表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪魔に、復讐の言葉を捧げる。  作者: 天崎 栞
第3章・母娘の愛憎
18/264

第15話・再会とともに




透明なガラスのエレベーターからは、夜の夜景が一望出来る。

濃紺色の空に光るネオンの光りは、色鮮やかに見えた。

夜の帳に包まれている中で灯る明かりの街並みは、絵に書いた様に綺麗だ。

街はまだ眠る事を知らない。寧ろ、今から輝き始めるのではないか。


それを目に焼き付けながら、理香は心の中で溜め息を吐く。

エレベーターは、物憂げな理香の心とは反対に、上へと着々に進んで止まらない。


気が、心が重い。

自分自身は、どうなってしまうのだろう。

けれど誓いを立てた心の決心は、変わらないのだから。


ただ、あれから12年。

此方は“理香として”容姿も性格も変わった。

果たして理香を見て繭子は、実娘だと、心菜だと気付くのだろうか。

けれど。


(心菜と気付かれても構わないわ)


それほど、腹を括った精神を、彼女の心の中にあった。




固い決意を改めて誓った刹那、音色が弾む。

それは最上階に着いたという合図で、一緒に付き添ってくれているコンシェルジュに、どうぞと案内された。


煌々としたシャンデリアが照らす淡い光りの廊下。

コンシェルジュの後ろを歩いて行く中で、理香は無性に

心臓の鼓動が聞こえるのを実感して、次第に生きた心地がしなくなるのを自覚する。


歩いている以上は、

あの悪魔がいる部屋に近付いているという事だ。

心は重たいが、足は自然と進んでいく。理香にとって不思議だった。


(今更、足を止める事は出来ない)



否、引き返して仕舞えば

自分は抗うのを止める事になってしまうだろう。

逃げる。そんな選択肢をするつもりは無かった。



こんこん、とコンシェルジュが慎ましやかにドアをノックする。

部屋の中から聞こえてくる、どうぞという声。

遂にと思うと、心臓が強く存在感を示し始めて固まりそうになった。



「椎野様を、お連れしました」

「そう。ありがとう」

「じゃあ、私はこれで」


淡々としたコンシェルジュは、そう言うと帰っていく。

すれ違い様に理香は、一礼して礼を示した後で閉じたドアを見詰めた。

心臓の動悸が止まらないまま、ちらりと部屋の方に視線を向ける。



相手は窓から見える夜景を、 見詰めている。

その後ろ姿と雰囲気は、あの頃と変わらない威圧感を感じた。

露出度の多い豹柄の豪奢なワンピースドレスに花柄のストール。

黒のストッキングに高い深紅のピンヒール。


ワイングラスに注がれた鮮やかな紅色。

それを片手に脚を組みソファーに座る彼女はまるで、セレブの貴婦人の様だった。



繭子は近付く相手の存在感を悟ると、立ち上がり




「________貴女が、椎野理香さん?」



ワイングラスを起き振り返ると、そう問いかけてくる。

肝の据わった声に、思わず背筋が凍りそうな感覚。

相手が此方へと向いた事で、その薄々感じ取っていた容貌が明らかになった。


当時と姿は変わらない。

やはりただあの頃と比べて、皺が増え随分と老けたか。

否。12年ぶりなのだから、当然と言えば当然の事で当たり前の事だ。

自分自身が変わった様に、時を重ねるにつれ相手も変わるのだ。


カールした髪、釣り目気味に黒く縁取られたアイシャドウ。

厚く塗られたファンデーションに、紅い口紅。

大胆にスリットの開いたワンピースドレスからは脚元、胸部には胸元が伺える。



染みや皺等の、加齢を隠す為にか

あの頃に比べたら、元々から厚化粧だった化粧も更に厚くなった気がする。

けれど、その雰囲気もその身をブランド物で着飾った姿も微塵も変わらない。


威圧感を感じながらも、

その瞬間に恐怖の入り混じった感情ではなく

心の底に閉まっていた筈の憎しみと冷たい理性が、理香の中で溢れ出し始めた。

居るのだ、この目の前に悪魔という名の実母が。



(_______貴女は知らない様ね。“私”を)



繭子は、気付いていないようだった。


目の前に立ちはだかる理香が、心菜という事に。


繭子の顔を見た途端に

沸き上がり始めた憎しみが、止まらない。

恐怖と共に抱いてきた長年の瞬間が今、此処にある。

きっと理性が無ければ、きっとこの感情が爆発いただろうが____。




能ある鷹は爪を隠す。

憎しみの心情を内に隠し、理香はそっと微笑んでから


「初めまして。

プランシャホテル・エールウェディングから参りました、椎野理香と申します」


背に流したさらさらの髪が、はらはらと落ちる。


そう、頭を下げて深くお辞儀した。

他人と認識されているならば好都合だ。それを利用し

平常心を保って、他人の振りをするのだ。そうすればいい。

それが今、自分自身に出来る細やかな仕返しなのだから。


「ご丁寧にどうも、顔を上げて頂戴」

「…………はい、お招きありがとうございます。光栄です」


ちゃんと微笑んでいるだろうか。

と思いながら、表向きは愛想良くしてみせる。

本当は憎悪から腸が煮え繰り返りそうになって堪らないが、

それも笑顔ごと封じ込める。


憎しみの感情は今、そっと心にしまっておいた。




「知っているでしょうけど、あたしは、森本繭子よ。



貴女……見るからに控えめで清楚で品の良い人なのね。

貴女の評判は聞いているわ。凄い方なんですってね。

前に会えなかったから一度、お目にかかりたかったのよ。

聞いていた通り、あたしの想像通りの人だわ」

「……そんな、勿体ないお言葉です」



やはり良かった事に、

悪魔は理香の事を自分自身の娘だとは気付いていないらしい。

だが気付かれない事________それがせめてもの救いだ。


しかし、繭子の顔と言葉を聞いた途端に

何処か腹の底から気持ち悪い気分に、理香は襲われた。

きっと慣れない事を、繭子が自分を()(たた)えられたからだ。


(……………罵倒しかしなかった癖に)



(貴女は、”私”を他人だから、そんなに微笑んで誉めるのでしょう?)


理香は繭子の前に凛としたまま、真っ直ぐに立っていた。

そんな理香にソファーに座り繭子は脚を組んだまま、語りかける。




「見るからに理知的ね。優等者だと解るわ。

貴女の成績は、

プランシャホテルでもずば抜けて優秀と聞いているから、

あたしは、貴女に一目を置いていきたいと思ってね。


今回の提携経営が成立したのも光栄と思って、

これからよろしくね、椎野さん」


そう言って、手を差し伸べてくる。



あの頃とは、全く違う(かお)

自分自身がずっと望んで求めていた悪魔の微笑み。

やっぱりだ。力のある者に一目置いて執着しようとする心が見え見え。


(やっぱり、貴女は____)



(……………“自分自身の為ならば”高尚(こうしょう)ね)



「________よろしくお願いします」



繭子という人間を悟っていく度に、みるみる心が冷めていく。

自己欲に満ちた、その為には何の手段も(いと)わない魔性の女。

そんな悪魔に理香は内心、微笑する。



(________覚えて置きなさい。


これから、私が貴女のものを奪う番。

貴女が私にしてきた仕打ちを、そのままお返しするわ。

いつか、貴女が泣く羽目になるまで追い詰めてやる)


そう微笑んで、理香は手を重ねる。

微笑んだ振りの中で、理香は心の底から湧いてくる憎悪。

初めて手を繋いでから滲み出るのは、恨み、憎しみ、哀れみ。

それからの感情から沸き上がる、独特の気持ち悪さ。


(______貴女は忘れたとしても、私は忘れない。

貴女から受けた理不尽な、あの仕打ちを………)


改めて復讐の誓いを実感し腹を括った後に、

心の奥底では、そう思いながら何も知らぬ相手を嘲笑っていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ