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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
210/264

第206話・悪魔と天使が知らなかったもの

【注意・警告】


・かなり残酷で過激な描写がございます。

(ナイフ、殺める等)


苦手な方は、

ブラウザバックを推奨致します。

申し訳ございません。






繭子が追突した衝撃で、理香は突き飛ばされた。

刹那。繭子は理香に馬乗りの状態で、ナイフを向けている。


鬼の、般若にも勝る形相に、血走っている瞳。


こんな緊迫した現実にも関わらず、理香は無表情だ。

それどころか理香の心情はみるみると冷めて生き、

寧ろ落ち着きを払ったまま、無情と化した。


(感情を剥き出しにする姿は、何故こんなに見苦しいの?)


(本能のままに生き物の(ことわり)

生きている筈なのに。どうしてこんなに、無様に映るの?)


理香は内心、繭子を軽蔑の眼差しでしか見えない。



それは余計に、

悪魔だから、母親だから、思ってしまうのかも知れない。

自分自身を叔母の姿を重ねて、娘として扱えない女。

物理的に血縁の繋がりはあっても、精神的に母親になれなかった女。



「どうしたの? _______殺らないの?」



落ち着きを払う、熱のない声音。

そんな悲鳴さえ上げない、余裕綽々の態度が、

繭子の(はらわた)にある憎悪を増殖させて勝させる。



「私が憎いんでしょう? 佳代子叔母さんが憎いんでしょう?


貴女に殺められるのは、少し癪に障るけれど。

これで以上、森本の血を束縛を終わらせられるわ。

結局、この悲劇を終わらせられるのは、私達だけ。


誰も巻き込まないまま、

私達でこの悲劇を終わらせましょうよ、_____ね?」


理香の凜とした姿勢は、酷い程に佳代子に似ていた。

その顔立ちも凛然とした姿勢も。

まるで佳代子を見ている様だった。



「______最初から(わたし)を、殺めるつもりだったんでしょう?」


「…………え」



腹が立つ感情を抑えきれず、



「なんで佳代子に似ているの?

何処まで佳代子に似たの? 最後の最後まで何処まであたしを苦しめるつもり?」


悪魔の怒号に、もう理香の感情は動かない。

それはどう足掻いたって理香の自尊心や感情は、

この悪魔に殺されたのだから。


殺められるのを、覚悟していたところで、





「_____待つんだ」


低い凛とした声。

それは記憶の何処かで聞いた事の覚えがある声だった。

理香と繭子が同時に声の主の方向へ視線を向ける。

そして、愕然とした。


其処に立っていた人物に驚きを隠せない。

何故ならば。


「………芳久?」


其処には、

白石健吾と高城芳久が立っていたのだから。

何故、二人が揃って此処にいるのだろうか。


「………誰」


繭子は険しい面持ちで呆然としていたのだが、

健吾は動じず、冷めた眼差しで繭子へ冷ややかな視線を送る。


「会うのは、27年ぶりか。………また再会するなんて思ってもいなかったな」

「………………健吾?」


険しい面持ちの中で、繭子はぽつりと呟いた。

理香は状況が読めないまま、呆然として、繭子と健吾を見ている。

繭子は呆然として健吾を見詰めながら、娘に馬乗りになっていた姿勢を起こした。


「なんで、あんたが……」

「お前に振り回されて散々だったよ。

滅茶苦茶になった人生を立て直すのにも時間がかかった」


その刹那、呆気に取られた繭子を他所に

健吾は繭子の手からナイフを取り上げ、ドア側に立っている青年に呟いた。


「高城君。理香を」

「はい」


此方へ歩み寄ってきた、

芳久は凛然とした紳士的な振る舞いを見せて、

理香の前へと来ると(しゃがん)んで、


「_____久しぶり。もう大丈夫だよ。野蛮だけどごめんね」

「…………………」


紳士的な微笑みを浮かべて、

理香の血に染まった首元にハンカチを押し当てて止血する。

そのまま芳久は、理香を庇う様に自らの背中に引き込んだ。


「………ねえ」

「黙って」


(ようや)く呟いた言葉だったが、

ドスの聞いた言葉に、理香は何も言えなくなった。


「大体、何の権利があって、うちの娘の所へ来たの。

他人であるあんたがなんで、心菜に接触しているのよ!!」


健吾は冷静沈着なままだ。

理香は状況が飲み込めないまま、呆然としている。


(この会話………もしかして知り合い?)


健吾は繭子を知っている素振りだった。

繭子も険しい顔付きながらも、健吾を知っている様だ。

しかし二人の関係性を全く解らないままだ。


「お前は変わらないな。昔から」

「他人のあんたには関係ないわ!!

良いから大人しくあたしに娘を渡しなさい………!!」


鬼の形相で叫ぶ繭子に、健吾はふっと嘲笑った。


「お前にそう言われる権利はない。

本当に何も知らないんだな」



そう言いながら、健吾は身を乗り出した。







「父親が、実の娘を助けて何が悪いんだろう?」



その瞬間に、ピリピリとした空間に稲妻が走った。

繭子は空いた口が塞がらないまま、きつく健吾を睨み付ける。

何を戯言を言っているのだろう、この男は。


(………私の、父親?)


その言葉が意味する事はつまりは、理香の実父は。

その意味を悟った瞬間に理香は言葉を失い、腰が抜けた。

繭子も怪訝な面持ちのまま呆然としていたが、

健吾は否定出来ない切り札を差し出した。


「これを見ても、同じ事が言えるのか」


健吾が差し出したのは、DNA鑑定書。

それは、前に密かに調べていた理香と自分自身のものだった。

はらりと差し出された紙を健吾から奪うと、

繭子は(うずくま)りその結果を見詰める。



“DNA鑑定の結果を申し上げます”


【対象者】


白石 健吾(57)

椎野 理香(26)



血液型:A型(RH+)

親子関係確率:99%以上



以上の結果により

白石健吾、椎野理香の父娘関係肯定(成立)とする”。


愕然とした。

繭子は計算高く、全てが計算付くで生きてきた女だ。

娘の父親も厳重に選び抜き、娘を産みと落とした筈だった。


繭子は、

心菜の父親は、順一郎だとばかり思い込んでいた。

なのに目の前の結果は繭子の思い込みを切り裂き、

現実を示していた。


(_________心菜は、健吾の子供?)





「嘘よ。嘘………だって計算付くだったのよ。

間違えてないわ。心菜の父親は、あの人じゃないの。

あんたじゃない。あんたじゃない筈よ………」


「やっぱり二股していたんだな。でもこれが現実だ」


凛然として告げる健吾に、

DNA鑑定書の紙を握り締め、腕を震わす繭子。

驚いていたのは繭子だけではない。最も驚きを隠せないで居たのは、理香だった。



(だから、私に協力してくれたの?)


悪魔を貶める為の、

自己満足と例えられても仕方ない実母の復讐を。



『__僕も、貴女と一緒です。

あの女社長には、良い感情なんてないですから』


脳裏に浮かぶのは、(かつ)て、白石健吾が発した言葉。



白石健吾は、森本繭子の恋人だった人間であり犠牲者。

白石健吾は、自分自身の、実父。



突きつけた現実を、

思考回路は大人しく飲み込んでいるのに感情が追い付かない。

今まで実母の情報をリークしていたのが、実父だったなんて。


(だから、あれだけ酷く、書けたのね………)


項垂れながら、理香は俯く。

視線を落としたまま動かぬ娘に、健吾は静かに呟いた。


「………高城君、理香を頼んだよ」

「解りました。………行こう」


健吾の決意を飲み込んで、芳久は静かに呟く。

呆然自失として動かぬ理香を、芳久は颯爽と抱き抱え上げた。

心なしか心身共に窶れた彼女の身体は軽く感じた。


顔を上げた時、不意に健吾と目が合う。

実父の表情は柔らかい。そう思った。


(待って)


けれども理香は言葉を発せられないまま、

芳久に抱えられて別荘から離脱した。




このお話を読まれて、

ご不快や主人公の心理的な描写に誤解を感じられた方へ

重ねてお詫び申し上げます。作者の力不足です。

申し訳ございません。




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