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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第11章・復讐者が悟るもの
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第205話・感情の理(ことわり)のままに

最後の台詞、過激な表現が有。


貴女は、いつもそうだった。


人間という獣の感情を、(さが)を剥き出しにして

生きる貴女は、人間の道理に素直に生きている。

反対に感情を、性を、剥き出しにして生きている悪魔にはなりたくない。


そんな、二つの感情が交差した。


自分自身の感情を押し殺さず生きる様は、

獣の道理に従っていて、これが生き物の道理だと思った。

だが反面。人間の本能を剥き出しに生きている様は、見苦しい、と感じてしまった。


(こうにはなりたくない)


蛙の子は、蛙。


『母親が感情的だから、娘もそうなのだ』


絶対にそうは思われたくない。


この女の様に獣の本能や、

感情を剥き出しにして生きているこの女の様には。

否。なりたくない、認めなくなかったのだろう。

そうやって自分自身にはブレーキをかけて、

悪魔を見て接するにつれ、


悪魔の傍に居た、

天使が失ったのは、感情と自尊心。


けれども、

それらを失ってからも疑問に思うのは、その獣の性の道理。

人間の本能、自分自身の感情を包み隠さず、剥き出しにするもの。

その人にしか描けない生き様。


けれども目の前にいる悪魔という女は、

子供から大人になれなかった人間。ただ道理を無視して

自分自身の本能や感情を剥き出しにした非常識人。

それが如実に言動や行動に現れている。


そんな繭子の姿を見て、

自然と見苦しい、と思ってしまった。

そして思ってしまったのだ。本能を、獣の性を表すのは幼稚だと。

獣の性、本能のままに生き理性を壊して生きている繭子と、

冷静な理性を持ち合わせながらも、自尊心や感情が欠落させられた理香。


大人になれなかった悪魔。

それに合わせて、大人になっていて生きていた天使。

その代償は自尊心と感情を奪われる事、だ。




悪魔からわれた代償に、天使は気付いていない。



ゲスの本能を、無様に晒している事を繭子は知らない。


品もなく大人の自覚もなく

ただ手に入れられなかったものを、

子供が駄々を捏ねる様に繭子は、その技で自分自身の思惑を通そうとしている。


(子供っぽい、そんな中にもまだ思惑がある)


(貴女には呆れてしまうわ)


理香は心の中で、繭子にそう呟いた。

冷静沈着な理性と感情を失わず、故に軽蔑の眼差しを冷ややかに送りながら、

理香は人間観察する如く、悪魔を見詰め見下ろしている。


(駄々を捏ねるのは、子供だけで十分よ。

それに貴女には駄々を捏ねる資格すらないのだから

惨めに暴れて泣き叫んでいればいいわ。


私は、貴女の思い通りにはならないから)




(どこに行ってしまったんだ?)


芳久は壁に持たれかかりながら、

長らく見ていない彼女を脳裏に浮かべた。

エールウェディング課では麗人と呼ばれていた、椎野理香の事だ。






椎野理香が姿を現さない事、それが長期的になってきた事から、

失踪や誘拐、等の噂がちらほらと耳にする様になった。


『唐突に何かあったのかな。でも身寄りがないでしょ?

調べようが無いんだって』

『椎野さん、まさか誘拐されたんじゃ………』

『それとも椎野さん、ただのトンズラ?』


他人は好き勝手に言う。

其処からお喋りに花を咲かせて根も葉もない噂を膨張させる。

理香の仕事は自動的に芳久のものとなり、青年が穴埋めしている。

当然、椎野理香に期待を寄せていた顧客は、非常に残念がっていた。


(確かに誘拐は、事実だけれど)



此処で疑問に思った。

理香は何故、誘拐されるに至ったのか。

繭子より理香の方が強い筈で、柔道の師範並みの

能力を持っている彼女が負ける筈ないのに。


(なんか、腑に落ちないな)


森本繭子は、どうやって娘を誘き寄せたのか。

繭子を憎しみ恨んでいる理香が、のこのこと繭子に付いていくなんて考えられない。


娘を拐う為に、そこで尾嶋博人を利用した。

言葉巧みに尾嶋博人を操り、心菜に(そそのか)すなんて容易い事だ。



だが。

尾嶋博人はどうやって理香を拐う事に成功したのか。

その疑問だけはどうも拭えなくて、腑に落ちない。




「いつまで泣き叫んで暴れ回るつもり?」


けせらせら。

理香は何処までも余裕綽々で冷静沈着だ。



理香はそう言った。

繭子の子供の様に、泣き叫び暴れ回っていたがぴたりと動作が止まる。


「無様ね。そうやって泣き叫んで

暴れ回らないと人に振り向いて貰えないなんて。

そうやって理性を壊して感情を剥き出しにしているのは、何処か大人げない。


人間としても。理性はないの?」


「________煩い!!」



般若の形相で、血走っている瞳の繭子。

その理香の態度が異父姉にしか見えなくなって、発狂するしか出来ない。

何故ならば、佳代子は上の人間だと諦めていた理性が、下の人間である理香を見れば崩れてしまうから。

異父姉の佳代子は駄目でも、娘の心菜なら自分自身の思い通りに操れると思っていた。

だけれど。


心菜は姿を消して、理香となり、

自分自身を窮地に追い込み、最終的に破滅させた。


「全部、あんたのせいよ!!

あんたが、佳代子が居たせいで、あたしの人生は滅茶苦茶になった!!

何処まで壊すの?」


「______壊す?」


その刹那、理香に浮かんだのは、不気味な微笑。

心菜は浮かべた事すらない。だから余計に寒気を誘った。


理香が見せた表情は、何処か狂気的にも伺えた。




「全部、自業自得でしょう?

自分自身が壊す様に貴女自身が仕向けたのに?

いつだって自分自身の敵は自分自身よ。


貴女が野心を抱いて、

欲を張らなければ、何もなかった筈よ。


娘とも知らずに泣いてすがり付いてきたのは誰?

私は距離を置こうとしても、貴女は詰めてきた。特に主に心理的にね」


「あたしだって、必死だった!!

佳代子を消せば、全て上手くいくと思っていたのに。

なのに佳代子を消したら、貴女が現れた。


何処まであたしを苦しめるつもり!?」


佳代子を消して優越感に浸っていた。

佳代子を越えるばかり考えていたが、その術を繭子は持ち合わせていなかったのだ。


だから。

異父姉に与えられるもの全てを奪って壊した事で

異父姉に侮辱を与えられたと、自分自身は誰かを服従させる事で

己の自己欲を満たしていた。間違えたその生き方の術に

繭子は、自分自身は異父姉を越えたと思い込んでいたのだから。



(使えると思ったのに。

こんなあたしに、従わない子なんて要らない)


(ようや)く、憎しみを抱く娘へ付けた見切り。

こんな異父姉に似た憎たらしい使えない娘なんてもう要らない。


膨らんで爆発した憎悪は、

悪魔を暴走させる事なんて、簡単だった。

血走った瞳と憎悪を剥き出しにした表情は、理香が絶句する程で。


理香から奪い取ったナイフを繭子は持つと

そのまま、娘へ遅いかかろうとした。


(終わりだ)




(でもこれで、森本の縛りが消えるならいいわね)



そう理香が、悟った刹那。




「________待つんだ」



冷静沈着な声が、母娘への箱庭の世界に響いた。


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