をしてくれた女性もお前の不正が記事が

乗る度に嬉しそうだった」


「その、女性って………」


繭子の声が震える。

まさか、という感情が寒気をそそる。


白石健吾に自分自身のひた隠していた情報を売ったのは。

自分自身がこんな屈辱的な目に遇う様に仕向けたのは。

子犬の様に震える繭子に、健吾は微笑した。


(なんか、実物の方が、もっとも清々しいや)


人の不幸は蜜の味。

それが長年に渡り憎しみを抱いていた女となれば、至上のものだ。

復讐を望んでいた怯えた女の表情は、至福の味だ。


「もう言わなくても分かる筈だ。

_________でも、敢えて言ってやろうか」



「俺に復讐の機会をくれたのは、椎野理香。

いや、森本心菜か。あんたが別の男の娘だと思い込んでいた、俺の娘だよ」



その嘲笑に背筋が凍り、繭子は声に成らぬ悲鳴を上げた。


(父親と娘が共謀して自分自身を貶めていたなんて)


「でも、娘まで分からなかったでしょ!? なんで………」

「お前は詰めが甘い。_______まだ解らないか」




「理香の右手薬指に着けているシルバーリング、

あれは俺が贈ったものだろう? その時、言った台詞を忘れたか?」


悪魔を嘲笑う記者。


『________君にプロポーズ出来ないならば、

この指輪を、生まれてくる子に上げてほしい』



「…………………」


繭子は、絶句した。

そう言われて見れば、理香の右手薬指には指輪が填められていた。

まさかあれが別れ際、健吾が託していたものだったとは。

捨てた男から贈られたものなんてどうでも良かった。

だから、娘には棄てて置くように命令した筈だ。



「それで確信した。あの子は、自分自身の血を分けた娘だとね」


絶望視した瞳。この世の終わりの様な、喪失した表情。



「………何かの間違いよ。お願い、間違いと言って……」


繭子の表情は、

顔面蒼白となりどんどん血の気が引いていく。

そんな様子を見せる悪魔に、健吾は、

清々しい気持ちと共に、悪魔を嘲笑っていた。






ようやく断言出来ます。

理香(心菜) は、健吾と繭子の実娘です。

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