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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第180話・燃え上がる復讐者への思い、距離を置いた思い



車は、スピードを上げながら

プランシャホテルの地下駐車場からあっという間に地上へと出てきた。

それはまるでジェットコースターに乗っているかの様な感覚で、流れていくスピードに思え呆気に取られた。

緩やかに流れていく景色を伺う事すら出来ない。





「……何処へ行くの」


「黙れ!! 君は何も言わずに僕の傍に居れば良いんだ!!」



少し据わった声音で、理香は

博人に問いかけた刹那、怒号が車内に響く。



(………駄目だわ。何を言っても聞きはしない)



理香は呆れながら、悟りを開いた。

狂気に狂っている相手に何を告げても、何一つ相手には届きはしないのだ。

尋常ではない相手に何を告げても、思いが届かない事は自分自身が一番、知っている。


野獣の様に狂気を交えた、

充血した目と共に血走った博人の表情は

悪魔に取り憑かれた様に思う。現に鬼の形相だ。

ハンドルを握り、スピードを上げながら彼は尋常ではない形相とスピードでただ運転している。


この運転する男にも、車にも、

脅威と共に警戒心が(ほとばし)るが、謂わば

密室の空間に閉じ込められている上に、自分自身は

結束バンドで両手を拘束されている以上は何も出来ない。


諦観と共に、恐る恐る見上げた車窓。


窓から見えるのは、綺麗な景色の筈なのに、

自分自身が窓からは伺えたのは全ての色彩がぐちゃぐちゃになった、闇色の世界だった。




(漸く(ようやく)、心菜を傍に置けるチャンスがきた)


何年、待ち望んだ事であろう。

自身の傍に森本心菜が、居るということを。

それが今、果たされている。


心の中での高笑いが止まらない。嬉しさが隠し切れない。

例え望まぬ形だとしても、今の博人の心は有頂天で高揚していた。


プランシャホテルから遠退くにつれ、多少なりとも

運転するスピードが少しばかりか緩やかになった。

プランシャホテルから離れ、自身の姿を見られる心配か無くなったからだろうか。

車窓から見たまま姿勢を変えず動かぬまま、理香は警戒心を募らせる。


尾嶋博人の表情が読めない。

先程、一本背負い投げをかましたが

なのにダメージを受けている様子も、痛がっている様子もない。

当然、理香は手加減はしていた。

無防備に打ち付けられた為に身体は痛いであろうに、彼はそんな素振りすら見せない。



車は何処へ向かっているのだろうか。

プランシャホテルから遠退いている、JYUERU MORIMOTOとも反対方向へ車は向かっている。


この車は、狂気を逸した彼は、

自分を何処へ連れていくのだろう。




_______プランシャホテル、エールウェディング課。





(理香、君は何処に行ったの?)


隣のデスクを見つつ、芳久は溜め息を着いた。

綺麗に整頓されたデスク。主のいないデスクは一際、寂しそうに見えた。


椎野理香は、神隠しの様に忽然と消えた。

無断欠勤も二日目を迎えようとしている。


(尾嶋博人の目的は、なんだ?)


尾嶋博人の目的は、

JYUERU MORIMOTOでの出世の野望でもなく、

森本繭子が支援していた弟の治療費でもなく、“繭子の娘”だ。

彼の、理香の執着は凄まじく狂気すら感じた。


(………でも、これは間違えたね。“尾嶋さん”)


芳久は博人は嘲笑う。

芳久は心の中で諦観を募らせる。

そして同情すら出来ない尾嶋に、呆れている。



(………君は理香の事を何も解っていないや)



婚約者の彼女を待ち続け、恋い焦がれているのは知っている。

尾嶋博人がどれだけ、森本心菜を愛しているのかも。

一時でしかないけれどあの光景を見て、尾嶋が心菜をどれだけ愛しているのか悟りを開いた。


けれど、この思いは単なる一方通行でしかない。

尾嶋がどれだけ愛していたとしても。



椎野理香は、近付こうとすれば、する程、離れていくのだから。


椎野理香を、愛しても、その思いが結ばれる事はない。


誰も彼女を愛したとしても、その思いは届く事はないのだから。


それは、現に彼女を一番近くで見てきた芳久が痛い程に解っている。

だからこの関係を崩さぬ様に一定の距離を置いて、ひたすらに思いは隠してきた。

彼女に悟られてしまったら、彼女は消えてしまう。





車は、何処に向かっているのか。

彼は、何故、自分自身を連れ出したのか。

何も分からないまま、理香は冷めた面持ちで変わらず車窓を見ていた。


重い沈黙が佇む車内。気まずい空気。



「“心菜”」


その刹那。舌打ちしたくなる様な衝動に駈られた。

理香にとって、心菜と呼ばれるのは癪に障る。

それも馴れ馴れしく_____。


車窓を見詰めていた視線を博人に向けると、彼は微笑んでいた。

それはまるでワクワクしている無邪気な子供を連想させる笑みだ。


「君が帰ってきたら、挙式をしよう」


「………………」


理香は、驚く。

しかし、同時に理解した。

博人は繭子のお気に入りで婚約者と指名したのだから、

それにそれ相当の準備も進めている筈だ。



だが式を挙げる、とは意外だ。


「きっとお義母さんも喜ぶよ。

それに君のウェディングドレス姿を見るのは楽しみだな」


(……………“あの人”が喜ぶ?)


飛んだ勘違いだ。

それを聞いて、理香は嘲笑う。

誰よりも娘の不幸を願い望んでいる女が、娘の晴れ姿を喜ぶ訳がないだろう?

きっと娘が幸せになる喜びよりも不幸になって欲しいと憎悪が生まれる筈だ。





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