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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第182話・辿り着いた先にあったもの



「待っていたわよ、心菜………」



理香は、心構えを整える。

そして、悟った。


博人が強引に車に乗せて別荘に連れてきたのは、

繭子と自身を引き合わせる為で、二人は共謀者だった。

きっと、繭子が博人に、自分自身を連れてくる様に行ったのだろう。




(…………そういう事、これは計画だったのね)



繭子と会うのは、いつぶりだろう。

JYUERU MORIMOTOを出禁にされ、森本邸の鍵を

返したのを切りに理香は繭子の前から姿を消した。


あの華やかしい容姿は、何処に行ったのか。

ほぼ白髪が混じった茶髪のウェーブが取れかけたボサボサの髪。

年相応に、それ以上に、皺のめり込んだ肌に痩せ細った姿。

異常に眼だけがギラギラと、研ぎ澄まされた刃物の様に光っている。


例えるならば、老婆。

否。これこそが悪魔の姿なのだろうか。


(……………これが、貴女のあるべき姿よ)


私利私欲に、絶えぬ欲望に溺れた悪魔の姿。





あるだけの荷物を、トランクケースの中に詰め込んで

芳久が高城家へ戻ったのは、数日前の事だった。

美菜と関わった期間はそれ程、長くはない。


故に彼女を知らないのだ。

ただ、自分自身が”先妻の子供“と疎まれている以外は。

芳久も美菜も、互いを良いように思っていない。


特に芳久は。



(この人が焦ったせいで、母さんは死期を早めた)



その理由が知りたい。


特に理由も無ければ、高城家に戻る事を避けていただろう。

ありふれた父親が理事長として満足感を得られる、理由を述べて逃げたに違いない。



けれど母親が亡くなった事の真相を知りたくて、高城家に乗り込んだ。




プランシャホテル理事長の愛人から正妻へ成り上がった事を悠々と思っているだろう。

今では立派な正妻の座に座り、のうのうと生きている。


高城家のリビングルームには、ソファーには美菜が横たわり、

キッチンでは、芳久が、パティシエ顔負けの

器用に林檎を持ち、大名剥きに綺麗に林檎が丸く剥かれている。


美菜は今、悪阻はピークとなり、

今は林檎しか受け付けないらしい。

なるべく食べやすい様に細工しながら、



高城家のリビングルームの空気は、なんとなくピリピリとしている。



プランシャホテル理事長となれば、家政婦を雇うくらい、簡単であろうに。

何故先妻の息子に面倒を見られる羽目になるのだろう。

先妻を押し退けて(ようや)く、理事長の妻の座に着いたというのに。

美菜にとって先妻の息子は、先妻を思い出す象徴である芳久は憎たらしい。


(………どうして、貴方に面倒を見られないといけないの)


屈辱。

腹立たしさ。

彼は帰ってこない、という事から清々して

理事長である夫と、生まれてくる子供との暮らしを望んでいたのに。

芳久が現れただけで、自身の未来予想図が崩れ去りそうに見えた。


(やが)て、器用に兎型に剥かれたくし型の林檎と

(すり)り潰し食べやすい形になった器が目の前に現れた。


口元を押さえながら、

上を見上げると微笑を浮かべた青年がいた。


「どうぞ、お腹の子の為にも。

食べれる時が来たら、口にして下さい」

「馬鹿にしてるの!?こんな固形物は食べれないわよ……!?」


林檎のすり下ろしたものはまるでデザートの様にあしらわれている。

美菜が文句を言ったのは、兎型の林檎の方だ。

此方も本物の兎の様な出来映えだ。


文句を言った美菜に芳久は、ああ、と言った感じだった。


「すみません。お気に触ったようで。

これは目の包容にでも、と思ったのですが…………下げましょうか」

「……いいわよ、今更!!あっちに行って頂戴!!」

「解りました」


青年の穏和な微笑は崩れる事は一切、崩れる事はない。

芳久はくるり、と背を向けて何処かへ行く。



美菜は再婚してから、ある事に気付いた。

芳久の表情は一切、変わらないと。

いつも柔らかな微笑。


それ以外は、見たことはない。

人間味があまり感じられない、造られた人形のよう。

だから美菜は芳久は、不気味以外の何ものではなかった。


淡々にこなす家事は、

家政婦のスキルを劣らない程の技量を備えている。

おかげで自身がこなす掃除よりも、家は塵や埃は一切見た事はなくなった。

それはまるで、妻として劣っている、というそんな屈辱を美菜に味わせた。



リビングルームから離れ、

廊下に行くと壁を背に持たれかかり、携帯端末を取り出した。




“理香、大丈夫?”


チャット型アプリに、メッセージを送ったが既読は付かない。

すぐに返信を返す彼女にしては、珍しいと最初は思っていたが

段々と疑念が芳久の中で、生まれていく。


(何かあったに違いない)


だとしたら、なんだろうか。


母親に婚約者、

その諸々の事情に彼女は巻き込まれたのではないか。

易々と信じられる相手ではない、という事を芳久は理解している。


だとしたら、


(理香には抵抗出来ない何かが、起きた)


きっとそうだ。

無断欠勤は続いている。それに彼女は天涯孤独故に

誰も彼女の事を知る事は出来ない。


(抵抗出来ない何かって、なんだろう)


そう思った刹那。

不意に脳裏に森本心菜の婚約者の男の顔が浮かんだ。

彼ならば、狂気に狂い、それを現実にする事は可能だろう。

それに森本繭子と二人で結託すれば、何とも言葉には出来ない狂気が仕上がる筈だ。


(考えただけで、恐ろしい)




そして思った。



___________彼女の身が、危ない、と。



そう悟った瞬間、背筋が凍り付いた。






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