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悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第10章・復讐者の秘密、解けない愛憎の糸
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第178話・消えた復讐者、協力者の回想と恐怖



「椎野君が欠勤だと?」

「………はい?」



可笑しい。

何かが、可笑しい。


ここ数日、椎野理香の姿が見えない。

プランシャホテルに突如にして無断欠勤、連絡すら取れないらしい。

無断欠勤等は御法度(ごはっとう)、有給休暇消化を

一切しない真面目で優等生のウェディングプランナーが、

突然何も告げぬまま姿を消した。


「………参ったな。椎野君には家族がいないんだろう?

所在が掴めないと言えば、何も言えない……」


そう言って主任は、段落した。






気になり芳久も電話をかけてみたが一切応答が無く、

メールの返事も無し、チャット型メールも既読が付いていないままだ。

一応、彼女の住むマンションにも様子を見てきたが、

インターホンを押しても、全く応答は全く何もなかった。


律儀で連絡網等の返事に対しては

すぐに応答し返事を返す彼女にしては珍しい事だった。

否、彼女は優秀で生真面目な性格なので、

もしプランシャホテルを欠勤する時も、連絡を入れる筈だ。

現に酷く落ち込んでいても前回だって連絡を入れていた。


けれど、今は何の音沙汰もない。


椎野理香の行いに対して

ざわざわとするエールウェディングを目の当たりにしながら

協力者である芳久は思考を巡らせた。


昨日まで、彼女は何時も通りだった。

何の変化もなく、仕事人間で仕事一筋な彼女が、

無断欠勤するなんて有り得ないだろう。





(森本社長と、何かあったか?)


見えないところで、また母娘の勃発が起きたのかも知れない。

だが理香が復讐者となって以降、理香は力を手に入れ強気になり、

反対に森本社長は恥をかかされ泣かされてばかりで

“娘を虐待していた事”が晒された今、彼女には力はないに等しい。


それに理香は、JYUERU MORIMOTOを出禁されてから

実家の鍵も返し繭子との距離を置き始めた。


あからさまな接触は図っていないと思うのだが。





(………だとしたら、尾嶋博人?)



芳久の脳裏に、不意にそんな名前が浮かんだ。

森本繭子が用意した、“森本心菜の婚約者”。


先日、目の当たりにした理香と博人と言い合いのかなりのものだった。

尾嶋博人は誠実そうな外見とは反対に、

婚約者に対しては執着心を剥き出しにし、相手の話も聞かず一方的だった。


利己的で、自分勝手。

自身の執着している獲物は決して離さない。


遠くから傍観していた芳久も胸騒ぎと警戒心を

感じさせる人物だったから、隅には置けない警戒人物だろう。

近頃、現に理香は博人の存在に困惑を見せていた。


確かに困惑の色は隠せない。

自分自身の婚約者とは言え、何の接点もなかったのだから。


(やが)て芳久は疑いが浮かぶ。



(じゃあ今回は、森本社長ではなく、

尾嶋博人に理香は振り回されている?)


見たところ、博人は繭子以上に柔な人物ではない。

あの会話のやり取りを見ているだけでもひやひやとして

常に胸騒ぎがするというのだから、理香は博人に振り回されているのかも知れない。




………それに、芳久には尾嶋という名前に見覚えがある節があった。



(………尾嶋博人?)



(何処かで聞いた事がある)


何故か初めて聞いた気がしない。

芳久のデスクに向き合うと、これから式を挙げる、

自分自身が担当する人物の名簿を刻まれたファイルを取り出した。


一枚一枚、丁重に新郎新婦となる人物の情報を吟味しながら見据える。

そして、


(…………あった)



胸騒ぎする予感は、的中した。


高城芳久が担当するウェディングプランに、

尾嶋博人の名前と、椎野理香、否、森本心菜の名前があったのだ。


“新郎:尾嶋 博人 (29歳) 職業:宝石会社勤務

新婦:森本 心菜 (26歳) 職業:宝石会社勤務



『奥さんが帰ってきたら、サプライズに式を挙げたいんです。

だからウェディングプランは年密に早く計画して置きたくて』


半年前の初夏の事だろうか。


妻となる彼女にサプライズの挙式を挙げてあげたい、

という青年がエールウェディングに来ていたのだ。

何とも今は妻となる女性とは遠距離恋愛で出会えないそうで、

微笑みを交えてそう告げる言葉と眼差しは切なそうだった。

あの青年の姿と説得力のある言葉は覚えている。


見るからに誠実な男性で、

その姿は彼女を一途に思う青年に見えた。

婚約者を一途に思い続ける人は現実にいるのだと関心すらしていたのに。



それが、まさか尾嶋博人だったとは。



あの頃、椎野理香は、仲の良い同僚でしかなく、

彼女がまだ実母へ復讐を走らせる事もなかった。

だから、他人事だったのだ。


彼は既に、心菜が戻ってきたら

逃れられない様に全てを仕組んでいた。

彼女を自分自身のものにして、自身から逃れられないように。


紳士の様な青年は、

本当はあの頃から、狂気を秘めていた青年だったのだ。


(…………尾嶋博人が、怪しい。何かに絡んでいる)


尾嶋博人ならば、理香に危害を加えかねない。

狂気を孕んでいるのならば、尚更の事だ。

尾嶋博人は要注意人物だ。



協力者だったのに、自分は何も出来なかった。

それが、密かに腹立たしい。


(………理香、ごめんね)


心の中で理香に詫びる。そして、


(………今度は、俺が、君を助ける番だ)




彼女を繭子から、博人から関わらせる訳にはいかない。


このまま素通りしてしまったら、

彼女は薄幸で、不幸のレールを進んでしまう。



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