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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第179話・予備人形と駒使い



それは、突然の事だった。

何時もの様に理事長室へ、父親に呼ばれた。





「実家に帰ってこい」


威厳な面持ちで両手で頬杖を着きながら、英俊は告げた。

今までに実家に帰るように促されてはいたが、

今回は違う。逆らえない威圧感がある様に感じる。

威圧感を持たせながら告げる理由が、芳久には分からない。


「…………あの、すみませんが、どういう事でしょうか」


物腰低く伺うと、

変わらず厳しい面持ちで英俊は告げた。


「美菜が悪阻(つわり)で辛そうでな。

今は大事な時期だし、今は安静にしなければならない。

最悪、流産ともなれば、美菜は悲しむだろう」


確か美菜は、妊娠3ヶ月目に入った頃だろう。

悪阻がきつくベッドに横たわる日々で何も出来ないのだという。




「だから、お前が助けになってやってくれ。

生まれてくるお前の弟か妹の為に、

兄として今の内に兄の背中を見せてやるんだ。


それに

義理とは言え母親を助けてやるのが、息子だろう。

彼女の助けになってやれ」



(たまに父親面して言う事は、それか)



一瞬、奴は何を言っているのだと殴ってやりたくなった。

理事長、父親の言っている事は正論だ。………“普通の家庭”ならば。

高城家は父親は独裁下。後継ぎの息子は家出状態、

不倫の末に妻の座を得る事が出来た後妻。

実母と実兄が死した今、高城家はバラバラに、

崩壊家族になったと言っても過言ではない。


要するに今回は、美菜の為に家事手伝いとして

自分自身が実家に戻り、家事等をしろ、という理事長である父親の命令か。


(要は高城家の家政婦となれ、って事か)


優子が亡くなってから、英俊は愛妻家となった。

優子が生きていた時は冷酷非道な亭主関白な男だったというのに。

現に美菜はこんなにも夫に愛され気遣われている。

優子だったならば、こんな気遣い等、されないだろう。


美菜からは邪険に扱われていたから、あまり芳久にとって良くは思えない。

それに美菜自身も先妻の子供である芳久を良くは思っていない。

美菜は自分自身の存在感を主張する為に先妻の子供を邪険に扱い、追い出す様に仕向けた。


本当は

そんな人物に追い出した同然の息子が帰ってきて

家の家事をこなすのは、良くは思えないだろうに。


それを知らない英俊は、当然の様に助けろという。

義母の為に、生まれてくる弟か妹の為に。



芳久は、己を嘲笑った。





(ほら、


どうせ俺は、この人にとって都合の良い、“高城の予備”なんだ)


何時だってそうだった。

後継ぎの兄の“予備の人形”として育てられ、

兄が亡くなれば自分自身が選ばれた。

けれどそれは、自身が予備の人形から選ばれたに過ぎない。


“予備の人形”として扱われる事は

もう終わったと思っていたけれど違ったようだ。

“高城芳久”として生きている限り、高城英俊の“予備の人形”

として生きなければならない運命(さだめ)らしい。


“駒使い”で、“予備人形”の運命は変わらない。

変えられない。






それとなく、芳久は呟いた。





「それは、僕が生まれる時も兄さんがやっていたんですか?」


そつなく、そう聞いて聞いてみる。

すると英俊は少しだけ考える素振りを見せながら首を横に振った。


「いや、和久の時は英才教育で忙しくてな。

手伝いよりも勉強に励んでいたか。

でもお腹にいたお前に語りかけていたのは覚えている」


「………母さんは……」

「悪阻で辛そうだったろう。しかし、

気丈なふりをしてそんな素振りは見せなかった。

美菜と違って悪阻自体も軽いものだったのだろう」

「…………………」


芳久は怒りを通り越して呆れた。

やはり亭主関白だった男は、身重の妻の事を気にかけもしなかった。

せめてでも、使用人が助けてくれていたのだろうか、

けれどこの男の言い分を聞く分には、そんな素振りはないようだった。


英俊に大切な人は美菜。

亡くなった妻等、どうでも良いに等しい。

現に美菜の妊娠中、悪阻を心配しても、優子の妊娠中等は

心配を寄せず、自分自身を身籠っていた優子の悪阻の事や妊娠中の事は記憶にない様だった。


(……………やはり、俺は生まれる前から、”予備人形“だった)


英俊に大事だったのは、高城家の後継ぎ、愛人だけ。

先妻の事、次男の事等は気にもならないに等しいのだ。

だから、軽々しいこんな発言が生まれるのだ。



拳を握り締めながら、芳久は告げる。



「………解りました。明日から実家に戻ります。

僕に出来る事がありましたら、全力でサポートさせて頂きますので、よろしくお願い致します」


そう告げて頭を下げた。…………便宜上だが。

そんな自身に忠実な息子に微笑みを浮かべ英俊は自慢気だ。

しかし芳久も負けていない。


芳久にも、誰も気付かせない企みが生まれたからだ。


(今に見てろ。あんたの化けの皮を剥がしてやる。

そして、母さんが何故、死ぬ羽目になったのか暴いてやる………)


これはいい機会かも知れない。

実母が何故、死期を早める事になったのか、知れる機会なのだから。

このチャンスを逃す訳にはいかない。


高城家に居座れば、

何故、実母の死期が早くなってしまったのか解るだろう。

否、奴が口を開くまで追い詰めて暴けるまで暴いてやる。


だって。

実母を死に追いやった首謀者が、現にいるのだから。




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