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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第184話・消えない“あの人“



私の間違いは、貴女に愛を求めたこと。

そして貴女の元に、あの人の仮面を持って生を受けたこと。


ただ、それだけ。







「恩を仇で返すというの………!?

あたしが、どんな屈辱を受けながら佳代子に似ているあんたを育ててきたというの?」


(人の気も知らないで、生意気な娘………腹が立つ)


めらめらと、繭子の(はらわた)が煮え繰り変える。

異父姉の、佳代子の面を被った女を育て上げるという事に、

どれだけの屈辱感に晒されてきた来たか。


どれだけの絶望を感じた事か。

心菜が居た18年、椎野理香として再会した瞬間から始まった時間。


結局に、自分自身は、屈辱を味わせられた。


屈辱を感じながらも、心菜を傍に置いていたのは

自身の言う事を素直に聞いて、自分自身の人生計画の型に填める為。

ただ、それだけだ。


それを果たさなければ、何の意味も価値もない。

ただ佳代子の面を被った、ただ憎悪を誘うだけの無意味な人形だ。


今や理香は、繭子の計画を邪魔をし打ち砕く存在。

邪魔な存在でしかない。


(だから、貴女を消すのよ……)








憎悪と共に、殺意が芽生え始めていた。


『見たいの? “心菜が幸せになる姿”を。

だったら貴女は憎悪に煮え(たぎ)って耐えられないでしょうね。

だから佳代子叔母さんに似ている、心菜 (わたし)を虐め抜いてきたのでしょう?』


当時、佳代子の微笑み、笑顔を見るだけで心が憎悪で染められた。

何もかも自身とは正反対な女。


優雅で、物静かな羽の存在。

存在感等、皆無で目立たないのに、その身体の中身には周りを惹き付ける実力を備えている。


全てを手を入れた女の存在感は邪魔で、憎悪がそそる存在でしかない。



理香の言う通りだ。

佳代子の面を被った女の姿等、見たくもない。

憎悪が溢れて、自分自身は惨めに晒された気持ちになるだろう。

何故、高貴な自身が屈辱を味わわなければならないのか。


『私は、結婚も出産もしない。

もう昔の様に、私は貴女の思い通りにはならないわ。

……なってなるものですか。もしそうなれば、反吐が出るわ』


悪魔に告げたアンチテーゼ。


理香は繭子は、抗った。

繭子の計画に嵌まるつもりはないのだと、

自分自身の為にと、婚約者の前で宣戦布告をして見せた。


その姿を見て、繭子は思った。


心菜は“佳代子面を被ったの生き写し”ではなく、

本物の“佳代子の生まれ変わり”なのだと。



その羽の様な容姿も、強い芯を備えた中身も。

結局、理香は、心菜は、佳代子と一緒だ。

その優雅さも、物静かの中にある、己を変えない芯の強さも。



ただ一つ。冷静で平常心を保ちながら、

冷酷非道に人を奈落に突き落とす残酷さを持ち合わせている以外は。



_______心菜は、佳代子だった。


何故、自身は何もしていないのに、

異父姉と実娘に苦しまなくてはいけないのだろう。



(佳代子は邪魔だけだから、消しただけなのに)





頭を抱えて、髪を掻きむしりながら、髪を握り締めた。


(心菜。あんたは、あたしに恥をかかせてばかり)


理香は見事に自分自身の嘘を、偽りを、砕いて見せた。

博人に話し洗脳しつつあった“仲睦まじい母娘”という話を否定したのだ。

そして博人に繭子の内情の恥を綺麗に晒した。

全て水の泡と化してしまった事に歯軋りをひとつ。


博人も呆れているだろう。

あれだけ時間を手塩にかけて育て上げてきたというのに理香によって一瞬で打ち砕れた。

どうせ離れていくのも時間の問題だ。




(これは、あたしの役に立ちそうにはない)


役に立ちそうにないのなら、この女に価値はない。

価値も意味も成さない、ただ自分自身を苦しめる存在でしかない。

ならば、




(消してしまえばいい)



今度は、自分自身のこの手で。



______佳代子の時の様に。



そう思い直すと、繭子は平常心を取り戻した。

そうだ。元はと言えば彼女を消す為にここまで、呼び寄せたのだから。


にんまりと繭子の顔に、悪魔の微笑が浮かぶ。



見るだけで目障りな存在、

自分自身の邪魔しかしない無慈悲な人形等、要らない。


(心菜、あんたは墓穴を掘ったわね。

あたしの言う通りに生きていれば何もなかったのに)


あの女の苦しむ顔が見たい。

この自身の手で殺めるのだ。ずっと憎しみを抱いていた、

優雅に振る舞っている女が苦しむのは、きっとどんな快楽にも負けない。


嗚呼、早く博人が心菜を連れ戻して来てはくれないだろうか。


(あたしを奈落に突き落として、屈辱に晒した報復を貰わなくちゃ)


(じゃないとあたしが報われない。_____そんなの許さないから)



_______プランシャホテル。



プランシャホテル受付嬢に話を持ちかけているのは、

50代半ばのダンディーな端正な顔立ちと容姿を携えた人物だった。

端正な顔立ちはまるで西部劇に出てきそうな映画俳優なのに、

それを気にはしないラフなスタイルが彼のダンディーな雰囲気を更に強く漂わせる。


「エール・ウェディング課に勤めて居られる、椎野理香さんにお会いしたいのですが」


「貴方はその方の、お知り合いですか?」


受付嬢は困惑を潜めた面持ちで、問う。


健吾は困惑した。

椎野理香との関係は、森本繭子を貶める為の記者と情報提供者でしかない。

けれど、そんな内情は口が裂けても言えない。


困惑を見せたまま口を閉ざしている健吾に、

痺れを切らした受付嬢は


「すみませんが、

此方は社員が容認している関係者及び親族の方しかお通し出来ない規則なんです。

それに個人情報もありますし、明確なお知り合いと名乗って

頂けないと、無理です。申し訳ございませんが………」

「……………そうですか」


肩を落とし落胆した様子を見せながら、健吾は諦めた。

受付嬢の言う通りだ。名前を名乗らなければ、彼女には会えない。


踵を返して帰ろうとしている健吾の姿を、

偶然に居合わせた“青年”は見逃さなかった。


「すみません。今の人は?」


青年のやんわりと対応した受付嬢に、

作り笑いの微笑みを浮かべ、尋ねる。

目の前に現れた青年に受付嬢は驚いてしまった。

プランシャホテル理事長・高城英俊の一人息子である高城芳久の存在は知っている。


端正な顔立ちをした、爽やかでおおらかな人間だった。

偉大な存在の息子を前にして、受付嬢は言葉を失いそうになりながらも、冷静に口を開いた。


「エール・ウェディング課の椎野さんにお会いしたいと。

先日も訪れていたようです。ですが、明確なお知り合いの方とは名乗らかった為にお引き取りして頂きました」

「………そうですか。ありがとうございます」


青年は礼を言った後に、ロビーを抜ける。

事情は細かくも手短に聞いた為に、まだ彼に追い付ける筈だ。


(間違いない。あの時、理香がカフェで話し込んでいた相手だ)



プランシャホテルを出た後、芳久は辺りを見回し

先程、見た背中を見付けると速足で彼に近付いていく。

理香が消えた理由と事情を何かしら知っているかも知れない。


「_____あの」


健吾は気怠そうに振り返った。

振り向いた先に居たのは、優しそうな端正な顔立ちに、

身なりの整ったスーツ姿の長身痩躯の青年。



「突然、お引き留めしてしまい申し訳ありません。

僕は高城芳久と申します。椎野理香さんとは同僚に当たる人間です。


少しお時間を頂いても宜しいでしょうか」


そう丁寧に告げた青年は、やんわりと微笑みを浮かべた。








平成最後の投稿となります。

読者の皆様、拙い愛憎劇を読んで頂きありがとうございます。


物語は佳境へと差し掛かっております。


そして厚かましいお言葉となってしまう事は承知の上ですが

令和の時代となりましても、完結に向かって

執筆して行きますのでよろしくお願い頂けると幸いです。


最後に

平成時代に始まったお話ですが、

読者の皆様、読んで下さりありがとうございました。

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